第13話 弟子とのひととき

 俺とセリアは、騎士団の拠点にいた。

 今いる場所は、訓練場という騎士が修行をするための場所だ。

 周りにも、数名の騎士達が、訓練に励んでいる。


 今日は、ファラエスに許可をもらえたため、セリアとの特訓をすることになっていた。

 セリアは、そわそわしながら、俺の言葉を待っている。


 さて、それじゃあ、特訓を始めるか。


「さあ、セリア。とりあえず、修行なんだが……」

「はい! よろしくお願いします」


 そう思ったのはいいが、一体何から始めるべきなんだろう。

 セリアは、基礎ができているため、俺が師匠達から習ったように、最初のことからやるというのはおかしいような気がする。どうしようか。


「……じゃあ、まずは普通に手合わせするか」

「はい!」


 悩んだ俺は、とりあえず、戦ってみてから決めることにした。まあ、ウォーミングアップにもなるし、こっちの方がいいだろう。


「来い! セリア!」

「はい!」


 俺達は、同時に構えた。


 セリアが、剣を振りかぶり、俺に斬りかかってくる。

 やはり、いい攻撃だ。


「はああっ!」

「ふん!」


 俺は、セリアの攻撃を受け止める。

 そして、刀に力を込めて、セリアを弾く。


「きゃっ!」


 セリアの体が、大きく後退する。

 だが、セリアはすぐに態勢を立て直し、俺の元へと返ってくる。


「いいぞ!」

「はい!」


 セリアの目には、闘志が宿っており、俺の体は震えた。

 一撃で諦めず、何度もかかってくる心意気はいいものだ。

 思わず、声に出して褒めてしまったが、これは師匠としてどうなのだろうか。


「はああっ!」

「よしっ!」


 セリアの一撃を、再び受け止める。


「おおっ!」


 セリアは、それが受け止められたのを確認すると、すぐに次の攻撃に移った。

 今度は、別角度からの攻撃だ。


「おっと!」


 俺は、すぐにそれに対応する。


「はああっ!」


 セリアは、さらに攻撃を重ねてきた。

 中々、楽しくなってきたな。


 その後、俺はしばらくの間、セリアとの手合わせを楽しんだのだった。




◇◇◇




 俺とセリアは手合わせの後、一先ず休憩することにした。

 セリアが、水筒をもってきてくれていたため、水分補給も行う。


「ふー、中々、いい攻撃だったな」

「そうですか。そう言ってもらえると、嬉しいです」


 セリアの顔が、とても明るくなる。

 そのせいで、次の言葉を言いづらくなってしまう。

 だが、それを言わない訳にもいかないのだった。


「ただ、欠点も見えてきた。次からは、それを改善するとしよう」

「そうですか……辛いですが、それも嬉しいことです」


 セリアの顔が少し暗くなる。

 しかし、それを嬉しいと思ってくれているようだ。


「それにしても、今までの攻撃は、何を見て学んだんだ? 防御主体が、家の剣なら、さっきまでのはそれじゃないんだろ?」

「……それは、その……」


 セリアの表情が変わり、少し照れたようになる。


「師匠のを見て……自分で練習したんです。こういう風に、戦えばいいのかって思いながら……」

「何……?」


 それは、なんということだろうか。

 セリアが、俺の戦いを見たのは、ゴガッサさんとの戦いだけだ。


 その中で見せたのは、俺の剣技のほんの一部でしかない。

 さらに、それを練習したとしたら、とても短時間だ。


 それで俺の技術を盗むとは、なんという才能だろう。


「し、師匠……ボク、何か変なことを言っちゃいましたか?」


 俺が驚いて黙ってしまったため、セリアが心配そうな声をかけてくる。


「いや、それはすごいと思って、驚いていただけだ。セリアは、なんというか、優秀なんだな……」

「い、いえ、私なんて、そんなに……」


 セリアは、そう謙遜しているが、この子の才能はすごい。

 恐らく、順調に成長すれば、俺どころかファラエスさえ超えていけるはずだ。


 これは師匠バカとかではなく、誰でもそう思うだろう。


 ファラエスがセリアのことを気に入っているのは、性格的なこともあるだろうが、この溢れる才能を買ってのことかもしれない。


「よし、それじゃあ訓練を再開するか」

「はい! よろしくお願いします!」


 俺が立ち上がると、セリアもそれに続く。


 ここからは、セリアの欠点を克服させることにしよう。





◇◇◇




 セリアへの修行は、滞りなく行われ、気づけば昼頃になっていた。


「さてと、休憩というか昼飯にするか」

「あ! それなら、ボク、お弁当を作ってきましたよ。クレッタさんに頼んで、キッチンを使わせてもらったんです」


 そういえば、セリアは今日、早起きして何かしていたな。

 弁当を作っていたのか。それは、ありがたい。


 俺とセリアは、訓練場のベンチに座り、食事にすることにした。


「そうだったのか、ありがとう」

「い、いえ、ボクが好きでやったことですから……」


 セリアは、照れながらも弁当の準備をしていく。


「それにしても、料理ができるんだな……?」

「はい、一応は……でも、簡単な料理なので、そんなに期待しないでくださいね」


 そう言って、セリアは弁当を開けてくる。


 中には、野菜をパンで挟んだもの。つまりは、サンドイッチが入っていた。


「それじゃあ、頂きます」

「はい、どうぞ」


 俺は、サンドイッチを口に運んだ。


「どうですか?」

「ああ、美味い!」

「それなら、よかったです。それじゃあ、私も食べますね」


 セリアが作ったサンドイッチは、中々に美味かった。

 謙遜していたが、料理は得意のようだ。



「師匠は、料理とかされるんですか?」

「うん?」


 食事の中、セリアがそんなことを聞いてきた。


「料理か……できないことはない、くらいの実力だな……」

「できないことはない?」

「ああ、俺は、山育ちなんだが、そこで、野草とか魚とかを食べられるレベルくらいにはできる。ただ、他の料理についてはよくわからん」


 俺は師匠から、そういう技術は学んだが、普通の料理は教えてもらっていない。

 今思えば、習っておけばよかったな。


「それはそれですごいですよ。任務なんかでは、そっちの方が役に立ちそうです」

「そうなのか……そういえば、セリアは、任務とかしたことあるんだよな?」

「はい、もちろんです」


 よく考えてみれば、騎士団歴ならセリアの方が上だ。

 そもそも、セリアってどのくらいの頃から、騎士団に所属しているんだろうか。


「なあ、セリアはいつから騎士団に所属しているんだ?」

「はい、十二歳の頃入ったので、二年前くらいからですね……」

「そうなのか……」


 二年前か、結構な先輩だ。

 というか、騎士団って、そんな年から入れるのか。


「そんな年齢からとは、すごいんだな……」

「ボクなんてまだまだですよ? ファラエス隊長なんて、十歳の頃から騎士団に入っていたそうですから」

「十歳……」


 ファラエスも、セリアと同じように早く入っていたようだ。

 まあ、あの年齢で隊長まで上り詰めているのだから、それなりの経歴はあるか。


「まあ、どっちもすごいな……」

「そうですか……? 師匠にそう言ってもらえると、嬉しいですけど……」

「ちなみに、ファラエスが最年少なのか?」

「えっと……?」


 俺の質問に、セリアは首を傾げた。

 どうやら、知らないことのようだ。


「すみません……それは、知りません」

「別に、知らないならいいんだ。ちょっと、興味があっただけで……」


 少し悲しそうな表情になったセリアに、俺は思わず手を伸ばしていた。

 なんとなく、その頭を撫でてみたくなったのだ。


「あっ……」


 セリアは嫌がることもなく、それを受け入れてくれる。

 そこで、俺は正気に戻った。


「あ……悪い、何故か、撫でてしまった」

「いえ、大丈夫ですよ。ファラエス隊長も、よくそうしていますし……」


 なるほど、ファラエスはこんな感情で撫でていたのか。

 しかし、これは少し失礼だったな。

 

 そんな感じで、俺とセリアの訓練は続いていった。

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