拡散する種と先輩と後輩くん

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君は“種”を知っているかい?」

「種?アサガオとかのですか?」

「いや、植物の種じゃなくて、“気持ちの種”さ」

「気持ちの……種………?」

「そう、気持ちの種。なんとも不思議なものだよ。一度心の中で‘それ’が生まれたら、もうどうすることもできない。時間が経つにつれてどんどん広がっていく。心だけじゃなくて、自分の行動、考え、自分のこと全てに影響をもたらすようになるのさ。ゆっくりと種が芽を出して、それがどんどん大きくなって………終いには自分では抑えきれなくなって、溢れ出してくるのさ」

「……」

「本当に厄介なものだよ。今もこうして君と話しているだけで嬉しくなる」

「……それは………」

「君の近くにいるだけで鼓動が速くなって、それでいて、なんだか落ち着いた、とても幸せな気持ちになる」

「………」

「もっとこの時間が続けばいいのにって思ってしまう」

「もっと、もっと、もっと、ずっと一緒にいたいって」

「そんなことばかり考えてしまうんだ」

「それこそ一日中ね」

「朝起きたらすぐに君のことを考えてしまう」

「寝る時もその日の君の事を思い出す」

「眠っている時も、君の夢を見る」

「もうどうしようもないんだ」





「後輩くん」

「私は君が好きだよ」





「あ、はい」




「………」

「………」

「あ……」

「……」

「あ、はいィィーーーー⁉︎」

「……」

「君は私がどれだけ悩んだか知らないだろ!どうしても伝えたくてずっと考えていて今の関係が壊れるんじゃないかって不安で、それでもやっぱり伝えようと決めて、ようやく今日覚悟を決めて、ドキドキしながらも必死に言葉を紡いでやっと出てきた言葉を聞いて、『あ、はい』だと⁉︎」

「えぇとですね……」

「そんなさっぱりしたところも好きだけど、いくらなんでも冷たすぎるんじゃないかい⁉︎」

「先輩」

「なんだい!」

「僕も好きです」

「へ?」

「好きです。先輩」

「へ??」

「僕は先輩のことが大好きです」

「ほぁ」


「……僕にも気持ちの種が生まれてたみたいです」

「前からずっと」

「大好きです」


「ちょ、ちょっと待て、それはあれか、先輩として好きということか、あくまで…」

「恋愛の意味で好きです」

「ひゃーー!」

「先輩落ち着いてください」

「馬鹿野郎!これが落ち着いてられるか!」

「先輩、キャラ変わってますよ」

「聞いたか!後輩くんが私のことを好きだって!」

「言ったの僕です」



「やっと落ち着きましたか、先輩」

「あぁ、もう大丈夫だよ」

「それは良かったです」

「……今ので嫌いになったりしてない?」

「ポンコツなところも含めて好きですよ」

「ぽ、ポンコツって言った!でも好きって言われたから嬉しい!」

「情緒が恐ろしく不安定ですね」



「ふぅ……」

「今度はちゃんと落ち着きましたね」

「あぁ、さっきのは忘れてくれ」

「しっかりと脳裏に焼き付けておきます」

「くっ……」

「先輩のことはなんでも忘れたくないですから」

「よく真顔でそんなこと言えるね⁉︎」

「いやでしたか?」

「………いやじゃないけど」


「それにしても『あ、はい』はないだろ」

「……それはあれです」

「何?」

「好きって言われて、びっくりしたというか、嬉しかったというか、恥ずかしかったというか、その……」

「……」

「……」

「ちょっ、そ、そんな顔しないでくれ、こっちまで恥ずかしくなってくるだろ!」

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