終章 闇事変
「陣聖様!」
いつの間にか、船に揺られて眠っていた。目の前には、マリナとジャシャがいる。陣聖は微笑んだ。
「おはよう」
「呑気か」
マリナは目を細めた。
「海峡は越したみたいですよ。もう、しっかりしてください」
「あはは、ごめんごめん」
「そろそろ、アスティカ様の出番ですかね」
マリナは指をぱちんと鳴らした。彼女の後ろに、巨大な穴ができる。そこから、黒い機体の頭部が現れた。
「よし、準備はいいですか」
「ああ」
巨大ロボット「アスティカ」に乗って、海をわたる。機体は古いらしいので、コクピットの中にまで、水温が伝わって、操縦席はとても寒い。
「このまま、排水口の中につっこみます!」
マリナは操縦する場所に立って、手を合わせている。全身から、力を発散させ、機体に魂を吹き込んでいるのだ。
「さすが、唯我の巫女だ」
陣聖は感嘆した。ジャシャはふんふん、とうなずいた。
排水口に入り、突き進むと行き止まりだった。
「掘り進め」
「了解!」
アスティカはその長く伸縮自在なアームを使って、壁をぶち抜き、泥をすごいスピードでかきだしていく。
しばらくして、ジャシャが何かを見つけたように指さした。
「・・・どうした?」
「あそこ」
彼の指し示す方向には、そこだけ異質なコンクリート様の壁があった。
「・・・これは当たりかもしれない」
「壁、壊します」
アスティカのアームが壁に向かって鋭く延びる。壁はがらがら、と崩壊し、地下通路らしきものが現れた。
「あった、地下通路だ」
陣聖は、眉をひそめた。
「何だか、うまく行きすぎて違和感しかないな」
「私とアスティカ様のおかげですね」
「・・・ああ」
3人は、アスティカを離れ、地下通路に降り立った。奥に行けば行くほど暗くなっている。
「慎重に進むぞ」
「ラジャー」
「ラジャ!」
ジャシャは杖を小振りした。杖の先に明かりが点る。それを、奥まで照らせるように、高く掲げた。
「・・・陣聖様」
マリナは小声で言った。
「あそこ、ドアがあります」
彼女の言うとおり、そこにはドアがあった。細かい鉄格子が張られているが、中までは暗くて見通せない。取っ手には解かれた南京錠がぶらぶらと垂れ下がっていた。
陣聖は拳銃を胸ポケットから取り出した。じりじりと壁に沿って近づき、扉の前にくると、一気にドアを蹴り開けた。ぎいぎい、ときしむ音がする。
中に人の気配はなかった。3人は足元を照らしながら、中へ進んでいく。
「誰もいませんね」
マリナは不安そうに言った。
「無実の罪で捕まっていた人はどうなったんでしょう」
「たぶん、政府の奴らだ・・・」
陣聖は舌打ちをした。ジャシャは鼻をひくつかせ、顔をしかめた。
「メデューサのにおい」
「・・・」
陣聖は目を伏せた。
「とりあえず、宝箱はまだ残っているはずだ。妖精の話によると、クッキー缶くらいの大きさの箱らしい」
「分かりました」
3人は手分けをして、監獄内を探した。部屋の中は、モノであふれかえっていた。博士の私物や、前にいた囚人の私物などがごった返していて、探すのに手間取りそうだった。
しばらくして、
「あ、陣聖様!これじゃないですか?」
マリナは壁にうちつけられた本棚の真ん中の段を指さした。見ると、鉄製の頑丈な箱が置いてある。陣聖はそれを担ぎ上げた。意外とずっしりとしている。
「多分、これで間違いない」
陣聖はため息をついた。
「なんやかんやあったが、これで任務成功だ」
「やったあ」
マリナとジャシャは万歳した。それを見て、陣聖は苦笑いをした。
「まだ、先は長いけどな。とりあえず、ビシクルに帰ろう」
「お帰り」
櫛と桜が部屋に戻ると、赤髪の少女が机の上にカップ麺を3つ並べて待っていた。
櫛は眉をひそめた。
「それ、あたしのコレクション」
「食べ物なんて集めてどうするのよ」
ヒクイドリは肩を竦めた。
「落ち込んでるんじゃないかと思って用意したのに」
「・・・」
櫛はヒクイドリを見て、苦笑いした。
「あんた、結構いい奴なのね」
「お、3分たった」
ヒクイドリはカップのふたをぺりっとはがした。
「いただきます」
「妖精もご飯食べるのね」
「食べても、全部排出するけどね」
「汚いな」
桜は顔をしかめて、ヒクイドリの横に座った。
「ちょっと」
櫛は桜をにらみつけた。
「なんで、そこに座るのよ」
「いいじゃんどこでも」
「もう」
櫛は桜の横に詰めて座った。今度は桜が櫛をにらむ。
「せまいんだよ」
「いいでしょ。・・・ところで、どうするの?」
「何が?」
「聖体、シャーロットさんが使ってたんでしょ?怪物育てるのに」
「ああ、大丈夫だよ」
桜が言って、ポケットから袋を取り出した。中には、食パンの食べかけみたいなのが入っている。櫛はげ、と顔をしかめた。
「汚いなあ」
「食いかけを奪ってきた。少しでも残ってたら再生するらしいよ」
「気持ち悪い。プラナリアか」
「ちょっと、そんな不敬なこと言うもんじゃないわよ」
ヒクイドリはたしなめて、そのパンを回収した。
「これは聖別された、ありがたいパンなんだから」
「あたし、無宗教だし」
櫛は肩を竦めた。
「ところで、次のパンはどこにあるの」
「そうね。5つの世界に一つずつ。だから—」
ヒクイドリはポケットから手帳を取り出した。
「何それ」
櫛は桜の頭を踏み台にして、それを覗き見ようとする。
「冒険ノート」
ヒクイドリは顔をしかめた。
「覗くんじゃないよ」
「いいじゃん、見してくれても」
「企業秘密なの。これは」
「それで」
桜は尋ねた。
「次の世界はどこなんですか」
「超能力のある世界」
ヒクイドリは答えた。
「超能力者とそうでない人たちの間で戦争が起こっている世界」
「へえ、物騒ですね」
「あなたたちにはその世界の日本の、サガという都市に行ってもらいます」
「その世界にも日本があるの?」
「ええ。まあ、詳しいことは明日の夜。しばらくゆっくり休んで」
ヒクイドリは嫌な笑いを浮かべた。
「次の世界では忙しくなるわ」
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