気付いた瞬間、黒歴史

@r_417

気付いた瞬間、黒歴史

 青春と言えば聞こえが良い学生時代の思い出も、一度見方を変えてしまえば悪しき側面ばかり気になってしまうから恐ろしい。そんな、ある意味で当たり前の事実をヒシヒシと痛感することになるのは、卒業してからのことなのだが……。



「先輩、卒業おめでとうございまーす!」

「おお、ありがとなー」


 卒業式を間近に控えた三月上旬。

 写真部の後輩たちによる送迎会が盛大に催された。


 何となく入った写真部を、三年間辞めずに最後まで続けるとは思わなかった。

 勿論、真面目一辺倒で取り組んでいたわけではない。だけど、写真に対する並々ならぬ愛着を持っているわけでもない状況で入部したからこそ、退部することなく卒業することに驚いていたりする。

 さて、そんな軽い動機で入部したにも関わらず、退部することがなかった大きな理由は写真部の居心地の良さにある。先述した通り、常に三年間ストイックな活動をしていたわけではない。それでも、そんな活動姿勢を叱責することなく、容認してくれる器の大きさに救われた面は大きい。そして、いつしか写真の虜になり、写真部に対する愛情が育まれることなど、当然の流れではないだろうか。


 前置きが長くなったが、送迎会当日。受験勉強から解放され、来月からの一人暮らしに向けて夢と希望に満ち溢れた俺はかなり調子に乗っていた。だが、元々が気の小さい性格なので、良くも悪くも調子の乗り方の高が知れるとも言えた。


 部室の長机を中央に集め、デリバリーのピザを中心に集まる様々なお菓子を囲み送迎会は賑やかに進んでいく。高校生らしく一切アルコールの類はないにも関わらず、部室はハイテンションなノリになっていく。そんな盛り上がりの中、後輩たちが俺たち卒業生に一つだけ頼みごとを持ちかけてくる。


「先輩たちの指導、本当に分かりやすかったんです。本当に」

「……なあに、言ってるんだよ。お前たちがしっかりしてるから飲み込めたことだろー」

「そんなことないです! 口頭で説明するだけではなく、注意すべきポイントを纏めたプリントまで配布してくださったから、いち早く理解することが出来たんですよ!」


 相手を立て合う会話が繰り広げられる様は、まるでサラリーマンの忘年会のようだ。……と言いつつ、全ては想像にすぎない話。当たり前だが、未成年の俺はサラリーマンの忘年会に出席したことなど一度もない。

 しかし、アルコールが一切ないとは言え、卒業に伴う開放感も相まったハイテンションの空気で自制を働かせることはとても難しい。そして、開放感とハイテンションな空気感の二刀流ほど、ナチュラルな黒歴史トラップもまたないという事実に未熟な俺はまだ気付いていなかった。


「それで……。俺たちが先輩たちにもらったプリント、俺たちも後輩の指導に使わせてもらってもいいですかね?」


 お祭りのようなノリに開放感と、相手を持ち上げる褒め言葉の連発に俺たちはあっさり陥落した。


「そんなに気に入ってたのかー? いいぞ、いいぞー」

「わー! 先輩、ありがとうございますー!!」


 確かに後輩の効率良い指導・育成は、写真部の今後の発展に欠かせない課題の一つだろう。だからこそ、先代である俺たちが用意したプリントが分かりやすく、効率が良いと肌で感じたならば、使用したいと願い出ること自体は悪ではないだろう。写真部の発展のみにスポットを当てるなら、だが……。

 確かに三年間。時として怠惰に過ごすこともあったけど、三年間変わらず続ける愛着も確かにあったのだ。しかし、ここでのポイントは【時として怠惰に過ごすこともあった】という点であることに、未熟な俺はやはり気付いていなかった……。



「……ああああああああ」


 そう言って、大きな唸り声を響かせるのは新生活が落ち着いてから。

 真面目一辺倒ではなかった時期に用意したプリントは、終始真面目な記述ばかり載せているわけではない。学校内ゴシップも交えたノリツッコミ激しい小話なんかも添えたりしていたプリントが後世に伝わっていくと思うと、プリントが黒歴史を拡散する種にしか見えそうにない。とはいえ……。


「まあ、最悪の事態は回避されてるか……」


 俺一人の作品ではなく、同期数人で制作していた事実は少しだけ気持ちを軽くする。とは言え、黒歴史には変わりない。青春と言えば聞こえが良い写真部の思い出も、一度見方を変えてしまえば黒歴史にしか見えそうにない。……という事実に気付くのは、渦中である【青春】をすぎた後の特権かもしれない。


【Fin.】

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