第16話 「好き好き大好き超愛してる」

「やったねやったね! 私にはデス太さんもシャーズさんも視えないけど勝ったんだよね!?」

「ええ」

「おめでとー死神さん!」


セレスがてんで明後日の方向に手を振っている。

まあいいか。


「デス太、彼女の協力なしでは今回の戦果はありません。キチンとお礼をいいましょう」

「でもリディア、『擬態』なしじゃ僕はヒトの目にはね」

「では筆談です。鎌で地面を削りましょう」

「うーん」


僕ら死神は、自分の大鎌に多少なり愛着がある。

プライドと言い換えてもいい。

そんな……尖筆スタイラスみたいな使い方はしたくない。


「デス太、怒りますよ。私の親友を尊重してください」

「えへえ! そうそう親友ちゃんだよ!? マブのダチだよ! 尊重してよ!!」

「うううう」


仕方なく、イヤイヤ地面を削る。

まったく心のこもっていない「ありがとう」が地面に現れる。


「うわお! すっげすっげ!」

「デス太、よくできました」

「ふん」

「でもさーリディアっち、マジすごいよね死神の友達、うん? 下僕、舎弟、もしかして恋人!?」

「そうなりますね」


地面に急いで「家庭教師、騎士」と書く。


「へえー、騎士ナイトだって。しっかり調教できてんじゃん」

「いえいえ、それほどでも」

「えっ否定してよ」


にこりとほほ笑むリディア。

まあ、べつにそれでもいいけどさ。


「でもいーなー私もそんな厨二な相方ほしいなー。むっちゃ厨二じゃん」

「厨二とはなんですか?」

「超カッコいい!オシャレ!って意味だよ基本褒め言葉だよ」

「ほうほう……セレスは本にもないような言葉をいろいろ知っていますね」

「えへえ! いいよいいよリディアにもばんばん教えてあげるよ!」


と、女子談義ガールズトークがまた始まりそうだったので僕は提案する。


「場所、移さない?」と。


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そうしてふたりの女子は明け方まで楽しそうに話し込んでいた。

僕はいつもどおり会話を遮蔽魔術シャットアウト


そうして、空が白み始めたころ、泣きはらすセレスとリディアがそこにいた。

音をもとに戻す。


「出発を教えたの?」

「そうなりますね」

「うへえ……ううう……」


そう。

昨夜シャーズを殺害したことで、この街もすでに安全な場所ではない。

タイムリミットは今朝がギリギリだ。


「セレス、私は必ずこの街に立ち寄りますから」

「ううう……うん……」


「今より強くなって、デス太も強くなって、邪魔モノを排除して」

「……うん……うへえ……」


「親友ですからね」

「うううううううう」


抱き合うふたりの少女。

感動的な場面だがそろそろ時間がマジヤバイ。

……って僕まで変な言葉が伝染ってきたなあ。



荷物をまとめ、宿をあとにする。

湾口都市の東口。

最後に再度抱き合ったふたりは、たっぷり1分そのままにしていた。


「あ、まずい」


視界の端に黒衣カラーレス

他の街から察知してきたにしては早すぎるので偶発的遭遇ランダムエンカウントか。


むこうもぴくりと反応する。

ちょうどいい。

久しぶりに取り戻した現能チカラを試してみよう。


黒衣を睨み、足元の小石に刃を突き立てる。

どさり、と黒衣が体をくの字に折り曲げ絶命した。

……うーん、力は戻らないな。

彼はハズレか。



そんざいの移し替え』


存在と存在を入れ替える。または共有リンクさせる。

今みたいに遠くの相手と手元のモノを入れ替えて攻撃したり、複数人をまとめて葬ったりする。


かつて、ふたつあった月の片方に強い死があらわれた。

同胞たちはみな困惑した。

手が届かないモノをどうして殺せようか。


僕は、みんなに提案しみんなにチカラを借り、空の月と水面みなもに映る月を入れ替え刈り取った。

そうして空の月はひとつになった。


……なぜ、月を喰らわねばならなかったのか。

それは今でもよくわからない。


確かなのはあの日より、空から降り注ぐ魔力が半減したことだ。

自然、魔法もずいぶん衰退した。

強い死もそうだけど、なにか世界のバランスにとってそれがいいことだったのだろう。


そういえば、あのシャーズは僕が現役のころ、


「『存在の耐えられない軽さ』、貴様の現能のうりょく名に相応しかろう?」


とかなんとか。

あいつはずいぶん変なネーミングセンスだった。

言葉使いからしてそうだけど。

真逆まさかとかしかりとか。


けどまあ、そうだね。

彼の遺品としてその名前を受け取っておこう。


「デス太、行きましょう」

「ああ」


では、と手を振るリディアにセレスは両手で応える。

いつまでも、いつまでも。

遠くまで大声で。


「好き好き大好き超愛してる! リディア、いつかまた一緒に遊んでダベろうね! ちびっと心は痛むけどこれも友情を試す試練だよね!」


------------


「デス太……別れとは悲しいものですね」

「えーっと、うんそうだね」

「……ぐす」


えっ。

えっ。

えええええええええっ!!


なんと、あのリディアがほんのすこしではあるが涙を滲ませている。

驚天動地で天変地異だった。

マジかー……そうかぁ……。


「成長して強くなって、また来よう」

「はい」


僕はセレスは苦手だったけど、リディアが悲しむのはそれ以上にイヤだった。

そうだね、僕は騎士ナイトだ。

お姫様の意向が絶対だ。

だから彼女が友達と認めるなら僕もセレスを認めないといけない。


「……ところでデス太、さっきは?」

「ああ、一匹狩った。雑魚だったね」

「チカラで?」

「うーん……ちょっと鈍ってたね、200年ぶりだし。2秒かかったよ」


これじゃシャーズをバカにできないな。

『縮地』と同じく、こちらもしっかり鍛え直さないと。

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