異世界の救世主として呼ばれたけど、拒否したら微生物になりました。
古狐さん
第0日 寿命終えました。
『こんにちは』
突如、頭に声が響く。
「⋯⋯こんにちは」
ひとまず返事を返す。
『うんうん。挨拶を返すことはいいことだよね。少し警戒されてるみたいなのが残念だけど⋯⋯一体、どこまで君は覚えているのかな?』
「たしか、寝ている最中に⋯⋯心臓の鼓動が急に弱くなりそのまんま寿命がきたんじゃ?」
『あはは! そこまで鮮明に覚えてるんだ?! もしかして寿命ではなく悪意で死にかけてたら死んでなかったりしたの?!』
「ん? まぁ、そうですね⋯⋯。自分で自分の心臓を動かしてたかもしれないし、まぁ幾らでも道はあったと思いますね」
『ふふふ、やはり【規格外】だねぇ』
「えっと、そろそろ名乗ってもらいたいんですが? 今の会話から言わしてもらうなら悪意があったのかどうかも知りたいですね」
『あー、ごめんごめん。名乗る名前は持ち合わしてないんだけど、強いて言うなら僕は【神の意思】もしくは【万物の意識】かな。君がそう認識しなかった様に悪意からではないし、どちらかというと呼び戻したに近いかな?』
「なるほど、呼び戻したというなら私はまだ死んでいないのですか?」
『ううん。一応肉体は消滅さしたよ。地球の人間に君の身体を弄られても困るしね』
「⋯⋯そうですか」
『けど、やっぱり薄々は感じてたんでしょ? 僕自身も地球という星にイレギュラーが出るなんて思いもしなかったよ』
「⋯⋯」
『日本の世間から隔離された、ど田舎生まれ。親はおらず拾われる。7才で親の所で手伝っていた鍛治でその頭角を表し、地球では生まれる事がないはずだった武器⋯⋯いや極薄い包丁【白雪】をこの世に生み出し、隔離された田舎は一気に世界から注目を浴びることになった。ここからが始まりだよね』
『この包丁は細胞を壊す事なく切ることができ、切られた本人も切られた事には気づく事はない。ただし扱える人間はその道を極めた者のみであり、極めてない人間が使うとヒビが入り即座に粉々に砕けてしまう。余談だけど、包丁として扱えたのは世界で5人。医療で使うメスとして扱えたのはのは1人だね』
『そして君は発展していく田舎から逃げる様に山で自給自足をして生きていくんだけど、これが後に仙道となる。まぁ、普通は魔法もとい魔力脈といえるんだけどね。ここで心身と生きる為の本能がすくすくと鍛え上げられ成長していった』
『更に歳を重ね十代にもなると魔力脈を自分で感じコントロールすることができるようになる。本来は再生魔法とも言えるんだろうけど、君は細胞を活かす再生魔法を形とした再生液を作成した。世界ではこれをミトコンドリアと勘違いをし抽出、増殖、再生液をほかの細胞に合わせる事で細胞の異常活性化と言うようになり、再生技術も飛躍的に上がっていくと同時に世界の科学者から追われる事になり再び姿を消した』
『凄いよね。あの時の地球レベルから考えれば何百年経っても行き着く事はない技術が十代の君が世に送り出してしまったんだ』
行方をくらました君は自分を世間からは隔離すると言わんばかりに山を転々と動き、たしかアルプス高度8000で数年過ごす。
『これがもう人間だけど人間じゃない証拠だよね。高度8000で生きれる人間なんていないよ? ていうか生物が生きる環境ではないしねぇ』
「⋯⋯たしかに【万物の意識】ですね。誰にも言っていない経緯をここまで当てられたのは見られていたとしかいいようがないです」
『信じてくれた? そっかぁ、それから世界大戦を止め、世界のリーダーとなるとこまで話そうとしたんだけど、もういいね』
「それは少し誤解されています」
『そうなの? 世界の人々が困ってるから動いた様に感じたけど⋯⋯』
「いや、世間が騒がしくなるのが面倒だったんですよ。再生液のおかげで戦争も過剰に燃え上らせる輩もいましたので⋯⋯再生液は理不尽な事故などで失った部位の修復という形で提供したはずなんですけどね。もしこれが経済戦争なら別に止めはしなかったですよ」
『それだけで世界会議が行なわれている場所に乗りこみ、首相達全員の命を握ったんだ⋯⋯。スケールていうか次元が違う考えするよね』
「命を握ったのは手段と方法です。犠牲がでなければそれに越した事はなかったですが、それができず信じれないのが人間でしょう?」
『まあね。これもいえば君が行使したのは魔法になるんだけどね。たった一滴の水分が体に付着するだけで相手の細胞に指令を与えれるなんて事はね』
「ただのミトコンドリアとの共存の結果ですよ。別に魔法でもなんでもないです」
『いやいや、それが全てだよ。身体強化から相手の細胞の主導権、さらには空気中、万物全てに含まれる微量な栄養素を吸収するからどこでも生きれる体。欠損しても再生する体。そもそも人の寿命は80年程度に対し、君は250年生きながらでも身体が生き生きしてる時点で種族が僕たちに限りなく近い。それに最終的に君は神の子と呼ばれていたんだし』
「⋯⋯」
『まぁ、過ぎた事はどうでもいいし、僕としては今からの事の方が大事なんだよねー』
「そうですね。私が形として死んだのであれば、もう過去は終わった事です」
『うんうん。僕の事も信じてくれたみたいだし本題に入ろう』
「はい」
【異世界の救世主として、世界を救ってくれないかな?】
「お断りします」
『即答!? ちょっと待ってよ。少しは考えてほしいんだけど! その場合2つの問題が発生するし、もともと地球では君の力は異端だったけど、君がいるはずだった本来の星であれば君は救世主や勇者と言ってもいいぐらい未来を導く者だったんだよ』
「私がいるはずだった星?」
『うん⋯⋯そのせいで、星でイレギュラーが起こっちゃって⋯⋯導く者がいなかった代わりに7の古龍がそれに成り代わってしまったんだよね』
「でも、成り代わったのが龍としても世界は回っているんですよね?」
『そうだね。でも、それは一時的なんだ。今の問題を放っておくといずれ歯車が崩れるように他の星々共々崩れていくんだよ』
「それはあなたが干渉するなりして、どうにかできなかったのでしょうか?」
『干渉しても神託など助言程度だし、一度は古龍達に会話してみたら、僕が干渉できないのも理解してるし自分達が神の化身として星を導いていくと豪語されたんだよね。それ以降は助言すら出来なくなったんだよ』
「なるほど」
『なので、その問題を解決する為に君を地球から解放したんだよ。だから頼まれてくれないかな?』
「伝言だけならいいんですが⋯⋯解決なら他の者に任せるとかはできないのでしょうか? 次に生まれ変わるなら何も力はなく平凡に人生を謳歌したいのです」
『もう一つの問題はそれなんだよ。前提に断られるとは思わなかったし、君の力を全て他の人に移し任せることはできる⋯⋯けど』
「けど⋯⋯?」
『その場合、君という存在価値は星にとって無いに等しく⋯⋯よくて小さく狩られるだけの小動物や本当にバクテリアみたいに栄養素だけに永遠になり続けると思う⋯⋯これは力を持った人間が役目を終えた運命(サイクル)なんだよ』
「なるほど」
『だから僕としては引き受けてほしいし、何より記憶だけは、その人の存在に刻まれるから移す事ができないんだよ。君の力を受け継いだ者が果たしてどうなるのかは分からないし、この役目を終えた君には是非とも僕たちと同じ位置に来て欲しいんだ』
「気持ちはありがたいのですが⋯⋯やはり誰かに移してもらってよろしいですか?」
『どうしてだい? 僕が納得できる理由がほしいよ』
「前の世界では、知り合い達は寿命で死んでいくのに対し、私が死ぬという考えがどうしても実感がなかったんです。あの夜、心臓の鼓動が弱くなっていったときは本当は嬉しかった。これでやっと私もみんなの所に行けるのだろうと、そしてこれが生命の終わりなのだろうと。私が本来生まれるはずでなかった星であっても、あの星でおこった関わりや感情などは間違いなく、あの星で培ってきたものです。ですから、私はやっと役割を終えたのだろう思いここに来ました。ですから、行く先が微生物だろうとそれを全て受け入れるつもりです」
『そうか⋯⋯それでも250年という数字は⋯⋯人にとっては短いものではなかったんだね。確かに君は地球で育った人間だね』
「ありがとうございます」
『ううん。じゃあ、最後に確認。今から渡す書類に手を乗せたら君の力は全て他の者に移り、君はその星でなんらかの生物となって永遠に近い限りを転生していくとおもう』
「わかりました」
『うぅ⋯⋯本当にもったいないなぁ。地球に干渉してじっくり説得しておけばよかったよ⋯まぁ、時間もないししょうがなかったんだけど⋯⋯』
「いえ、でも少しの間でしたが話せて嬉しかったです。ありがとうございました」
『うん。君の未来に救いがありますように⋯⋯あ! ちょっとまって』
そう言いながら、男の前に地面まで届く白い髪をした女性が現れる。
「⋯⋯綺麗だ」
衝撃が走り、思わず口走る。
『ありがとう。あんまり姿に意味はないんだけど。地球では人が出発する時は見送るんでしょ?』
そう言いながら優しくハグをしてくれた。
『僕の勝手な解釈で君をここに連れてきて、こんな結果にしてしまいごめんなさい』
「いえ、貴女のおかげで私の終着点ができたので感謝しています。ただ、こちらも期待に添えず申し訳ありません。次にもし人間に転生できるなら誰にも束縛されず自由きままに生きるよう頑張ります」
『ふふ、それは楽しみだね。では、行ってらっしゃい』
こうして彼女は私の意識が溶けていくまで最後まで手を振ってくれて見送ってくれた。
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それから、目の前に一筋の光が見えてはすぐに再び真っ暗になる。
これは、自分が捕食されているということに気づいたのはなぜだろうか? 考えることはできても、喋ることもできず、動いてはいても動いているのか疑問になるほど簡単に捕食されていく。
光が見えては消え、見えては消え、それを何千、何万、何億かは分からないが幾度もなく繰り返していく内に考える事もなくなりつつ、そのまま微生物として転生を繰り返していく日々を送った。
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「⋯⋯⋯⋯??」
突然、目の前には暗い空が広がり星が幾千もとめどなく輝いている。
「⋯⋯⋯⋯あぅ⋯⋯あ」
その星に手を伸ばそうとするが届くことはなく、そのまま尻餅をつく。
手が何かに触れる感触に目がいくと、水の上に自分がいる事に気づく。
ただ、沈む事がない事が本能的に理解しており、そのまま自分の姿を確認する。
「あ⋯⋯たしは、い⋯たい?」
記憶がまだ曖昧であるが、この姿はどことなく見覚えがあった。
白い髪は水の中で泳いではいるが、自分の身長はゆうに超えており、その透き通る白い肌はあの時の【万物の意識】と呼ばれた女性と似てはいるのだが、今のこの姿はあの女性より遥かに幼かった。
何億年、転生を繰り返したのか、それとも何十年繰り返したのかは知らないが、再び自分が生まれたのだと実感した瞬間であった。
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