スキル収集と仲間の強化 2日目 その2

 ≪エンペルガー・ジャガー≫はもがき苦しみながらも体勢を整え、吹っ飛ばした敵の方を向き次の攻撃に対応しようと動き出す。


 その時だ!


 ≪エンペルガー・ジャガー≫を追撃するように木々を薙ぎ倒し、茂みの中から物凄い勢いで飛び出して来た獣の姿が……。

 そのまま弱り果て、やっと立ち上がった≪エンペルガー・ジャガー≫に突進をする。

 その獣は≪エンペルガー・ジャガー≫よりも体長は大きく、おおよそ20メートルは超えていた。

 動物で例えるなら何だろうか?茶と黒を混ぜた色の毛皮で体を覆い、頭には鋭い角が一本生えている。まるでサイを凶暴化させたような感じである。


 痛々しくも≪エンペルガー・ジャガー≫の傷と同じ場所に、鋭利な角がめり込むのだ。


「キィギャァキィギャァ」


 この奇声と共に≪エンペルガー・ジャガー≫は数メートル吹っ飛び、横たわるのだ。


「クロユキさん!!…これっ……、ちょっとヤバいんじゃあ……」


「分かってるよ!!そんな事は……」


 しかし、オレはこの恐怖と言う名の光景を見てしまい、体の言うことが効かない。

 てっきり、あの光景を見たシズであれば、私もあの鋭利な角で……とかなんとか言い出すと思ったが、やはりこの状況下ではそんな事言える余裕も無いか?

 もう一体の獣は横たわった≪エンペルガー・ジャガー≫を屈服させたと言わんばかりに、その禍々しい目で俺たち2人の姿を凝視する。

 その獣の上には≪トラファルガー・ライナサラス≫と表記されていた。コイツもモンスターの中の一体であった。


「シズっ!!取り敢えず、コイツが攻撃してきたらオレの【断固たる決意】で時間稼ぎする!!その隙にっ……」


 考える時間すらも与えてはくれなかった–––。


 ≪トラファルガー・ライナサラス≫が突進のモーションに入る。前脚を曲げて前屈みになり、こちらを睨みつけて……狙いを外さんと定めているのだろう。


 「バッ、バババババババババ!!」


 猛烈な地面を蹴り上げる音……。

 土吹雪をあげながら、オレたち2人の方へと向かってくる。

 そして一挙一動を見逃さないと、オレはスキル詠唱の準備をする。

 しかし、≪トラファルガー・ライナサラス≫は想像を遥かに超えたスピードを発揮して、突っ込んできた。


 そして……オレは目を瞑りながら詠唱する–––。


「クロユキさん!!危ない!!避けてー!!」

「スキル!【無双回避】【断固たる決意】!!」


「キーーン!!」


 間一髪直撃すれすれに≪トラファルガー・ライナサラス≫の角は防御壁に衝突し、高い音を出しながら≪トラファルガー・ライナサラス≫は後方へと後退りした。


「ハァハァハァ…、マジで間一髪だった……」

「一瞬、ヒヤって…でもクロユキさん…また攻撃が……」


 口から吐き出される白い息は、どんどん早くなる。


「クロユキさん!!≪エンペルガー・ジャガー≫がっ…立ち上がって……」


「クッソォー、取り敢えずだ……スキル!【覚醒(ホーリー・アクセル)】!!」


 【断固たる決意】は発動してから15分しか効力を持たない。15分間はこの防御壁で守ってはくれるが、その効力が切れた時が……生死を左右する!

 その事はこの2人がよく分かっている。意志は同じだ。


 勝負を仕掛けるのは……


 15分後–––。


「オレは【蓮斬(ディザスター・バースト)】の準備をしとく!!シズは… 【修練の一撃】の準備を!!!」


「うん…分かった!!」


 ≪トラファルガー・ライナサラス≫はオレのスキルによって張られた防御壁を、幾度も破壊しようと試みるが亀裂すらも入らない。

 数度の無駄な攻撃によって体力が減ったのか?≪トラファルガー・ライナサラス≫の攻撃は一瞬止まったように見えた。

 しかし、≪エンペルガー・ジャガー≫はまたもや体勢を整え立ち上がると、攻撃が止んだ≪トラファルガー・ライナサラス≫への反撃が始まる。


 それと同時に、オレのスキルで生成された2人を囲む防御壁が消滅していく。


「あっ、防御壁が……もう15分経ったのか!?シズっ!!あのモンスター2体…攻撃するなら今がチャンスだ!!!それと…オレはいつだって…お前を守るよ!?だから……スキル!【蓮斬(ディザスター・バースト)】!!」


 オレの身体は並ぶモンスター2体の前へと送り込まれ、両手を天に高く挙げて…スキルモーションに入る。

 そして、アサシンブレードでの連続30連攻撃を繰り出し、2体のモンスターを切り刻む。


「ウギャララララァ!!!」

「ガウゥガウゥガウゥガウゥ!!!」


 2体の悲鳴の後にシズのスキル【修練の一撃】が一閃!!


 放たれた風圧と白い光でこの場所を覆う–––。


 ≪エンペルガー・ジャガー≫は悲鳴の後に欠片となり飛び散った–––。

 だが、≪トラファルガー・ライナサラス≫はボロボロになりながらも立っていた。


 最後の力か?


「ウラララガガガガァァァァァァ」


 一声(いっせい)して、再度地面を蹴り上げて攻撃に移る。


「クロユキさんっ!!!!」

「分かってるって!!」


 オレは右腕を振り上げ……


 瞬時に突進を図る≪トラファルガー・ライナサラス≫の真横に移動……そして振り上げた右腕を首に向かって一刀両断–––。


 瞬間的過ぎ?そのモンスターの悲鳴は無いまま、≪トラファルガー・ライナサラス≫の首は地面に落ち果て、破片となり朽ちて行った。


 こうして、これまでの中で最大級の危機を乗り越えて見せた。

 オレの腕からは、不快な感触を残しながら痙攣(けいれん)が伝わってくる。

 飛び散る割れたガラスのような破片が舞い踊る様を見て、その痙攣は次第に終息を辿り、安堵が訪れた。


「なっ、なんとか討伐出来たな?」

「うっ…うん!!なんとかね……」


 オレたちはまだ……


 【辺境の地】の手前……

 【エスゴール氷山】にいる–––。

 

 ついさっきの安堵が…不安と恐怖へと変わり、オレたちの身体を支配していく。

 これまで幾度とHPゼロという名の「死」を覚悟しては、安堵する。その繰り返しであった。

 目の前に対峙する敵への覚悟……その重圧が今になって重くのしかかってきたのだ。


 この先待ち受ける……


 数多の危機を……

 どう乗り越えるか?


 頭の中で今までの戦闘を浮かばせていた–––。


 ≪エンペルガー・ジャガー≫

 ≪トラファルガー・ライナサラス≫


 2体のモンスター討伐を終えて、この【エスゴール氷山】の山中に覆われていた雲が流れ、青色の空が現れた時だ。



 『レベルアップしました』


 シズの前に白い半透明のパネルがが現れた。

 流石にこのモンスターたちは強力だった為、得た経験値は高かったのだろう!?

 シズのレベルは16から20へと上がったのだ。

 この2体が倒れた場所にはアイテムとコインが落ちていた。

 それを発見したオレたちはそこへ向かう。


 ≪エンペルガー・ジャガー≫が消え去った場所に近づくと、コインとアイテムが……


『金貨【9000ジェム】を取得しました』


 オレの前にパネルが表示され、次に落ちているアイテムに向かって【鑑定】を使う。


【エンペルガー・ジャガーの毛皮】

装備品の素材として使われる。耐久性に優れている。

売価価格『1800ジェム』


「これっ……オレよりもシズの方が……オレにはこの装備があるから…シズが取れよ!!これ使えばきっと良い防具が出来ると思うよ!」


 オレには【漆黒のアサシン 装備一式】を取得して装備が揃っているが、シズは未だ装備は【エリオンド・ソード】の武器しか手にしていなかった。その為、この装備素材になるアイテムはシズに渡そうと思ったのだ。


 それにしても早いとこ…シズの装備を揃えさせてやりたいものだ。

 しかし、オレのその気持ちを大きく裏切られてしまう結果に……

 シズはオレの言葉の通りに【エンペルガー・ジャガーの毛皮】を、アイテムボックスに仕舞い込み……

 オレは≪トラファルガー・ライナサラス≫が消え去った場所へと向かう。

 そこには黄色の宝箱とコインが落ちていたのだ。


 きっとその宝箱の中には……

 そう思いながらシズを呼ぶ。


「シズ!!この箱開けてみろよ!?」

「良いの?」


 この前の「今回は私じゃなくてクロユキさんが…」とシズの言葉を思い出していた。


「良いよ!!前はオレが取らせて貰ったし……シズの装備も早いとこ揃って欲しいし…」


 この言葉を聞いたシズの顔は嬉しそうに微笑んでいた。シズはその宝箱に手を差し出して開ける。

 すると、その中身は一つの武器が入っていた–––。


 欲を言えば…今のシズには防具が……

 まぁ、レア装備アイテムには変わりはないだろうと……シズのはしゃぎ具合を見て、これで良いのだと納得した。


「ねぇねぇ…武器が入ってるよ!?やったぁーー!!」

「良かったな!?早速【鑑定】してみなよ!!」


 そして……


【闇夜(やみよ)の剣】 ユニーク・唯一無二

世界に一つしか無いと言われている装備の中のひとつ。

身を隠しながら、素早い動きに耐久性を備えた装備。

刀身から『闇のオーラ』を吐き出して強烈な一閃を放つ。

『付与スキル』

【ダーク・シャドウ】:【闇夜の剣】特有スキル『闇のオーラ』を刀身から飛ばし、敵に攻撃する。威力は絶大だ。

『破壊不可能』

【STR+65】

〈スキルボックス:【空】〉


 それは持ち手の柄から剣先にかけて、闇のような黒一色で染め上げられ、重厚感と刀身の刃に掛けては、妖魔の力を備わっているような黒光の艶が目立つ片手剣だ。


「この武器…すごく格好良い!!惚れたっ!!でもな…スキルボックスに…う〜ん……」


 シズにはまだ、唯一無二である【闇夜の剣】の持ち味を引き出せるような、直接的かつ高火力で、継続的に発動出来るユニークスキルを持ち合わせていなかった。


 ある意味で【責められるのがお好き】はユニークスキルの部類に入りそうだが……!?


 シズは【闇夜の剣】のスキルボックスへのスキル装着は一旦保留にした。


「この先…もっと強力なスキルが手に入るかも…だし!?まだいいやぁ〜!!」


 オレは思うのだ–––。


 コイツが身に付けているスキル【責められるのがお好き】が、こんなにも強力なモンスターを呼んでしまうのでは?と……なんたってこのスキルは大量のヘイトを集中させてしまうのだから……


 そして、『金貨【12000ジェム】を取得しました』とオレの前にパネルが表示され消える。

 気付けばオレたち2人は、こんなにも強大なモンスター2体を被ダメゼロで討伐を為し得てしまったのだ。


 クロユキとシズは、他のプレイヤーと比べてどれほど自分たちが特殊…なのかを未だ理解はしていないようだ。

 なんせ片方は【AGI】極振りにてレベル1でカンスト、そしてもう片方は【STR】極振りにて未だレベル20である。

 そんな彼らが推奨レベル45以上のフィールドとは知らず……モンスター討伐を為し得てしまうのだ。


 この2人の尋常ではない異常さが、『セカンド・ライフ』内で知れ渡る日はそう遠くはなかった–––。

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