1章-16話 恐怖の果て
地面にダイブしたシンヤは、死を免れたことに安堵するが、未だ危険がなくなったわけではない。
すぐに身体を起こそうとするが、体勢を崩し倒れる。
おかしい。もう一度……。
震える左手でなんとか身体を起こしたシンヤの目に、魔物が何かを咀嚼している姿が映った。
その姿を見た瞬間、認識できなかった光景が現実としてシンヤの瞳に映る。
血だ。
魔物の口にはびっしりと血液が付着していて、周囲にも飛び散っている。その血はシンヤの足元に続いていて自身の右手に目が行く。
無い。
無い、……ない。
あるはずの場所にあるべきものが付いていない。
右肩から先が無いのだ。生まれてから今まで当たり前のようにあって、無くなるはずの無いものが……無い。
「ぎぃあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっ!」
脳が拒絶していた痛みが、……痛みと呼ぶにはあまりにも軽い、死を予感するほどの激痛がシンヤを襲う。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
何も考えられない、痛みに全ての思考が持っていかれる。魔物は喉を鳴らして右腕を飲み込み、ゆっくりとこちらに向き直る。
体験したことの無い痛みの中、無意識にシンヤは顔を上げた。
溢れ出る涙で霞んだ目に映るのは食事を堪能しようというのか、ゆっくりと、大きく開けた魔物の口内。
「シンヤっ!」
また死ぬのだと、諦めきった耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
次の瞬間、捕食しようとしていた魔物が炎に包まれ崩れ落ちる。
噛みちぎられた腕の激痛でかろうじて意識のあったシンヤは、誰かが駆け寄ってくる物音に安堵したのかその場に倒れ伏す。
「……シンヤ? ……うそ」
「ク、ロ……エ?」
魔物を倒してくれたのはクロエだった。シンヤに駆け寄り、彼女はその姿を目にして息を飲む。
地面にうつぶせに倒れているシンヤは全身が自身の血に塗れていて、右肩から先は千切れ、今も血が流れ出ている。
「待ってっ、ダメっ。……死なないでっ」
涙を流しシンヤの身体を抱き起し傷口に手を当てて、クロエが魔法を行使すると傷口が淡い光に包まれ、血が止まった。
「……血が出すぎてる」
傷口の血は止まったものの出血が多すぎた為か、シンヤの体温は徐々に冷たくなっていく。
「あり…が……、ご…め……」
シンヤは口を動かし声を出そうとするが上手く言葉が出ない、薄れゆく意識の中で、また死ぬのだろうと思った。
「ダメダメダメっ、アルのようにはさせないっ、村にはリネットもいるからすぐに治るの、お願いっ、死なないでっ」
その言葉を聞きシンヤは意識を手放す。せっかく助けてもらったのにごめんと思いながら……。
「大丈夫だからっ。絶対っ!」
意識を失ったシンヤの呼吸を確認するとまだ微かに息をしていた。クロエはその腕を肩に回し持ち上げるとゆっくり歩き始める。
「クロエ」
クロエの前方から声がかかる。
「兄さんっ、シンヤが…シンヤが死んじゃう。わたしまた助けられない、アルみたいにシンヤが……」
「落ち着けクロエ。……まだ息はあるんだな?」
近づいてきた兄の腕をつかむと、涙ながらに取り乱すクロエは、首を振り言葉をまくしたてる。そんな妹の嘆きを見てリュートは優しく諭すように声を掛けた。
「…うん」
「わかった……、そいつをよこせ。俺が運ぶ、間に合うかどうかはそいつ次第だ」
そう言ってリュートはクロエから渡されたシンヤを肩に担ぐと、すぐに村の方向に向け疾走した。
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