希望の種は撒かれた

ムネミツ

 希望の種は撒かれた

 「がんばれ、富士山一号ふじさんいちごうっ!」

 一九五〇年代、富士山の裾野で巨大な黒い猿人型の怪獣に立ち向かうは頭部も胴体も四角い体で出来た下半身は戦車の銀の巨人、日本製国産巨大ロボット試作機第一号富士山一号だった。

 自由に動き回る猿人怪獣ウキラに対して、短く可動域の狭い機腕では格闘は不利と胸の連装砲や頭部の真空管を発電させて目から放つ電気光線を武器に無限軌道で立ち向かう富士山一号。

 その様子を生まれたばかりの孫を抱きながら戦場近くの研究所で見守るのは、浅草橋渡あさくさば・しわたる博士。

 「いかん、無茶をするな立男~~~っ!」

 叫ぶ博士、富士山一号の操縦者は博士の息子で赤子の父親の浅草橋立男たつお三佐。

 電気光線を受けて弱ったウキラにがっつり組み付き機腕を怪獣の腹に突き刺す

富士山一号。

 暴れるウキラ、逃がさぬ富士山一号は巨大猿人を捕らえたまま全速力で富士の火口へと突進し自爆したっ!

 自爆で起きた小規模な噴火の火力でウキラは断末魔の悲鳴を上げる事もできず消えていった。

 「た、立男~~~~っ!」

 防衛軍の兵士達に孫と一緒に避難させられた浅草橋博士。

 日本の為、家族の為に命を散らせた三佐の献身で日本初の怪獣危機は

終息した。

 この行為により、巨大ロットの対巨大生物兵器としての有用性を証明することになった。

 人は過ちを犯す、浅草橋博士は息子の死を政府が無駄にして巨大ロボットの軍用兵器として運用する事を恐れ資料を廃棄して孫と共に姿を消した。


 博士の心配は結論として、この先数十年の間は杞憂となった。

 政府は有用と分かってもいつ現れるかわからない巨大怪獣の備えに国家予算の半分もかかる巨大ロボットの建造や維持を無駄と判断したのだ。

 ウキラによる被害の復興にも多額の予算を必要として、政府は巨大ロボットどころではなくなり却って無くなってくれて良かったという見解だった。


 そして時は流れ二〇二〇年、地球を再び巨大怪獣の脅威が襲う事になる。

 そして、その脅威に再び立ち上がる男がいた。

 「ひい祖父ちゃん、ついにやったよ」

 秘密の場所にある巨大な地下施設、フォークリフトやクレーンが動き回り巨大な人型のロボットを組み上げている様子を眺めるのは金髪碧眼に眼鏡を掛けた白衣姿の青年。

 トーマス・浅草橋博士、富士山一号を制作した浅草橋博士の曾孫にあたる男だ。

 アメリカに渡った浅草橋博士は、軍事利用への転用を恐れつつも巨大怪獣の災禍に

世界が再び見舞われる事を恐れ研究を続けていた。

 博士の研究を父と共に受け継いだトーマスは、富士山一号が倒したウキラの如く二足歩行で格闘戦も十分に行える巨大ロボット兵器ブロッケンの開発に成功した。

 「ひいお祖父ちゃん、俺はブロッケンのデータを世界中に拡散するよ? 地球を守るには世界各国が巨大ロボットを持って力を合わせて怪獣に立ち向かうべきなんだ」

 亡き曽祖父に向けて想いをつぶやくトーマス、彼が開発したブロッケンのデータは拡散する種となり世界各国に蒔かれた。

 彼の曽祖父は人間の悪意を信じて恐れていた、だがトーマスは人間の善意も信じていた。

 目の前で組み上がって行く真紅の巨人スーパーロボット、ブロッケン!

 全てのパーツが組み上げられ、胸の中心部のリアクターが光りタービンが回転し轟々と激しい産声を上げて黄色の両目が光を放つ!


 地球を守る新たなスーパーロボット第一号がここに誕生した、ブロッケン誕生のニュースを受けて日本政府もアメリカに続けと世界で二番目のスーパーロボット白と赤の日の丸カラーのライジングサンの開発に着手する。

 日米に続いて三番目にロシアがスーパーロボットベロボーグを完成させた。

 

 拡散する種は、次々と花を咲かせ実を実らせて行ったのである。

 

 そして地球は、巨大ロボットで怪獣の脅威に立ち向かう時代に突入した。


 

 

 

 

 

 

 

 


 

 


 

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希望の種は撒かれた ムネミツ @yukinosita

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