第13話 「リディアとJC」

リディアと友達になり、手を握り、にへらにへらと笑いつづける少女。


彼女は……なんというか湿度が高い気がする。

肩まで伸びた黒髪はくせっ毛で、表情もつねに卑屈ひくつだ。

瞳もぐるぐるのうずまき模様があるみたいでじっとながめていたくはない。

歳は……13か。


こうして『視て』わかったが、まれびとに間違いない。

……あれ、でもそうするとヘンだな……。


「デス太、彼女は……?」

「ああ、まれびとだ」

「しかし先ほど魔法を……」

「そうだね、それにその娘、シルシがある」

「…………本当ですね」


シルシは魔力を集めたりするもので、これがなければ魔法も魔術も使えない。

シルシは魔法使いの証だ。

そして、まれびとで魔法使いなんて聞いたことがない。

昔……あるまれびとに聞いたことがある。

彼らの世界には魔法も魔物もないのだと。


「その、」

「あのさ、それよりここ離れない? コイツらウーウーアーアーうるさいっしょ!」

「……そうですね、ではこちらに」


少女ふたりは手をつないだまま、路地をあとにした。

残された男たちはいよいよその紋様を地面から壁にまで伸ばしはじめていた。

自身の指先を削り、それを塗料として、なお。


------------


ここにしましょう、と海沿いのベンチに腰掛けるリディア。

となりの少女もベンチに座り、リディアにぴったりとくっつく。


「えへへ、えへ、ともだち、ともだちだねコレ!」

「そうですね」


うーーーん……やっぱ僕、この娘苦手。

リディアはよく耐えられるなぁ……。


「ところで、さっきの魔術ですが……」

「ちょっと待って!

 そのまえに、あの、ここさ、この世界はさ……いいいい異世界ってやつだよね!」

「えーと、そうですね」

「うはあ……さいっこうじゃん! マナも多いし中世だし! 私が超絶モテモテで……」

「あの、すこしそのことで説明よろしいですか?」

「えん?」


リディアはまれびとについての説明を簡潔シンプルに伝える。

過去と現在にあったこと。

そのせいでまれびとは忌諱され殺されること。

話がすすむごとにどんどん少女の顔が青ざめていく。


「……つあー、ええっ……なにそれやばくね?」

「ええ、ですがあなたは最初の危機を乗り越えました。しばらくは大丈夫でしょう」


「えーと、この格好は、ねえ、マズくないこれ中学の制服なんだけど」

「……? 制服……ああ、それによく似た服が自由都市にはありますよ」


「ふえっ! なにそれ?」

「えーと……ラザラス商会のメイド服にそれとよく似たモノが」

「……はぁー」


ああ、そういやあそこの商会のボスはまれびとだったな。

こちらの世界にない玩具おもちゃやゲームで財を成した大富豪だ。

トランプとかいうのをリディアやユーミルとやったことがあるが、かなりよくできた遊びだった。

そういやヘンテコな服も売ってたね、彼。


「……ですから、いま言ったことに気をつければ……」

「わお、助かるよ! さすがリディアは私の親友だね、そうだね!」


僕が思案しあんしているあいだに、いつのまにか親友になったようだ。

リディアも注意事項をずいぶん気前よく教えていた。


「……で、本題です」

「いいよいいよ、なんでも聞いてよ!」

「さきほどの魔術、あれはなんですか?」

「ふえっ! なになに気になる、私の魔術! いいよいいよ親友だもんね!」


ああ、やっぱりそれか。

それが、それだけがリディアの目的だったのだろう。


少女は嬉々として語りだした。

自身の魔術、その基盤おおもとを。


------------


「つまり……星海の神々と交信し驚異をたまわる……と」

「そうそうそう! 溺神できしんさまは海でおやすみ中だけどね!」


彼女の語る魔術基盤チカラのおおもとは、意味がわからなかった。

なんとなくわかるのはたぶんなにがしかの召喚だということ。

大別すれば彼女は召喚師サモナー……でいいのかな。


「星海とはなんですか? 海の底、空の星?」

「宇宙はソラにあるんだよ! 銀河のはての星の海にこそ貴き方々が……」

「……はあ」


僕もリディアもチンプンカンプンだ。

彼女の言葉の半分も理解できない。

だいたい、宇宙とか銀河とか、意味がわからない。


「つまり、天上の神と通ずる魔術ということですか?」

「そうそう! わかってるじゃないさっすがリディア!」


少女はウキウキと楽しそうだ。

そういえば……彼女の名前をまだ聞いていないな。

あんまり興味ないけどね。


「そうそうリディア、友達なのにまだ自己紹介してないね! 私の名前はねぇ……アレ?」

「どうしました?」

「えっとね……アレ、……あれあれあれれれ??」


少女が頭をかかえ唸りだす。

ややあって、リディアが少女の腕を握る。


「……名前が、思い出せないんですか?」

「うん、そうみたい。へんなの」

「ふーむ……名前、ですか」


もにょもにょとなにか呟くリディア。

あ、コレなんか考え事してるな。

少女はおどおどとリディアを見ている。


「……いえ、そうですね。貴重な情報をありがとうございます」

「えっ、そうなん? えへえ、役に立てたならうれしいよ! だって親友だもんね!」


「それと、あなたの仮の名前を思いつきました」

「えっ……あっそうかそうだよねこのままじゃ不便だよねぇ!

 リディアが付けてくれたんならなんでもOKだよ! ……あっでもでもネクランとかサダコとかそういう名前はやだよあと学校くんなとか……」


「では、あなたの名前はセレスティアです。天上の召喚師にふさわしいでしょう」

「おお、なんかカッコいい……けど長い。略してセレスでいいかなぁ……どう?」

「ええ」

「えへえ、なんか、すっごくかわいい名前……ありがとリディア!」


少女ふたりはなにかの合意に至ったようだね。

ちょっと僕はついていけない。

まあ、少女談義ガールズトークに男が入るもんじゃないよね。

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