四節 過去を越えて
「私を前にその物語は成立しない、僕の草薙の剣がそのまがい物を否定する。」
鬼が叫び
「知れ認めろよ、俺が英雄だ、お前は俺の伝説に残れるか?」
英雄が問いかける
互いに剣を構えた。
僕は角の生えた少年へと姿を変え鮮やかな色に染められた水干を身に纏う。
まるで貴族になったみたいだ等とかつてを思いつつ、装飾の勾玉に軽く触れ力が貯まってる事を確認する。
これで再生出来る、戻ってこれる。
僕は何かを壊した、白く溶け体も意識も壊れただ前を目指した、そうして目指した頂を超え一つの姿をさらす。
「知れ、知らずともよい、人智が及ばぬものがここにあると、今ここに幻想の姿さらすとしよう。」
ああ、世界が、時の流れが遅くなる、そうか、僕とは、酒吞童子の正体とは、全てを理解した。
目の前にせまる剣をこちらの繰り出す八つの斬撃で受け流し、肩の肉を削ぎ落されながらも返す草薙の刀で突きを繰り出す。
打ち勝った、こちらが本物だ。
「あぶないねぇ水神の権能ってやつか、そうだよな不可能を可能にするのは英雄の特権ってやつだ。」
「そうだ!!僕は怪物(鬼)で英雄(人間)だ、自由に振る舞い貴様と言う物語を超えて征く、僕の剣を消滅させられなかった以上お前の剣はまがい物、さて後何合打ち合えるかな古き英雄。」
楽しそうに笑う奴を目指し同じ様に笑い駆け出し叫ぶ。
「これぞ我が荒ぶる息と知れ、伊吹五行の流れる先、溶ける鉄の流れる先循環せよ鉄穴流し鉧息(かんなながしケラブレス)」
「草薙げ、草薙の太刀」
「濁龍、大災害九頭竜崩し」
炎を返されるのは想定内、返された炎と大量の水がぶつかり莫大な水蒸気が戦場を覆う。
水神でもある自分に有利な状況を作り出せた。
「ハハハ、僕はここにいるぞ来るが良い。」
獲物を狩る、と言う思考のせいで気が付くのが遅れた。
「よぉ、俺の剣がまがい物なら、それは俺が草薙の剣を持っていないという事だ、ああ俺の死が近づいているそんな気がしねぇか?」
「何を言って、この気配は父さん!?」
気配、衝撃、バウンドする体、吹き飛ばされた。
迫る地面に腕を叩きつけ、蹴りで削り、最小のダメージに押さえて向かい合い迎え撃つべく姿を変える。
「何かしたな、山の秘術五行の真理循環の理を前に山川に潜む神秘を知れ畏れよ今ここに異形の姿晒す。」
僕は獣へと姿を変える。
五本の角とたてがみをはやした赤いネコ科の獣となり、鬼の腕は獣から別れ増殖し空中に浮かぶ。黒・黄色・白・青の体毛に覆われた四本の腕と、十三の目玉が宙に浮かんで獣に随伴する。
四本の腕が白い塊を受け止めたが次には白い牙が振り上げられる。
咄嗟に剣をくわえ迫る斬撃を切り払う。
「知っているとも、お前の死は我が父伊吹大明神その物で僕の父さんだ、この名はその父より貰った。」
僕は叫ぶ。
「それが、何で、」
「今は何も言わぬ、ただ我はただ荒ぶる神でありれはそのための姿そのための振る舞いだ、災害と思い諦めろ。」
「言ってるじゃねぇか、訳を話せよ親父。」
「むぅ」
白き大猪はその身に濃密な死を纏う。
「英雄の死そのものとなり命を奪う姿だ、さらに縁すら切り裂くおぞましき伝承を混ぜた。我はヤマタの我らを繋ぎ合わせる物、それを反転させ貴様を滅ぼす。」
「おしゃべりは相変わらずだな、荒ぶり野割け、暴雷大竜巻!!」
僕は水神としての、八岐の大蛇としての側面を強め霧の支配権を奪いながら解除する。
龍の姿で全てを吹き飛ばし仕切り直しと言うわけだ。
「ん?力のコントロールが、不味い今ここに獣の姿晒す。」
何かあり得ない出力が出た、それに自分がボヤケるような違和感も何だ今の?
少しの思考、一瞬の隙を大英雄が見逃すはずもなく、目玉の一つがヤマトタケルの動きを捉える頃にはすでにその剣が首元に迫っていた。
俺がまずいと思うその時、聖の蹴りが、まがい物の剣を弾き飛ばしていた。
「少しお父さんと話して来なさい。」
「でもヤマトタケルとの戦いは僕の試練で儀式だ、僕が僕であるための物だ。」
「もう成ったし思い出した、はい試練は達成、行きなさい家族の団欒を部外者が邪魔するものじゃ無いわ。」
輝く拳がヤマトタケルを吹き飛ばし、笑顔で手をふる聖に勇気づけられ改めて伊吹大明神に向かう。
「えっ、マジかそれでまだ人間の枠に収まってんのか、生身の肉体とまでは言わぬがもう少しまともな分霊ならもう少し、チョマ空中、グッ即席で足場を、おっとはえ~、先読みで誤魔化してるけどうすっかなぁ~ここでかマジか?」
相変わらず綺麗に空を飛ぶ、その当たり前が今は懐かしい(たまらなく嬉しい)。
流星の様に翡翠の輝きを夜空に残す少女を背景に、僕はヒョウタンの酒を樽に移す。
「かけまくも畏き伊吹の大明神、星の始まりより蠢く災害龍たる我が父より別れ生りませる死神の気配纏いし分霊よ、諸々の禍事に対し何故この様に振る舞うのか問いただす。父上飲もう喚こうそれで話が出来る。」
「儂が話す事はないぞ。」
そう言いつつ樽の前に座る白猪、性質的にあるいは神話的に酒の席に誘えば誘われる。
解っていて言った自分が言うのも何だが、ここで大人しく座る辺りシュールだ、そう言う物語に縛られない人間の側面として違和感を感じてしまう。
「僕に父上と戦う理由は無い。」
「そうか、儂にはある。」
「「……」」
何を話そうか、勢いで注いだ酒を煽りつつ沈黙は続く。
分霊ではあるが限りなく本霊に近い、ここで滅べば星に記録される程には、だと言うのにその出力は弱い。
数字付きの代表その言葉はこの世界に置いては大きいようでそれが目の前の存在を限りなく本物に近づけて……それはどうでも良い。
手段ではなくその目的、本物である必要がある?強さが必要無い、何故。
「では何故消滅を望むのかお聞かせ願いたい。」
「今のあり方を好まぬ。」
「否定してくれないのか。」
「「……」」
「一つこの世に呪いを残した、我は八岐大蛇、幾重に別れしその物を表す。」
頭が8つならだからとナナマタノオロチと呼ばれるわけでは無い、二本に分岐するものは「ひとまた」とは言わず「ふたまた」であり、「三叉槍」が刃の三本に分かれた槍であるように、「股」や「叉」は分岐点ではなく分岐先を数えるものである。
「そうか、僕に譲った宝も名も、わかれて再び現れるそのための物に過ぎなかった、いや普通に感情は乗っていた、神だし自然の摂理として行動し、その行動に対し感情が乗る、故にあれは本物だった。」
数多くに分岐した先の物、分岐先から現れるそう言う事もあるのだろう。自然の理に、人間性が流し込まれて過去を巻き込んで顕現した、八岐大蛇とはそう言う神で、なら歪な人間味と水神の理が……
なるほど復活出来るから一回姿を隠してやり直し、いやそれなら八岐大蛇で現れるはずだ、最初は蛇で回収しようとしていた、回収が目的で僕が白蛇に勝ったから消滅に目的を変更した。
「ならばその力の源を断ち、影響を削り御帰り頂く、白イノシシ、それは山の神の家来にすぎぬと笑ってやる。」
事は一瞬、地面に腕を突っ込み霊脈にアクセスする。
「見つけた、草なげ神剣草薙の剣」
させじと迫る巨大な白猪の顎を蹴りあげ、力を失ったその首を断ちそこらの木で造った首桶に入れる。
「終わった。」
ボソリとつぶやく、夜が終わり日が昇ろうとしている。
「あら終わったの?」
「うん、でも足りないからもう一度繰り返す。」
「そう、次は私も手伝えるのよね。」
もちろん、僕はそう言って彼女の手を握って走り出した。
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