第26話 「もうやめて、グレロッドのライフは1よ!」
待てども待てども何も起こらない。
「
「まあもう少し待とうよ」
ここ、狸穴通りはスラムの入り口でありとても不潔な空間だ。
そしてリディアの格好は豪華な群青色の装い。
生まれも高貴、佇まいだけなら清楚。
はっきり言って場違いである。
そのせいか、この治安の悪いスラムにあって彼女に声を掛けようと思う者はたいてい悪人だった。
「誘拐して身代金だ!その前に味見だぜぇ!」と叫んだ男は最大出力の『
もう彼は、死ぬまで悲鳴をあげ続けるしかないだろう。
だってその口は、それ以外のあらゆる行動を許さないのだから。
死因は餓死、ひどいものだ。
「ウチの名誉ある孤児院で引き取ってやるよ、イヒヒ!」と叫んだ老婆は、最大出力の『盲目』を叩き込まれた。
もう彼女は、孤児を虐待することも売ることもできないだろう。
だってその目は、そんな願いを叶えてくれなくなったのだから。
死因は欲求不満、ひどいものだ。
ここまで4度の世直しを実行したリディアは、また誰かが……と気配を感じ振り返る。
そうして、彼女は突き飛ばされた。
「へっ! 女はやっぱノロマだな!!」
「――チッ、」
見ると少年は彼女の黒鞄をひったくり、大急ぎで
当然リディアはとっさに、その少年の燃えるような赤毛に向け指を――、
「ダメだ! 少年だったよ!」
「なるほど彼が例の……」
急いでリディアは立ち上がり、土で汚れたスカートも気にせず走り出す。
僕が手伝ってもいいがココはお姫様のお手並み拝見だ。
少年は人混みを利用して、スルスルと抜けるように逃げていく。
そのせいで、こちらからの『呪い』が通用しない。
『呪い』は、まず視認しなければ成立しないからだ。
リディアも走りつつ、邪魔になる進路上の人ゴミを術で除けていく。
『恐怖』『恐怖』、また『恐怖』。
練度は初級だからいいとして……ちょっと可哀想。
我がお姫様は阿鼻叫喚を振りまきつつ、ひたすらにスラムを駆ける。
そうして、
……結局、少年の逃げ足には敵わなかった。
人混みを避ける技術もなかなかだったし、裏路地も勝手知ったるといった感じ。
死霊術師の少女では相手にならなかったのだ。
「どーする、リディア?」
「ころ……いえ、今考えます」
一瞬物騒なことばが出た気がするけど、まさしく気のせいであってほしい。
僕なら、なんら問題なく少年を追跡できる。
『死法の魔眼』でマーキングしておいたし、今でも彼がどこにいるかだいたいはわかる。
しかしこの少女は優秀だ。判断も早い。
「……盗人がまずやること……決まりました、デス太」
「家庭教師としてお手並み拝見だね」
「……ふふふ、それに、すこしお仕置きが必要です」
そうして彼女は
自身が扱える魔力・死霊。
そのパーソナルスペースを限界まで。
――おおよそ500メートルが彼女の所有物となった。
霊的に、魔術的に、つまり絶対的に。
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「ふーーっ、案外しつこかったな、さっきの女」
金持ちなんてのはみんな怠惰なブタで、ノロマで、クズだ。
そう思っていたがさきの女はなかなかやる。
……まあ、ちょっと可愛かったし、返してやっても……。
いや、ダメだ!
姉ちゃんを自由にさせてやるにはこういうコトもしなくちゃならない。
コレが悪いことだって、もちろんわかっている。
でも、
…………まあ、いい。そういうのは考えるな。
それよりさっそく戦利品の確認だ。
あれだけ豪華なモン着て、態度もえらそーで、さぞイイもん入っているんだろうな。
パチリ。
黒鞄の留め具を外し、期待に胸を膨らませながら覗き込む。
そうして、ただただ空虚な瞳と目があった。
ニンゲンの、頭蓋骨である。
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「ふふっ、見つけましたよ」
「ああー、可哀想に」
そうして、凄まじい絶叫がこちらまで響いてきた。
若く元気そうな、少年のものである。
「とりあえず4匹、フル稼働で」
「えぇーっ……もう、大人気ないなぁ……」
「まだ私は子どもですから、加減がわからないのです」
「……。」
教育、間違えたかな。
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僕らが路地の行き止まりまでたどり着くと、少年は土下座のポーズで羽交い締めにされていた。
「邪魔です」
周囲の野次馬を『恐怖』で追い散らすと、彼女は少年の前へとなおる。
にこにことした笑み、そして抑えた攻撃性。
その瞳に正面から見据えられ、少年はひぃっと声を漏らす。
もう、さきの絶叫で声が枯れたのだろう。
とても弱々しいものだった。
そしてどんな恐怖にさらされたのか、涙で顔がぐしゃぐしゃだ。
突然動き出した骸骨4体。
そりゃーまー、こーなるよね。
「では少年、お話を聞きましょうか」
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