スキル収集と仲間の強化 1日目 その1

 あれからオレたち2人は【勇者たちが集うBAR】を後にした。


「見かけに寄らず、いいヤツだったな?」

「そうですね…なかなか良い身体の持ち主さんでした…エヘエヘエヘ……」


 こうして、2人は【始まりの街】の露店街を歩いていた。


 すると何やら通知音が鳴る–––。

 それはメッセージだった。


『よっ、クラウドだ!さっきはありがとな!早速メッセージ送ってみた!公式サイトでさっき発表になったんだけど…アップデートで2層が実装されるらしいぞ!?ギルド設立も今は出来んが、1層突破したら出来るようになるらしい!!あと…良い情報を教えてやるよ!!【始まりの街】から少し行ったところに【辺境の地】ってフィールドがある!!聞いたんだが、そこに隠しダンジョンが有るって話だ!!誰も発見した奴はいないらしいがな!?スキル収集にもそこのフィールドは適していると思う!だが、なかなか手強いぞ!?用心するんだな!!じゃっ、またな!!』


 クラウドからのメッセージを閉じた–––。


「【辺境の地】…なかなか手強そうですね!?それに隠しダンジョンって…もしそこ発見して攻略できたらレアアイテムゲット出来るかもしれませんね!?ねっ!クロユキさん!?」


 浮かれているシズがいた。

 それはそうだろう!オレと2人で洞窟のダンジョンを攻略したのに、報酬は全てオレが手にしてしまったのだから……


「あぁ…行ってみる価値はあるか…!!なるべくラストアタックはシズに譲るよ!!オレは後衛で援護に徹する!!だけど、無理に特攻するなよ!?」


「エヘッ!!!ありがとうございます!!」


 八重歯を見せて笑うシズは可愛かった–––。


 ふと思い出したかのようにオレは口を開けた。


「そういえば…思ってんだけどさっ…!!オレたちパーティー組んで、もう仲間なんだから敬語はやめねぇか?」

「えっ??でも……」


 困り果てたシズの顔がそこにあった。


「良いんだよ!!それにモンスターと戦闘中に敬語って…咄嗟の判断が必要な時、一拍遅れそうなんだ!?だからさ…敬語はもうよしてくれよ!!」


「じゃあ…分かりました……じゃなくて、分かった!」


 その言葉の後はなんだか明るく感じるのだ。


「マップ!!」


 2人は目の前に現れたマップを凝視する。現在地を確認してから先ほどの「クラウド」からのメッセージで書いてあった【辺境の地】の場所を辿りながら探す。


「あった!!!ここが【辺境の地】か!?もう少しかかりそうだな!?」


 マップ上ではオレたちが今いる、【始まりの街】から【辺境の地】までは大体2キロほど離れているのが確認できた。


 この仮想空間でも夜はあるのだろうか!?いつの間に、日は沈みかかっていた。


「なぁ、シズ?オレはレベル1でカンストだけど、シズはレベリングしないとダメだと思う…それで考えたんだけど、アップデートで2層が実装されるまでの数日間、お互いの強化って事で…【ログアウト】から【ログイン】の時間が勿体ないと思って……んでこの数日間フィールドで野宿する!ってのはどうだ??その方が効率も良いと思う!!!」


 少しの沈黙が続く。

 そしてシズは考えているのであろう。するとパッとオレの方を見て答えた。


「クロユキさんの言う通り…この数日間ログインしっぱなしで狩りに集中した方がいいと思う!!そしたら…スキルだって、お金も……」


 オレは一安心したようにホッと息を溢し発した。


「じゃっ、取り敢えず…長期戦になりそうだからポーション買い溜めしとくか?」


 シズがコクっと頷くのを見て、商店を探す。


「オレあんまり【始まりの街】の事はよくわからないんだ!!ログインしてすぐフィールドに向かったから……あれ?そこ売ってないの?」


 露店街の先にフラスコが描かれている看板を指差して、シズを見る。


「確か…そこだったと…」


 その言葉が合図のように2人はその看板の元へと向かう。

 するとその店の前に立て看板があり、こう書かれていた。


 『只今ポーション売り切れ』


 それを目にした2人は落ち込んで、はぁっとため息をつくのであった。


「しょうがないかぁ…最悪フィールドで寝る!!だな!?そしたらHP回復するだろうし…」


 突然スイッチが入ったようにシズは顔を赤く染めた。


「ハァハァハァ…フィールドで寝たら、その寝込みをモンスターが…ハァハァハァ……」


「やめろ!!何かのエロゲーと勘違いしてんじゃねぇ〜!!」


 シズの頭の中で、何が繰り広げられているのか分かる気がした。いや!!!分かりたくもないわ!!コイツの頭の中なんて!!その場で動かなくなったシズを引っ張り、【始まりの街】を後にし【辺境の地】へと向かうことにした。


「シズ!!完全に日が沈む前に【辺境の地】に着いておこう!?流石に夜のフィールドは危険だ!!」


「そっ、そうだね…!エヘッ…エヘヘ……」


 言葉の最後に奇妙な声が聞こえたが、完全スルーすることにした。何に喜びを感じているのかが分かってしまう自分に苛立った。


 その時はもう闇が覆う手前であった–––。


「シズ!?そういえば…【辺境の地】の前に【エスゴール氷山】を越えないといけないんだ!!恐らく…言葉の通り…氷?雪?の山だと思うけど…下手したら今夜中に【辺境の地】に着くのは難しいかもな!?」


「そうです…そっか!!できればその【エスゴール氷山】を越えてから、どこかで野営した方が良いかも…」

 

 ふむふむとオレは頷いた。


「あぁ、オレも同意見だ!!じゃあ、先を急ごう!?」


 こうしてオレたち2人は、また新たな冒険に出ることになった。


 暫く歩くこと……


 後ろには【始まりの街】が小さく見える。【森と泉】の方向とは逆方向に向かうのである。あの時よりも道は険しく、木々が覆い茂っている。森の奥に進むにつれて、気温が下がっていくのが分かる。それと同時に【エスゴール氷山】が近づいてると察知する。

 歩く道は勾配を付けた下り道だ。その奥には【エスゴール氷山】と見られる壮大で白く染められた山々…山脈だろうか?


 それはなんとも絶景であった–––。


 その景色は、冬の利尻富士を想像させる。


 森の声?木の声?


 生い茂る木々の中から何語かは分からぬが、声が聞こえてくる。それは薄暗い闇の中で風と一緒に放たれるのであった。


「森の中から声聞こえない?」


 オレの数メートル後ろを歩くシズに呼び掛けた。


「なんか…木から?声聞こえてくる!!もしかして…モンスター??」


「神話に出てくるエントか?」


 地響きと共に話し声が聞こえてくる。


「クソっ!!ここでモンスターのお出ましかよ!?もう【断固たる決意】だって使っちまってるし。…っシズっ!!」


 咄嗟にシズに気付けと言わんばかりに叫んだ。その地響きの主たちがシズの背後に現れたのだ。


「キャッ!!クロユキさん!!どうしよう!?エントが3体も……」


「とにかく、オレの方に来い!!ゆっくりで良いから!!!エントを警戒しつつ……」


「キャアァァァァァ!!」


 エント3体はシズ目掛けて大きく長い腕を振りかざして、攻撃しようとした。それもそのはず。シズのスキルには【責められるのがお好き】があり、ヘイトを集中させてしまうのだ。


「クソッ、クソッ〜〜!!…こんなところで…こんなところでオレの仲間を死なせるかよ!!シズっーーー!!」


 なんだろう??コイツとは出会ってまだほんの少ししか…でもコイツを失いたく無い!!!


 そんな想いが、オレの奥底から呼び覚まされた。


「嫌だ嫌だ!…オレの目の前で仲間を死なせるなんて…それだけは…絶対に嫌なんだよぉーー!!」

 

 リアルじゃあ不甲斐ないサラリーマンだった……

 でも、ここじゃあ…ここだから……

 絶対に生き抜いてみせる–––。


 絶対に守り切ってみせる–––。

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