1章-21話 決意の朝
日の光の眩しさにゆっくりと目を覚ます。身体を起こしてみるが、クロエの言った通り痛みが無くなっていた。
次に右腕に視線を移し、掌を広げて支障がないのを確認する。
「魔法って凄いな……」
右腕を無くし、失血死しかけた時に感じた喪失感、あるべきはずの物がない感覚も、夢だったのではないかと疑うほどに、全てが元通りだった。
昨夜クロエに情けない姿を曝け
思い出すと身体が震えてしまうが、シンヤは一人きりの部屋で、ゆっくりと長く息を吐き、両手で顔を叩くとベッドから降りる。
「やれることをやるっ。それしかないんだ」
恥も決意も覚えている。帰ることも逃げることも出来ないなら……。
自分自身に気合を入れ、手早く着替え部屋を出ると目の前にはセラが立っていた。
「おわっ!」
「おはようございますシンヤ様。昨夜はお楽しみのようで良かったですね。我ながら良いお仕事をしたと思います」
セラは優雅に会釈すると、昨日シンヤとクロエを二人きりにしたことを誇るように笑顔を浮かべる。
「良かないですっ。何をしていたと思ってるんですかっ」
「心の折れかけたシンヤ様が恥ずかしくもクロエ様の前で号泣して、慰めてもらっていたのでは? 屋敷中に泣き声も響いていましたし‥‥‥」
「……その通りなんですが。というか屋敷中にっ?」
「そこは冗談です」
「勘弁してくださいっ」
クスクスと口に手を当てながら笑うセラに、声を荒げて抗議する。
「でも、何かあってはいけないと、部屋の前で待機しておりましたから、ちゃんと把握していますよ」
「うわぁぁぁぁ……」
「大丈夫です。ひみつにしておきますから」
唇に人差し指を当てるセラを見て、シンヤは入浴の時といい昨夜といい弱みを次々と握られていると苦笑いするしかなかった。
「‥‥‥ありがとうございます」
「朝食の用意が出来ていますので、こちらにどうぞ」
腑に落ちないシンヤをよそに、セラは表情を戻すと食堂へ案内してくれた。
◆ ◆ ◆
「おはようシンヤ」
食堂ではクロエとリュートが先に来ていた。
「おはようクロエ、リュートさんもおはようございます」
「生きていたか、運が良かったようだな」
相変わらず眉間に皴をよせ、ぶっきらぼうに話すリュートを見て頭を下げるシンヤ。
「ああ言ってるけど、森からシンヤを運んでくれたのは兄さんなのよ」
「クロエ、余計な事は言わなくていい。そいつが死のうが生きようが、俺は興味がないからな」
シンヤが意識を失った後、森からどうやって運んだのかと疑問には思っていたのだが、目の前にいる不機嫌そうなリュートが、リネットのところまで運んでくれていたのだ。
「リュートさん、ありがとうございました。すみませんお礼を言うのが遅くなってしまって」
「そんなことはどうでもいい。俺はクロエの為にやっただけだ。正直、あのまま死ぬかと思っていたのだが、存外しぶといのだな」
皮肉めいた言葉だったが口調は厳しいものではなく、シンヤを助ける為に骨を折って動いてくれていたリュートに、心の中で強く感謝する。
「兄さん素直じゃないから‥‥‥」
「クロエっ!」
「本当に兄さんが来てくれて良かったのよ。わたしだけじゃ絶対に間に合わなかったから‥‥‥。でも、どうしてすぐに駆け付けてこれたの? 子供達にはすぐに家へ帰るように言っておいたのに」
「‥‥‥たまたま通りかかっただけだ」
クロエの質問に顔を背けて答える。
「兄さんいつもタイミング良いからね。ほら、昔わたしが襲われた時もすぐに来てくれたし」
「‥‥‥たまたまだ」
顔を見ないようにして答えるリュートの姿を見て、シンヤは魔眼で見破られないように顔を背けているのだと理解する。
「こっそりリネットに会いに行ったときも、兄さんにばれてすぐ捕まっちゃたのよね」
「‥‥‥お前の行動は分かりやすいからな。俺にはすぐにわかる」
「あーっ。そういうことだったの? 兄さん凄いっ!」
納得したという顔をしているクロエを見て、シンヤは少し前にリュートが言っていた
クロエの魔眼で全てがわかるわけではない
という言葉が、目の前で実践されていると感じた。
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