巨漢現る!!その名は?

 この賑わい、人の多さ、そんな光景に圧倒されつつも、店の中にスタスタとゆ〜っくりと歩き出す。


 この中にいる者たちの視線が浴びせられた。


 その視線の理由はドアの開いた音?いや違う、その理由はひとつだ。オレのこの服装だ。

 中にはオートメイルとまでは行かないが、鎧に身を包んだヤツ、少しの装飾が施された武器。そんな中での漆黒の衣に包まれたオレの姿!そりゃあ目立つに決まっている。


 ヒソヒソと話す小声が耳に入る。


 『あの格好…、レア装備か?』

 『なんだあのマント?』

  『あんまり見かけねぇ顔だな!?』

 『おいっ、オンナ連れだよ!!』

 『あの娘けっこう可愛くね!?』


 なんぼ小声で言ってても聞こえてんだよ!…なんて事は言えないよな!?めっちゃ変な目で見られてるし…!!アウェイ感見せすぎだよな!?それにオレの後ろにいる、このクソど変態オンナだってまぁ目立つ目立つ!!


 知らぬが仏だなっ!?


 オレは下を向くシズに視線を向けて話しかける。


「なぁ、そこのカウンター行こうぜ?」


 この店の奥にはカウンターが2つあった。ひとつは「ご注文はこちら」と書かれたカウンターだ。そしてもうひとつは「ギルド設立申し込み窓口」と記されている。


 正面に面している「ご注文はこちら」のカウンターにはなんとも綺麗な女性が立って笑顔を向けている。

 シズはなんだか元気がなく、何かとつけては発情期ど変態発言をかますであろうが、どことなく俯く姿が見受けられた。


「シュワシュワ気になるんですけど、それよりもこの視線が……」

「お前にとっては嬉しい限りじゃないのか?」

「クロユキさんは私の好みのプレイ分かってないんです!!」


「分かりたくも無いわぁ!!まぁ…、アレだ。なんか注文して…取り敢えずこのシュワシュワを飲んでみたいんだが!?」



 オレはカウンターにいる女性と、カウンターに書かれているメニューに目を向けた。


 はてはて…何を注文してみるかな?先ずはこのシュワシュワと…それとビーフステーキ??それと、ダークラビットのもも肉??う〜ん…迷うな!?割と今の所持金には嬉しい価格だし…う〜ん……


 

 その時だ!2人の背後に人の気配……


「このダークラビットのもも肉ってのが上手いんだ!!多少は金あるんだろ?試しに食ってみな!!!不味かったら金オレが返すぜっ!!」


「キャッ!!」

 

 シズの奇声と……

 それは威勢の良い声であった。2人はその声の主に目を向ける。


 身長たけぇ〜…それにスキンヘッドが目立つ!!んで、紅い鎧をまとって…背中には刀身が太い片手剣と装飾を施されたシルバーの盾…う〜ん…これぞ冒険者!!の格好だ!!!


「あっ、アンタは一体……??」


 オレは振り向きざま咄嗟に発した。


 その男は笑いながら、オレたちを見ていた。


「まぁまぁまぁ…ほれっ!!注文しちゃいなよ!シュワシュワ2つにダークラビットのもも肉のステーキ2つ…まっ、こんくらいで良いか?お姉さん!それで頼むわ!!これで良かったよな?」


 初対面なのになんとも図々しい男であった。

 オレは困惑の色を出しながら答える。


「はぁ…まぁ良いんですけど……」


 カウンターに立つ女性が口を開けた。


「それでは【1500ジェム】になります!」


 すると『【1500ジェム】支払い』とパネルが現れては支払いを済ませた。

 

 間髪入れずにその男も注文する。


「オレもシュワシュワ1つとダークラビットのもも肉ステーキひとつ!!」


 オレたち2人は後ろを振り向き、空いている席を探した。席は4人掛けしか空いておらず、仕方ないとそこを選ぶ事に。


「シズっ…そこ座ろう!?そこしか空いてないよ!!」

「全然、そこで良いですよ!!」


 そう言いながら、4人掛けの席に腰をかけた

 オレとシズは向かい合って座る事に…


 しかし、それは突如として起きたのであった。


 そのなんとも勇者という言葉が似合う男は、シズの隣に腰を下ろしたのである。先程注文していた商品2つを手に持ちながら。


 えっ!?という顔を2人して浮かべていただろう。


 注文を終えて、仲間内に戻るであろうと思っていた矢先の出来事であった。


 たちまちその男が席に着くと言葉を発するのであった。


「ここのシュワシュワってのがまた美味いんだよ!!ほれっ!!飲んでみろよ!!グイッと!!!まぁアレだ…リアルで例えるならビールみたいなもんさ!?アルコールっぽい感覚はねぇけど、酔ったエフェクトみたいなもんが、飲んだ奴の表情に現れるんだ!!仕事終わりのビールみたいなもんだよ!!グイッといっちまいな!!」

 

 この男からはナニかを感じるものがあり、そしてシズも同じように言われるがままにジョッキに口をつけたのだ。

 図々しいだけではなく、なにか温かいものを感じたのだ。


 その男は再度口を開いた。


「アンタ…この店の中で一番目立ってんだぜっ!!その漆黒の衣…レア装備かはたまたユニークシリーズか……?まぁ…用心する事だな!?アンタみてぇのが逆に一番危ねぇんだがな!?見た目と違って…フタ開けたら変態過ぎるスキル持ちとか……!?そうじゃねぇと、まだ始まって間もない…ましてやまだ1層だって言うのに…そんな衣着てるとよ、狙われるぞ!?」


 シズがオレに小さく耳打ちする。


「やっぱりこう言ってるし…ここ出ませんか?」


 いやっ!!と呟き男と話を続ける。


「アンタは狙ってるようには見えないがな!!!見た目と違って人が良さそうだしな!?」


 目の前に座るその男は鼻で笑った。


「まぁな…おめぇさんに言いたいのは…そのレア装備かユニークか……は別としてメイン装備とサブ装備つう使い分けをした方が良いって事だ!それにな、オレはおめぇさんを見たのがこれが初めてじゃないんだ!!少し…変わった戦い方してんのを見たんだよ!攻撃はしねぇし、避けることしかしなかったろ!?ちと面白い戦い方してんな!?って思ってたんだ!!」


 その時のオレは驚いた顔をしていただろう。


「人目避けてフィールド狩りしてたつもりだったけど…見られてたんだな!?つか、サブ装備って……?」


 男はうんうんと頷いた。


「使い分けした方がモンスターの討伐も楽になるぜ!?そういえば…これを言っておきたかったんだ!!オレと同じ日からログインしてる奴が居るんだけどな…まぁそいつはリアルの知り合いなんだけどな……!!」


「少しばかりオレもそう思ってたところだったんだ!!モンスターによっては装備を変えた方がって……」


「だろうな!?そいつな…発売日当日からログインしっぱなしで、無我夢中になって鍛冶屋開く資金貯めたんだよ!!いわゆる、マスター・スミス希望だって事だ!!まだまだ駆け出しで小さな店なんだけどな!?今度そいつ紹介してやるよ!!装備だってメインとサブくらいは使い分けてぇとこだしな!?まぁ…そいつの為と思ってくれよ!!」


 するとシズが口を割って入って来た。


「マスター・スミス…私もトンカチで打たれて…アァン!!!そんなプレイは…はぁはぁ…ダメっ!ダメぇ〜!!」


「お前少し黙ってろ!!」


 ゲンコツ1発食らわし、オレはシズに突っ込むのであった。それと同時に男は微笑んで言う。


「そういえば…メッセージのやり方分かるか?パーティーメンバーと狩行った時に、はぐれちまったり、別行動する時にだって役に立つんだぜ!?そんでもってオレのこともフレンド登録しといてくれよ!!そしたら、いつでもどこでもメッセージを飛ばして、フレンドと会話ができるんだ!!折見て連絡するからよ!そっちもなんかあったら連絡くれよ!!オレの名前…【クラウド】って言うんだ!!」


 オレは分かったと言いフレンドリストに【クラウド】を登録する。それを見ていたクラウドはジョッキを持ち上げこう言った。


「ヨッシャアー、じゃあ改めて仲間って事で…乾杯すっか!?」


 シズが小声で口遊んでいた–––。


「私の身体を…トンカチで…そっ、それはダメェ〜……」


 またこいつは発情期入りやがったな!?このオンナめ!!

 オレはシズに乾杯だとジョッキを寄せる。そして3人ジョッキを持ち上げて……


「かんぱ〜いっ!!」


 それからはあっという間に時間が経った–––。

 そのほとんどが【クラウド】の話だったが、気付けば3人笑い合っていたのだ。


 こうしてしかじか、オレに新たな仲間が出来たのであった。

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