ログアウトと帰還

 なんとか【エスゴール氷山】を突破した2人は、先を急ごうと【辺境の地】に向かうところだ。


 オレは先へと歩き出した–––。

 2歩、3歩…と歩み出す。


 しかし、オレの後を追うシズの姿は無い。何やら思い詰めたように立ち止まるシズの姿を発見した。いつもの発情期発言もない。

 

「シズっ…どうした?行くぞ!?」


 オレの言葉に反応せずに、そっぽを向いて俯いている。地面に根を張らせたように、その場に立ち竦むシズ。

 泣いているように見えたんだ–––。

 でも……何故??


 ゆっくりと向かえば良かったのだろうか?女心がわからん奴め……ロマンチックに欠けるオトコだ……


 ここは仮想空間で…オレのステータスは【AGI】に極振りだ–––。リアルのスピードより3倍、4倍ほどの速さを発揮できてしまう。

 あっと言わせぬ速さでシズの元に来てしまった–––。

 シズの肩に手を置き、声を掛ける。


「どうした?シズ……」


「…………」


 下を俯くばかり…何も応答はなかった。

 一体どうしたのだろうか?オレには理解に苦しんだ。理由を発する訳ではなく、ただ下を俯くだけだ。


「おいっ……」


 離した手をまた肩に掛ける瞬間だ。

 やっと重い口が開いた–––。


「クロユキさん…私、リアルの用事があって…落ちなきゃ!……っでも、また必ず戻ってくるから……」

「用事って…これから【辺境の地】に向かうって時に?」

「うん…どうしてもリアルに戻らなきゃいけなくて……」

 

 そんなに重要な事なのだろうか?いつもの様子とは正反対で悲しみを浮かべる姿があった。

 そんな様子を見てしまってはと…シズから理由を聞き出す気も失せてしまった。

 コイツが戻ってくるのはいつだろう?そんな想いが頭の中を駆け巡る。


 オレはそこに、ただ立ち竦む事しか出来なかった–––。


「絶対に……戻ってくるから!!絶対……戻って来たらメッセージ…送るね!?」


 オレの小さく頷くのを見て……

 メインメニューを呼び出し、ログアウトを選択する。


 それを見た時……オレの口は咄嗟に空いた。


「シズっ!!……絶対に戻って来てくれよ!!!待ってるから……」


 プレイヤーのログアウト…それを見るのは初めてだった。その場から消滅してしまう…消え去る–––、様々な感情の余韻を残しながら……そんなエフェクトが掛かっていた。

 未だに…なぜあんな深刻な表情を浮かべているのか分からなかったが……重要な事なのだろうと納得した。


「う〜ん……オレ1人で【辺境の地】攻略と隠しダンジョン……なんだかんだでアイツが居ないとな……」


 シズがログアウトして1人で…という不安があった為、【始まりの街】に引き返すことにした。引き返すついでに、そこら辺で狩でもしたら少しくらいは稼げるだろうと踏み、ここを後にすることにした。


「1日くらい狩すれば……少しは稼げるかな?」


 そう呟き、来た道を辿り戻るのだ–––。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る