第22話 危機
階段を駆け上がり、入り組んだ通路を迷いなく走り抜けていく。教会内はいまだに静まり返っていて無人のようであった。
「まだ外で演説中のようだな」
「その方が好都合でしょ。見張りがいたらレイナの元にたどり着けない可能性もあったんだから」
「まあ、それもそうなのだが、うーむ、何か変だ」
「気のせいでしょ。急ぎましょう」
キムツジさんはそう言われてもずっと顔をしかめている。思えば警備が全くいないどころか侍女などの世話役すらいないというのは確かにおかしい。
とはいえ、レイナの命がかかっているのだ。どうであろうと進むしかないだろう。
「レイナのいる最上階はもうすぐ!この螺旋階段上った先」
すでに足にきていて小刻みに震えている。足をはたいて気力をいれて、一気に駆け上がった。
階段を上がり切った先に木製の扉が一つあった。扉には外側から南京錠が掛けられていて内側からは出られないようにしてある。
「南京錠か。どうにか開けられないかね?」
「まかせて。これくらいなら一瞬よ」
レイナさんはポケットからピッキングツールを取り出して鍵穴に差し込むと10秒足らずであっさりと開けてしまった。南京錠を取り外して扉をゆっくり開けると、独房のような部屋だった。明かりは小さな電球一つであるのは質素なベットと古びた木製の机と椅子だけで、それ以外に何もない。
レイナはその古びた椅子に座ってぐったりとしていた。急いで駆け寄って声をかけるが反応がない。額を触ると高熱を発していた。
「キムツジさん、ナギサさん!」
「ここじゃあどうしようもないわ。早く医療機関に行かないと。とりあえず応急処置を」
二人も状況を確認して、ナギサさんが持っていた解熱作用のある薬と黄色の液薬を飲ませた。
「よし。アスカ君。レイナを背負って降りられるかな?」
「何とか頑張ります」
レイナを背に背負って立ち上がる。ぐったりと力が入っていないからか重く感じた。呼吸が浅く小刻みに震えているのが背中を通して感じられた。
「よし。急いで脱出する。ナギサ君」
キムツジさん懐から黒い物体を取り出してナギサさんに投げ渡した。
「拳銃?弾残ってたっけ?」
「ワンマガジン分だけな」
「8発ってこと?心もとないわねぇ」
「もしもの時は近接戦で切り抜けるしかあるまい」
「了解……」
「よし、じゃあ行くぞ」
扉を開けて駈け出そうとしたとき、突然外側から扉が勢いよく開けられた。入ってきたのは先ほど教会前で演説をしていた神官と銃を構えた警備兵5人。一気に距離を詰められて、眼前に銃を突き付けられた。
「思った通りここに来たな。政府の犬め」
「おやおや、こちらの正体がばれていたのか……」
「偽物の身分証を使って正教の管轄に入り込んで来ることはすでに全国の教会に伝わっている。まさか、あんなものでいつまでもごまかせるとでも思っていたのか?」
「はぁ。そうかいそうかい。じゃあもうこいつはタダの紙屑ってわけだな」
キムツジさんはナギサさんにアイコンタクトを取ってズボンのポケットから取り出した。二人はカードを警備兵に見せつけてから上にほおり投げた。その時、警備兵の意識がほんの一瞬カードに向いた。その隙に懐から拳銃を取り出して素早く急所に撃ち込んだのだ。警備兵五人は力なく突っ伏して動かなくなった。恐らくもう死んでいるのだろう。僕は胸の辺りに不快感を感じて思わず吐きそうになったが、なんとか堪えた。
「こんなあっさりやられているようじゃあ警備にならんなぁ?そうは思わないか神官殿」
「貴様ら……」
神官は首から下げた大きな剣の装飾を握り、力を込めた。手の隙間から光が漏れて、小さくまとまる。手を広げて前に突き出した。すると大きな光の剣が伸びてきた!
「うおっと!」
瞬時にしゃがみこんで回避すると二人同時に発砲した。銃弾は右足に2発、右わき腹に1発命中した。
痛みに顔をゆがめて、大きな光の剣は粒子状になって消え去った。どうやら集中力が薄れるとあの超常的な力は効力を失ったろう。
「ふう、まあこれくらいの危機はいくらか乗り越えてきているもんでな。どうにかなるものなのだよ」
「お、おのれ……神は、教祖様は見ているぞ……。必ず貴様らには裁きが訪れるだろう……」
どうやら意識を失ったようだ。しかし、この惨状はすぐにでも知られてしまうだろう。早く逃げなければ警備兵に囲まれてどうしようもなくなってしまう危険がある。気分が悪いとか言っている場合では無い。
「急いで移動しないと……」
「そうだな。アスカ君行くぞ。俺とナギサ君で君とレイナを守る。たとえ我々に何かあってもここから逃げることに徹してくれたまえ。いいね?」
「は、はい。わかりました」
「よし。急ごう」
僕たちは急いでその場を離れた。
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