とある神の憂鬱の原因は拡散する種

橋本洋一

とある神の憂鬱の原因は拡散する種

 今から385215876954694年6ヶ月17日前に神である私は、宇宙という箱庭を創り、その中に種を撒いた。知り合いの神から貰った『下等な生命体』の種だ。初め、知り合いの神は「自律する生命体は難しいから、まずは意識のないものから始めたほうがいい」とアドバイスしてくれたが、どうせなら難しいほうが楽しいだろうと、多様性のある種を撒いた。


 しかしまったく芽吹かなかった。芽吹くための土壌となる惑星が存在しなかったからだ。

 業を煮やした私は直接介入することにした。太陽系の第三惑星の地球と第四惑星の火星である。火星は失敗してしまったが、地球はなんとか生命体を生み出すことに成功した。


 水ができた。大気ができた。大地ができた。

 植物が生まれた。魚が生まれた。両生類が生まれた。爬虫類が生まれた。鳥が生まれた。そして哺乳類が生まれた。

 私たちとは異なる生命体が生まれたことに少々の感動を覚えつつ、私はじっと彼らの進化を見続けていた。

 恐竜とかいう生物は知能と知性がなかったが、それなりに楽しめた。しかし目を離した隙に、宇宙の標準設定である隕石が落ちて、滅んでしまった。私は設定を切り替えた。


 その後、猿人や原人、旧人を経て、新人である人類が産まれた。

 得意になって知り合いの神に見せると「あー、知性のある生き物が生まれたんだね」と感心した。私は君のほうはどうなんだいと訊ねると「植物に知性を与えることを目標としているんだよ」と難しいことを言っていた。なんでも六割方成功しているようだ。


 私はゆっくりと人間の進化を見守っていた。

 言葉が生まれた。集団が生まれた。

 戦争が始まり、文明も始まった。

 現実が過去となり、歴史となり、伝説を経て、神話へと成り上がったのも見た。

 途中、思い上がった人間が居たので、遊び半分で天災を起こしたら大陸が沈んだので、慌ててしまった。二度とやらないと誓った。


 しかし途中で飽きてしまった。

 その頃、別の遊びが流行っていた。哲学という思考ゲームだ。

 それに嵌ってしまった。

 『空白』という概念の証明を解いた頃、知り合いの神に「そういえば君の箱庭どうなった?」と訊かれてはっとした。


 見てみると酷いものだった。人間は互いを信頼していないし、綺麗だった地球は汚染されているし、誰も神を信じないし、それでいて平気で他人が死ぬのを見過ごしていた。正義も独り善がりだった。効率の悪いボランティアなどで自らが直接動けば助かる命も自己満足で助けなかった。私は人類という種を拡散しすぎたのだ。


 どうしたものか。そう思い知り合いの神に相談すると「だから多様性のある種は撒かないほうがいいって言ったじゃないか」と説教されてしまった。

 だがこのまま消すのも忍びない。そう相談すると知り合いの神は「仕方ない。僕の生命体を分けてあげよう」と言う。

 知り合いの神曰く、人類には共通の敵がいない。互いに争っているだけだ。ならば敵を作ろう。人類を滅ぼすことなく、ほどほどに痛めつけるものを登場させよう。


 知り合いの神が創っていた生命体『知性ある植物』を地球に送り込むと案の定、大パニックになった。しかし人類は滅びはしなかった。知性と情熱を持って、植物たちと戦うのだ。

 人間のために植物を滅ぼす戦いが、今始まるのだ。

 さてさて。どうなるのか。

 ちょっと一眠りしてから、また見てみよう。

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