キャラメイクはイケメンに!!

「ようこそ、セカンド・ライフの世界へ!ここはキャラメイクと、ちょっとだけシステム説明をする空間です!」


 目が覚めるとオレは白い空間にいた。


「今声がしたけど…どこだ?」


「ここだよ!」


「うん?」


 その声は何やら、 下の方から声がするのであった。上へと構えられた視線を下へと向ける。


 猫だ–––。


 今この猫が喋ったのか?猫が喋る訳がない。

 いや、想像もつかない。猫が話すなんて……オレはその光景を疑った。


「今喋ったのは君かい?」


 黒く艶のある毛並みにガラスの様に輝くブルーの瞳、首には革製で作られている赤い首輪に鈴がついている。

 ゲーム業界の技術はここまで進化しているのかと、感心を覚えた。

 それはまるで本物の猫のようで毛並みといい、感触が想像できる程のその動き。まさに本物ではと錯覚に陥る。


 その猫は長〜い尻尾でブンブン振っているのだ。


「はい、私はAIプログラムでこのセカンド・ライフ内でみなさまの案内人を任せられているキキです!!」


「ふむふむ…なるほどね!?じゃあオレはどうしたら良い?」


「じゃあ、初めにキャラメイクをして下さい!!」


 これが無いとつまらん!MMORPGの醍醐味はキャラメイクだ。キャラメイク次第で人からの注目度が上がるんだ!


「オレのキャラメイク…もちろんイケメンで!!イケメンなら何だって良いよ!」


「では…イケメンという事で、うんうん…鼻筋をこうして…目尻を整えて…輪郭をスッキリ……うん!!良い感じにTheイケメンになっちゃいましたよ!!」


 笑みを浮かべながら発せられた言葉の後に、手で顔の感触を確かめた。鼻の頭…目元、次に輪郭…を手でなぞる。


「うーん?…っまぁイケメンになってんのかな?うん!!良しっ、じゃあ次は何やるんだい?」


 小さく口元から飛び出る牙…それはなんとも嘲笑っているかのようで…尻尾を回すようにフリフリさせている。


 イケメンになってんのか分からないが、まぁイケメンにしたってんならなってんだろ?これでオレもモテモテ仮想空間ライフを送れるって訳だよな!?うんうん!余計楽しみになってきたな!?

 イケメンでトッププレイヤー…うん!完璧じゃないか!?


「続いてクロユキ様にスキルと武器を渡しますね!?はいっ!!!!」


 何だろう?スキル?武器?初期設定で貰えるもんか?って金は?少しくらい金は欲しいのだが……


 尻尾を振り下ろすと、上から剣のような物が降りて来た。

 そしてオレの頭に通知音が響いた。


『スキル【鑑定】を取得しました』

『アイテムを取得しました』


 白い半透明のパネルが現れては、書かれている内容が書き換えられる。


【鑑定】

アイテムオブジェクトの詳細を知ることが出来る。

取得条件

チュートリアル時に「キキ」から譲渡される。


「え〜とねっ、その【鑑定】って言うスキルなんだけど、今手にした武器に【鑑定】って言ってみて下さいな!!そのアイテムの詳細情報が見えるから!」


 その剣?ダガーナイフ?そんなご立派な剣なんて呼べる代物じゃないんだけどな…まぁ良い!!

 オレはその剣?ダガーナイフ?に【鑑定】!!と唱えた。

 

【ちょー初心者用ダガーナイフ】

ゴブリンの失敗作に命名をした攻撃力・耐久力全てにかけて最低ランクの小型ナイフ。お金が無いちょー初心者用向けの武器。【STR + 9】

〈スキルボックス:【空】〉


「えっ?ちょー初心者?オレそこまで初心者ってわけでもないんだけどさ!」


 キキの尻尾はクネクネと動かしている。


「まぁまぁ…そこはさっ、置いといて…、まずアイテム取得したら【鑑定】を使う事です!!今のようにアイテムの詳細が表示されるから!あとあと、アイテムにスキルボックスってあったら、そこにスキルを装着出来るんだ!!自分の好きなスキルを装着させれば良いさ!う〜んと…次はステータスかな?最初に割り振れる経験値ポイントは100有るんだけど…クロユキ様はどうしたい?」



 う〜ん…この最初のポイント振りが1番重要なのだが…さてさて、迷ったな!今まではというと、バランスを考えて振ってたな!?


 でもこれは今までと違って、このゲームに生活かかってるし…でも【STR】に極振りしてもな…?【VIT】がゼロな訳だし…だからと言って【VIT】に極振りしたら【STR】ゼロの【AGI】ゼロでトロいは弱ぇ〜のでゴミっ!!


 だったら…モンスターの攻撃から回避しまくって、ヒット&アウェイの戦略で行けば被ダメゼロで完全討伐??できんじゃね??って事は…敏捷性あった方が……


 うん??今なんか閃いたぞ!?【AGI】極振り!!!それだったら、最悪【STR】は武器で補えるし、【VIT】だって今後レベルも上がるだろうし…そん時のポイントで振ってけば良いんじゃないか?


 良しっ!!【AGI】極振りだっ!!!!!


 そしてオレのステータスはこうなった。


『基本情報』

【NAME】クロユキ  

【Lv.】1

【HP】60/60     

【MP】20/20


『ステータス』

【ステータスポイント〈+0〉】

【STR】0〈+9〉  

【VIT】0

【AGI】100  

【INT】0   

【DEX】0 


『装備一覧』

≪右手≫

【ちょー初心者ダガーナイフ】

≪左手≫

【空】

≪ヘルム≫

【空】

≪アーマー≫

【空】

≪グローブ≫

【空】

≪ブーツ≫

【空】

≪アクセサリー≫

【空】

【空】

【空】


『スキル』

【鑑定】


 見事にゼロが並び、【AGI】だけに振らされた。


 しかし、その考えは大いに間違いである。

 たとえゲームと言ってもだ、筋力を表す【STR】がゼロと言うのは、仮想空間での恩恵を授かるにはゼロではいけないのだ。


 したがって、数値ゼロと言うのはリアルとなんら変わらない筋力、となってしまうのだ。数値ゼロでは、ゼロのステータス部分は完全にプレイヤースキルで補って行かなければならない。


 だが、1ジェム1円に換金出来るこの「セカンドライフ」において、この様な「極振り」と言うのは断じて無謀そのものである。

 普通であれば、身を守るための【VIT】、そして、おのずとモンスター討伐能力に大きく影響を伴う【STR】、これらを配慮し、また「簡単には死ねないゲーム」という点において、極振りなんて事は、大いに間違いであるのだ。



「【AGI】極振り??…って本当に良いんですか?」


「良いも悪いも、この戦略カンペキだよ!!!もうトッププレイヤーも決まったもんだし…で、次は何するんだい?」


 何故か困った顔をしているキキ–––。


「えぇ〜っと…次は【始まりの街】にレッツゴーです!!!」


 「あっ…もう終わったのね!?んで、オレはその【始まりの街】に…なるほどね!?オッケー!!」

 

 「ちなみにどんな顔になったか気になると思って…行く前に鏡でも見てみてくださいよ!!カンペキなイケメンになってるの…かな?笑」


 オレの前に鏡が現れ、それを眺めてみる。


「ふむふむ……って、オレのまんまじゃねぇーかよっ!!!!!!!どこがカンペキのイケメンにしただよ〜〜!!!?」


「ではでは、もう飛ばします!!行ってらっしゃい!!!!」


 オレの目の前は真っ暗になって行く。


「たっ、頼むから〜、イケメン……」



 ぴゅん!!!!



 完全に真っ暗になってしまった–––。

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