撒かれる種

月夜桜

第1話 自身の業を教えるということ

「ノワール君。君、何回も言っておるが、やりすぎなんじゃよ。ワシの寿命を縮める気か?」

「いえ、あなたに嫌がらせするだけの為に僕と同じ訓練方法で生徒たちに教えているだけですよ」

「そ、それが困っとると言っておるのじゃッ!!」


 学園長が何やらうるさいですね。


「一際目立つのが、君の弟子とかいうイリーナ。そして、妹のソフィアだったか? あヤツらは本当にダメだッ!」

「何故です? ただ単に、この世界の魔術水準を上げようとしているだけじゃないですか。しかも、その人数は今の所ごく数人ですし」


 ほんと、この世界の魔術水準を下げたのは何処の何奴なのか。


「君のような世界を変えかねん〝種〟はこれ以上要らんのだよッ!」

「僕みたいに、まだ〝発芽〟してないんですから、いいじゃないですか」

「そ、そういう問題じゃないッ! 君の魔術を受け継いだ新たな〝種〟が他者に教える。それがまた新たな〝種〟を生み出すことになるのだッ! それが〝種が拡散する〟ということなのだよッ!!」


 ……このご老人はうるさいですねぇ。


「それに、なんの不都合が? 世界の未来を紡ぐ〝種〟を取り除いたのはあなた方〝長命種〟ですよね? よもや、魔術が世界を滅ぼすなどと言いませんよね? それに、学園長は入学試験の時、僕に──僕達に問いましたよね? 〝魔術が革新的な発展を遂げる為にはどうすれば良いか〟と」

「っ!!」


 はぁ、これ以上、話をするのは無駄かな?


「兎に角、僕はこの教え方を続けますし、この魔術を使い続けます。……必要であれば、魔法──【分解】の力を使うつもりですよ。それは、妹のソフィも同じです。では」


 僕がソファから立ち上がると、何処からか現れたのか、白猫使い魔のエリィさんが僕の肩に乗る。

 エリィさん、ソフィに伝言を頼んでもよろしいですか?


「みゃっ」


 ありがとうございます。

 エリィさんは扉の隙間から漏れ出す光に向かって軽快な足取りで駆け、光の中に消えてしまわれました。

 ほんと、あの魔術、どんな仕組みになっているんだろう?


「学園長」

「何かね」

「くれぐれも御体を御自愛ください。今度の試験、ソフィもイリーナも張り切っていますので。あと、Sクラスの連中もです」


 そう、捨て台詞を残して、以前僕とルミナが燃やし尽くした学園長室から出た。


 ☆★☆★☆


「ノワール」

「ルミナ、行くよ。あと、勝手に敷地内に侵入しないの」

「話、どうだった?」


 正直に話す方がいいのかな……?

 まぁ、いいや。


「僕の教え方だと、態々低下させた魔術水準が上がるからやめろってさ。あと、学園長の寿命を縮めるからとも」

「……両方、身勝手な話ね。あのクソエルフ、早く死ねばいいのに」

「こーら。そんなことを言っちゃいけません。もっとお淑やかにね?」


 何やら、ルミナがにやにやしている。

 なにさ。


「ふぅん? 私がただお淑やかなだけの、貴方の後ろに着いて行くだけの女の子になってもいいんだ? ふぅん?」

「……ノーコメントで」


 ほんと、この子には敵わないなぁ……。


「ふふ~ん♪」


 露骨に機嫌良くなって、もう。


「それで、どうするの?」

「勿論、僕は僕の魔術を継ぐ子達を増やしていくよ」

「そ。私は貴方の意志を尊重するわ」

「ありがと」


 ……こんな日々が続けばいいのに。

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撒かれる種 月夜桜 @sakura_tuskiyo

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