第5話 野宿

 ベイクとイーナは日も落ちたので、森の探索は諦め、野宿する事にした。

 ベイクが火を起こし、側の岩の崖に背を持たれかけ、ブーツから解き放たれた足の指をパラパラと解していた。イーナは初めて寝る大地の固さを感じながら、果たして地面に布1枚で寝られるかしらと、少し億劫になった。昔父親に叱られた時に馬小屋の藁の中で寝た事はある。しかし朝起きると自分は布団におり、夜中に父親か母親が迎えに来たようだった。


 「なあ」ベイクは珍しく自分から話を切り出した。


 「ん。何?」イーナは久しぶりに長距離を歩いたのと焚き木が暖かいので目蓋が重かった。


 「なんであの団長は俺らを追跡して来たんだと思う?どんな奴なんだ?」


「あいつの名はサージ。あの集落の村長の孫なのよ」イーナは両手で両膝を抱えた。焚き火で膝が熱くなっていたのでガードしたのだ。


 「両親、つまり村長の子供は彼が小さい頃亡くなったの。長に引き取られて、十代で町の、私と同じアカデミーに入る為に出たの。丁度私は入れ違いでね。町に居るのは知っていたけど、何も噂とかは聞かなかったわ。多分アカデミーを出てからは町に居なかった。私が集落に帰った頃にはもうそこで自警団を立ち上げてて、馬で森を走り回っていたわ。自信家で鼻に付くところもあるけど、集落の皆んなは守ってくれると喜んでいたわ」


「訓練されているのか」ベイクは火に燃料を放り投げた。


 「スペル・ブレイクを使えるはずよ。腕前は分からないけれど。それが奇妙なんだけど、彼には何故か蓄えが尽きる事無くあって、働いている所を誰も見たことが無いの」


ベイクは炎を目に照らしながら、思案の闇に耽っていた。


 「何か、見られてはいけない物が森にあるのか」


「見られてはいけない物?」


「やはり、俺たちを探していたのは妙だ」


「そうね。小屋に抜刀して入って来たものね。あ、あの穴蔵の人の服の山?」


「わからん。それかも知れんし違うかも。しかし、それだと仮定したら...。俺らが、何か掴んで勘ぐってると、思い込んでいるかもな」


「よく分からないわ」


「今まで森で何人の犠牲者が?」


「数えてないわよ。違う集落の人間や行商、町から来た人間も入れたら30人くらいかしら」

「誰が見つけてくる?犠牲者を誰が発見する?」


「もちろんパトロールしてる自警団よ。狩りをしてる人が見つけてくる事もあるけど」


「誰が遺体を引き揚げに行く?」


「自警団よ」


「遺体を治めたり、身元を確認しに出かけるのは?」


「自警団よ」


 「つまり?」


「なぞなぞ?分かんないわ」


「犠牲者と1番長くいて、自由に出来るのは奴らなんだ」


「だから何?」勿体ぶられてイーナはイライラした。


 「バラバラに食い散らかされた遺体の所持する金貨の枚数を気にする家族友人なんぞまずいない。気にしても森の何処か草むらにでも散らばっていると思う」


「まさか」


「気が遠くなるが、森の何処かにかくし場所でもあるんじゃ無いのか。だから俺らを勘ぐった。あの穴蔵、あれはガメた衣服や所持品を入れる穴だ。まあ、価値基準が物から現金に変わったのかも知れないな」


「墓泥棒みたいな事をしながら遺体を引き揚げ、その上悪魔狩りをして英雄気取りしてるって言うの?」


「なんか裏付ける事を思い出したりしないか?」


イーナは黙った。「何も無いわ。まあ、確実なのはあのサージは嫌いって事だけよ。なんか悪い事してそうな感じがするわ」


「それで十分さ。但しそれはまた違う話で、1番は人食いの化け物を探してとっちめる事だな」


「そうね。子供を育てたって事は、複数居るってわけね」

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