第11話 「アフターセッション」

「いやいやいや……大豊作だぞまさにビンゴ!!」


安宿で、安酒をあおりながらジェレマイアが喝采かっさいをあげる。


あのあと、遺跡の最奥で宝漁り、まさにダンジョンのご褒美タイムだった。

ジェレマイアは半分以上の魔道具アーティファクトは僕らに譲ってくれた。


彼いわく、もうだいたい持ってる、とのこと。


ただ消費型の巻物スクロールや魔石などは彼がほとんど持っていった。

こういう手はあるだけいい、らしい。


それに、彼の目的は最初からひとつ。

闇生みと戦った古代人の記録である。


「解読解析はこれからだが……予想通りの量が確保できた。できれば質も伴うとよいのだが……まあいい」


上機嫌で酒を呑む【紅の導師】だが、できれば子どもの前だ、控えめにしてほしい。


リディアは気にせず茶色い飲み物をすすっている。

なんでも「ちょこれいとう」とかいう甘い飲み物で、とてもおいしいらしい。

200年前はこんなものなかったね。


人間の、こういうどんどん思いついたりつくり出す現能チカラは僕らのもたないモノだ。

とても素晴らしいチカラだと思う。


「うーむ、たった一度の冒険で見違えたな、お嬢さん」

「そうですね」


ジェレマイアが満足そうに口にしたのも当然だ。

まだ浅めの地下遺跡ダンジョンとはいえ、下層のお宝を獲得ハックしたのだ。

……魔物を倒したスラッシュしたのはほとんど紅の導師だけど。


今ではリディアも、いくつもの魔法の守りエンチャントに護られている。

ジェレマイアほどではないが、装備のほとんどは上級クラスだ。

明らかに駆け出しじゃないよね。

ちょっとずるい。


報酬の分配や探索成功のお祝いをやったあと、すぐにジェレマイアは去っていった。

すぐにでも回収した文献にとりかかりたいらしい。


「ではな死神クン、それとお嬢さん……いや、レーベンホルムの後継者よ」

「えっ!」


ビンゴ! と手を振りながら真っ赤な男は去っていった。

どうやらいろいろとお見通しということらしい。


「……派手なヒトだったねー……いろんな意味で」

「カッコいい人でしたね」

「ええっ!!」


ぐるんと首をまわしリディアを見る。

あきらかに尊敬だとか、そういう目をしている。

……なんだか胸がざわつくな……クソっ。


「どうしましたデス太?」

「べっ、べつに」

「ふーん……そうですか」


ジロジロとリディアに顔をのぞき込まれる。


「大丈夫ですよ、デス太が1番ですから」

「……えっ、あっ。そう?」


ちょっと照れくさい。


「ジェレマイアさんは2番ですかね。

 それにカッコいいオジサマ枠といった感じなのでデス太とは方向が違います」

「……あっ、そう。ふーん……」


年齢は僕のほうがはるかに長いんだけど。

……と口にしかかったが、それを言ったらなにかに負ける気がしたので抑える。


それに僕はリディアを守るただの騎士だ。

それ以外のことはどうでもいいじゃないか。


------------


交易都市でエレーミアスを殺害したため、街を急いで離れることに。

僕らは僕らの死に敏感だからだ。

しかし、2体の同胞からチカラを回収したため、僕はそこそこの死神になっていた。

最初に遭遇した黒衣カラーレスレベルのヤツなら、それほど困らず対処できる。

むしろ、あの日の私刑リンチに飛び入り参加し、ただの黒衣のクセに僕からチカラを奪ったヤツ。

そういうのはむしろこちらから出会いたいぐらいである。


逃亡先は北東の小さな街にしようと思ったが、思い切って南にずっといった湾口都市にした。

自由都市から南東にすこしいった場所にあるが、むしろ自由都市に近いほうがいいのでは? と。


「自由都市で1件目、そこから北東の交易都市で2件目というとやはりそのまま北東に、と読むのがふつうです」

「そうだね」

「ですのであえて自由都市にほど近いここがいいかと」

「自由都市に戻るのはどう?」


逆をかくみたいでよくない?


「……デス太。犯人はよく現場に戻るといいます」

「へえ……そうなんだ」


そういうの、どこで知るんだろう?

リディアは読書好きだし、小説とかかな。



2度目となる乗合馬車にゆられての旅。

僕もリディアもしっかり警戒し、とくに僕は寝ずの番だ。

死神には眠るという機能はあるが必要はない。

レーベンホルムでの10年の生活でなんとなく眠る習慣ができていたが、これからは控えよう。

……あれはあれで、好ましい行為だというのはわかるんだけどね。

安全な宿なんかでは眠りたいな。


そうして馬車での旅は10日におよんだ。

途中、リディアに何度もかまってくる中年男性を「お掃除」したりといろいろあったが、それ以外はとくに問題のない平和な旅だった。

まああれは仕方ないと思う。


「……デス太……限界です」

「うーん」

「あれは明らかに故意でした。お尻を触られたのも2度目です。

 ……それに、形容しがたいほど気持ちの悪い手つきでした」


ブルブルとリディアが震えている。

よっぽど怖かったんだろうな……よし。

じゃあいいや。


馬車の休憩時。

思い思いに乗客たちが休んでいるその輪から男を呼び出しいつもの手順。

男は秒で破顔し秒で飛びつき、秒で血だるまとなった。


……凄まじい威力だった。

よっぽど思うトコロがあったのだろう。


すぐさま彼女の左手でずるりと丸ごと回収される男の魂。


「……コレは……一発限りの飛び道具として使いましょう。あまり長く入れていたくないです」

「そう」

「その代わり、威力はなかなかになるかと」


そりゃ、ヒトの魂まるごとをひとつの術式で消費すればね。

かなり贅沢な使い方だけど。

例えば『出血ブラッドレス』で行えば相手は全身の血液を吹き出し干物ひものになる。

まさに必殺技だ。


とにかく、これで今後は快適な馬車の旅となるだろう。

次の街、湾口都市が楽しみだ。

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