第24話出航
暗闇に紛れて港に停泊している船に近づいた。漁に使うような船はどれも手漕ぎ。せいぜい人二人が乗るのが精いっぱいの物ばかりだ。
2隻かっぱらって頑張って四国まで行ければいいが、凪の時間帯でなければきついような気がする。
「パドルを漕いで四国までって、行けるんです?」
「相当きついだろうけど多分行ける。けど、そんなことしてたら正教に追いつかれる。せめてもう少し大きい帆船がいいわね。……あればだけど」
「じゃあ、もっと奥まで行きますか」
「そうね。この小さなおんぼろ船は最終手段ってことにしましょう」
腰をかがめて、周囲を警戒しながら進む。漁港だけあって魚の生臭い香りが漂っていてこちらの臭いはある程度かき消されていそうだ。臭いでばれるようなことはないだろう。
漁港の建物に隠れて様子をうかがう。遠くで無数の光が動いている。きっと正教からの追手だ。ここまで来るのも時間の問題だろう。
「急がないとまずいですね」
「そうね。……あ、あった」
ナギサさんの指さした方向に目を向けると四人くらいなら何とか乗れそうな帆船があった。
光の動きを見て一気に駆け抜けて船に近づいた。船の中に継ぎ接ぎだらけの帆がきれいに畳んで置いてあった。船内も確かにおんぼろだが手入れが行き届いている。この船の持ち主のことを考えると申し訳ない気持ちになるが、こちらも命がかかっている。
「スループ型ね。これなら何とかなりそうだわ。アスカ君。ここで私は準備をしてるから二人を連れてきて。できるだけ急いでね」
僕は港を突っ切って川と海の合流地点まで来た。左に折れてまっすぐ進むと橋の下でキムツジさんとレイナが話をしている。
レイナは下を俯いてよどんだ顔をしている。
「キムツジさん……」
「ああ、まあ流石に内容が内容なだけにな。ショックが大きすぎたようだ。……さて、船は見つかったかな?」
「はい。急いできてください。遠くの方に光が見えたのでおそらく追手が迫っています」
「よし、わかったすぐに行こう。レイナは君に任せるぞ」
「はい。船は漁港奥の桟橋にある帆船です。ナギサさんが帆を張ってると思うので暗がりでもわかると思います」
「よし分かった。では先に行く」
キムツジさんが走っていくのを見届けると僕はレイナのそばに座って声をかける。
「……すみません。本当に混乱してしまって……」
「レイナ……」
「でも事実なのでしょう。受け止めねばならないこともわかっているのです……でも……」
「僕もまだ信じられないでいる。正教のおかげで生きてこれたのも事実なんだ。だから、僕もどうしていいかわからない。……僕たちは知らないことがありすぎる。だから、真実を知りに行こう」
ただ自分のやろうとしていることを話しただけだったが、レイナは顔を上げて僕の方を向いた。
「ありがとうアスカ。なんだか少し落ちつけました」
「そうかい?それならよかった。体調はどう?」
「まだ立てそうにありません……。アスカ。背負っていただけますか?」
「任せておいて。さあ、行こう」
レイナを背負うと、周囲に気を配りながら進んでいく。奥の方に光が見えている。どうやら随分と近くまで迫られてしまったらしい。
背中にレイナを背負った状態での中腰移動はつらいが見つかったら冗談じゃすまない。
光が小さくなった瞬間に駈け出して一気に船まで向かう。船にはもう帆が張られていていつでも出航できるようにされていた。
「よし、全員乗り込んだな。すぐに出発しよう。真っ暗な海の中を行くのは危険かもしれないが、捕まるよりはましだろう」
「漂流の可能性も十分あるけどね」
「それを言うな……。とにかく、出航!」
舫い杭に結ばれたロープを外してパドルで離岸させる。北東の風。風は弱く人力で漕がなければ速度が出ない。
僕とキムツジさんで懸命に漕いで港から出る。
後ろを振り返ると港に警備兵がぞろぞろとやってきていた。あともう少し遅かったら戦闘になっていただろう。
船は暗闇の中に吸い込まれるように消えて、聞こえるのは波の音だけになった。もう方向感覚はなくなった。
このまま無事に四国にたどり着ければいいのだが、僕はなんとなく嫌な予感に襲われていた……。
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