拡散する杮の種。

arm1475

拡散する杮の種。

 ポケットの中には柿の種がひとつ

 ポケットを叩くと柿の種がふたつ

 もう一回叩くと柿の種がみっつ

 叩いてみるたび柿の種が増える


「何この雑な替え歌」

「コレ、増えてんじゃなくて細かく砕けてるだけじゃね」

「まぁそうなるわな」


 人類はかつて無い局面を迎えていた。

 柿ピーにおける、柿の種とピーナツの割合。

 米菓の完全な比率を巡って世界を巻き込んだ争いが始まろうとしていた。

 

「何か急に始まったぞ」

「急や」


 現時点では柿の種とピーナツが6:4という保守黄金比率派が優勢であったが、近年、柿の種を満喫したい新勢力の7:3派が勢いを増して保守層の切り崩しを勧めていた。それ以外にはピーナツもきっちり楽しみたいハーフ派、そして柿の種オンリーとピーナツオンリーという過激派も肉薄していた。


「種オンリーはまだ分かるが、ピーナツオンリーってそれ柿ピーとは言わねぇんじゃ」


 一方、全派に存在する、柿の種にチョコを掛けるスイーツ原理主義者が女性層から高い支持を受けていたが、ソレを邪道と見做す辛口派は柿の種にわさびを塗り込む事で辛党の支持を集めようとしたが、その鼻を突く辛さは皮肉にも支持を集める妨げになってしまった。


「柿の種にチョコ掛けるくらいならピーナツにチョコ掛けた方が良くね?」

「ひょっとして: チョコピー」


 柿ピー闘争の中でし、様々な試行錯誤が繰り広げられていた。ある者は柿ピーを荒く砕いた破片で衣を造った唐揚げレシピを考案し、またある者は炊き込み飯の具に用いるレシピを考案した者もいた。


「流石にそれはないわー」

「柿の種自体はぶっちゃけ餅米なんだし、ピーナツの炊き込み飯と思えば」

「柿の種の存在意義とは」


 やがて急進派は先鋭化したあまり、とうとう50センチを超える巨大な柿の種を生み出す事に成功してしまう。


「いやそれタダのせんべいだよね!」

「それに見合うサイズのピーナツが必要か……」

「いや要らないし、そんなん無いし!」

「そもそもなんで柿ピーなんだろ」

「柿の種って壊れたあられの金型を再利用して出来たんだっけ。それが柿の種っぽく見えたから柿の種って名前で売ったらヒットしたという」

「それに何故ピーナツが」

「諸説あるけど、基本はピーナツはおまけ扱い」

「ピーナツは要らない子」

「そうは言うが、柿の種自体辛いからねぇ、ピーナツで辛み味が調整出来るから」

「ピーナツ以外で代用出来るものはなかったんだろうか」

「グリーンピースやカシューナッツを入れたものはあるね。でもサイズ的にちょうど良いからねぇピーナツ。安いからコスト的にも最適かと」

「つーか、柿ピーの種分って実際はピーナツのほうだよね。あれ詐欺商品じゃね」

「詐欺ゆうなや」


 結果、柿ピーにおけるピーナツオンリー過激派は闘争から淘汰される事となった。


「いやいやいや勝てると思ってたんかピーナツオンリー派」

「柿の種オンリー派は高笑いしただろうね」

「そんな事は無いぞ助手」

「はい?」

「我が研究所では、柿の種の味がするピーナツの開発をしているとを忘れたか!」

「何いきなり」

「……だってカクヨムにはラブコメはあってものジャンルが無いからこれ無理矢理SFにするしかないじゃないか」

「メタネタぶっちゃけんなオメー」

「じゃあ……ワシと助手のラブコメにジャンル変更する?」

「断固拒否します博士。ていうか今までコレの前振りだったんですか」

「さて、ピーナツだが、落花生を茹でたものだという事は言うまでも無いだろう」

「無視かい」

「落花生は面白い花でな、花が咲いて自家受粉したあと地面に垂れ下がって土の中に潜り結実、つまり実が成るんじゃ」

「落ちた花が生る、で落花生とはよく言ったもんです。でもそれをどうやって柿の種味に?」

「土の代わりに柿の種を敷き詰めておくんじゃ」

「おいちょっとまて博士、ここにあるこの妙に赤い土ってまさか」

「柿の種を潰して作ったものじゃ。落花生を育てながら土も食べられる。エコじゃろ?」

「こんな塩っ気の強い土で落花生なんか育つかいいいい」

「おおっ、通りで育たんわけじゃ」

「敷き詰めた時点で気付けや」

「これだけの柿の種勿体ないなあ……喰うか」

「あきらかに湿気てるでしょコレ」

「何、炊き込めばみんな同じ」



「……博士、やっと退院しましたか」

「まさか急性胃腸炎になるとはなぁ……下痢と嘔吐が止まらないってあれほど恐ろしいとは……駄目だね、湿気た柿の種の炊き込み飯は」

「それだけじゃ無いと思うんですがアレは」

「いやいや、ピーナツが柿の種から覇権勝ち取るためにはワシはなんでやるぞ」

「柿の種に勝たなくても普通に菓子の中では人気あるじゃ無いですか」

「添え物としての話ならな。チョコに絡めたり、クッキーに入れたり、ベビー○ターラ○メンに混ぜたりと、主役を引き立てる役ばかりなのが不憫で不憫で」

「むしろその万能ぶりは主役をとっくに食ってると思うんですが」

「ワシもなんそう思ってきた」

「じゃあこの研究そろそろ締めましょう」

「そうはいかん。まだワシは柿の種を許してはおらん!」

「急性胃腸炎になったのは柿の種のせいじゃないとは思うんですが」

「だいたい柿ピー一袋に7割も、本物のピーナツを差し置いて種を偽るあられ風情が入ってるなんて許しがたい」

「正直そこどうでもいい」

「そこでじゃ ワシはコレを発明した」

「博士、私目が悪くなったんでしょうか」

「塩っ気の強いものばかり喰ってるからじゃ」

「あんたに言われたくないわ。ていうかこの資料に書かれている文字」

「ふむ?」

「『杮の種』」

「うむ、『杮の種』」

「……」

「どうした具合悪いのか」

「具合悪いのはアンタの目じゃねぇのか」

「何を怖い顔して……お前勘違いしてるぞ」

「じゃあ何が成るんですか」

「ほら、これ」

「……木材の屑が何か?」

「杮じゃ」

「…………」

「何じゃその目?」

「……柿ですよね」

「よく見てみぃ」

「……柿ですよね」

「いや、杮じゃ」

「これ柿じゃ無いんですかっ」

「いや、だから、杮」

「……ん?」


 ひょっとして: こけら


「助手よ、何、頭抱えておるんじゃ?」

「漢字の違いはともかく! こんな木っ端が成る植物に何の意味がっ!」

「これを柿の種に似せた加工してな、柿の種に混入させる事で柿の種の評判を落としてやるんじゃ」

「わけわからんわその嫌がらせ! つか良く作れたなソレ!」

「褒めて褒めて」

「褒めてないわ! てかこんなもの作ってどうすんだ!」

「繁殖力の強い蒲公英たんぽぽの遺伝子を操作していたら何となく出来てな。元々は木材の技術に転用出来ないものかと思っていたが木っ端程度のものしか作れなくて、折角だからこれで柿の種作れないかと」

「こんな無駄にやべーもん作るな! 処分しますよ!」

「処分?」

「はい、処分です! 蒲公英の繁殖力知ってるでしょ!? あんなものが花じゃ無くこんな木材が道ばたに成っていたら危ないですよ!」

「うーん」

「何困った顔してんですか博士」

「研究所の裏庭で育てて追ってな」

「裏庭にあるんですね、じゃあ除草しましょう」

「ワシが入院している間に実が成っておったらしく」

「…………はい?」

「もう種子全部、風で散っておった」




「ところで博士、まさかとは思うんですが」

「やっと気付いたか。拡大したらバレると思ってヒヤヒヤしておったぞ」

「タイトルのアレ、柿で無くて、つまり」



                       おわり

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