学生修道士達の不道徳恋愛
たけのこ
第1話.告白
「──先輩好きです」
突然に目の前に現れた……おそらく制服のリボンの色が青である事から後輩だと思われる少女がそんな事を言う。
もちろん俺と彼女に面識なんてない……学年毎に校舎自体が違うのだから、それも当たり前だろう……むしろ向こうがコチラを一方的に知ってるだけであろう事が酷く気持ち悪く思える。
「いきなり何を言ってんだ」
はて? おかしいな……俺はこんな街を歩けば十人中百人が振り返る様な綺麗な子との接点なんか無かったはず……日本人に有り触れた色だと言うのに、彼女の黒髪と同色の瞳だけはなんだか普通とは違うように思える。
……ブルーと青が厳密には違う色らしいし、専門家に言わせれば本当に違うのかも知れない。
「ずっと前から好きでした」
睫毛も長く、きちんと整えられた眉毛と高い鼻梁によって魅力的な表情を豊かにしている……顔だけじゃない。
女子の平均身長よりも数cmほど高いが、それによって大半の男子と程よい身長差から見上げられる目線……見下ろす事で嫌でも目につく突き出た胸と尻……体型や長い手足など、まさに完璧と言える。
……もちろん、そんな美人とは違って俺はボサボサの頭に目の下には濃ゆい隈……身長はそれなりだが、猫背なためにそれが目立つ事もない……断じて彼女の様な子から選ばれるような男性じゃない。
「頭おかしいんじゃないか」
いきなり現れてはどう客観的に見ても、主観的に見ても、自分に不釣り合いな男性……それも学年が違い、お互いにお互いの事もまったく知らない段階で告白など……頭がおかしいのではないか?
それとも彼女の容姿の事だ……あまりに色んな男性から言い寄られ過ぎて、普段は食べない様なゲテモノに手を伸ばしてみたとか、そういう感覚なのか?
「私は尽くすタイプです」
その言葉が本当かどうかは知らないが、仮にそうだとすると、彼女は本当に世の男性達の理想を詰め込んだ人形の様だ……盛りすぎて現実味がない。
そもそも尽くすタイプではあっても、どうやら彼女は
いや……彼女の事だから、そう言えば大抵の男は落ちたから言ってるだけの可能性もあるな……というかその可能性が高いな。
「別に聞いてないから」
……さて、この場をどうやって切り抜けようか? いきなり目の前に現れては空気の読めない、頭のおかしい告白劇を繰り広げる彼女をどうにかして落ち着かせなければ……俺の残りの学生生活は灰色どころでは済まないだろう。
今までだって謙虚に暮らして来たのだ……授業では教師に当てられないように必死に目を逸らし、体育では目立たないように隅に自主的に移動し、休み時間は机に突っ伏して寝たフリ……昼飯だって便所飯を甘んじていたこの身である。
早急に目の前の彼女の口を封じるか、この場からなんとかして逃げ出さなければ、そんな学生生活も終わりを迎えてしまう。
……いやまぁ、個人的には終わっても良いのだが、目の前の彼女が原因で……となると、何となく癪に障って気に入らないな。
「何でもします」
「あっそ」
じゃあさっさと回れ右して帰れ──とか言っても無駄なんだろうなぁ……俺なんかに告白紛いの事をした理由は皆目見当もつかないが、なにかを要求したいからであろうし……それがなぜ告白になるのかは理解不能だが。
……いや、そもそも彼女自身も混乱しているという説はどうだろう? 俺が突然の事でビックリしてるんだから、彼女自身もそうなのではないか? 誰だってこんな現場を見たら普通は錯乱するものだろう……だってここは──
「だから──五十五kgの肉塊と刃物の処理はお任せ下さい」
──殺人現場なのだから。
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「「……」」
あれから5分程度だろうか? お互いに何も言葉を発さないままに、口を噤み続けている……だってそうだろう? いきなり犯罪の片棒を担ぎますなんて……それも彼女の様な、この世に産まれた時からの勝者である様な女性の口から飛び出たのだから、警戒くらいするだろう。
彼女の方は……祈るように両手を握しり締め、コチラを見上げるように見詰めているが……相変わらず何を考えているのか、さっぱりだな。
「……あの、先輩」
「……なんだ?」
おっと、彼女の事を考えていたら本人から声を掛けられてしまったな……今度は何を話し出す? どんな言葉で俺を混乱させるつもりだ?
不安そうな表情でありながら、コチラを心配する様な面持ちの彼女に警戒しながら返事を返す……いざとなったら、この包丁で目の前の女も殺るか。
「その、それ……」
「……どれだ?」
振り返えなければ分からないが、おそらく彼女が指差した場所には死体が転がっているだろう……今さらながらに怖気付いたか? それとも後ろを振り返ったところで背後から襲う──いや、普通に考えて助けを求めにこの場から逃げ去るのが目的か。
だとしてももう遅い……お前はこの場を見つけた時点で声を出さずに、速やかに大人を呼んで来るべきだった……それをのこのこと現れては、頭のおかしい告白劇を繰り広げたのだから……もう逃げられないし、逃がさない。
この五分の間に俺も混乱から立ち直ってきた……少なくとも彼女から秘密厳守の確約が取れない限りは、この場から逃がさない。
「それ、死体と包丁の血液……早く処理しないと、手遅れになりますよ?」
「……どういう事だ?」
「? いえですから、早く証拠隠滅しないと痕跡を消せなくなりますし、人も来てしまうかも知れませんよ?」
…………あぁ、なるほど……コイツ、
さて、そうなるとどうやってこの女を殺すか……そのまま首に包丁をぶっ刺すのが一番手っ取り早いし、悲鳴も上げられないから楽なんだが……抵抗されても面倒だしな、隙を作るか。
「……じゃあ、これらの処理を頼めるか?」
「! えぇ、もちろんです!」
とりあえず、ここは奴の言う通りにさせてやろうじゃないか……油断はできないが、ほんの少しでも隙ができればそれで良い……それで殺せる。
「そうか、それは助かるな……じゃあ理科準備室辺りから酸素クリーナーを持って来て貰えるか? この血溜まりを掃除する」
ほら、出入口はお前の背後だ……理科準備室に行くにはどうしても俺に背を向けなければならない……目的地に辿り着くまで後ろ歩きを続けられる人間はそう居ないだろう。
そして一瞬でも背を向けたその時がお前の最期だ……脊椎を断つ勢いで、お前のうなじに包丁を突き立ててやる。
「いえ、必要ありませんよ?」
「……なんだと?」
扉には向かわず、そのまま真っ直ぐにコチラへと……正確には俺の背後の死体へと進むという、想定外の行動を取る奴に警戒心を高める……道を空けるフリをして距離を取り、注目しているフリをして身体の向きを変え、常に正面を奴に向ける。
死体と俺の距離が近かった為に、奴の背後ではなく、斜め後方という立地が不愉快だ……この立ち位置では殺そうとしても直ぐに気付かれる。……かといって完全に背後に回ろうとしても不自然だ。いっその事、悲鳴を上げられるのは仕方ない事として割り切るか?
「……どうやって処理をするつもりだ?」
証拠隠滅をすると言ってからこの行動……出会った当初からコチラの虚を突き、常に混乱をプレゼントしてくれる凄腕エンターテイナーである彼女の事だ……懐からいきなり拳銃を取り出しても驚きはしない。
仮に俺を殺す事だったり、驚かせる事が目的だあったとしても、理由が思い付かないが……狂人の思考なんて理解して堪るものか。
「実はですね、私って──」
ほら来るぞ……両腕を死体に翳す事にどんな意味があるのか分からんが……そちらに注目させておいて、別のところで仕込みを終わらせるマジシャンの手口かも知れん。
十分に彼女の他の部位や、別に場所にも気を配って、これ以上の不意は突かれないように──
「──超能力者なんですよ」
──死体ごと血溜まりを
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