魔白い

エリー.ファー

魔白い

 白い雪だるまが現れる。

 それは、最初は冬だったそうだ。

 いつの間にか。

 それは春にも出現するようになり、気が付けば夏にも秋にも、そして当然冬にも。

 拡散する種であると誰かが言った。

 確か、植物学者だったか、生物学者だったか、医療関係者だったか。

 詳しくは知らない。

 しかし、その白い雪だるまは次から次へと現れて拡散していくものなのだとそういう結論となった。

 生き物、ではないらしい。

 植物に、近いらしい。

 人間に何か病気をもたらすという訳ではないらしい。

 ただ、その雪だるまは皆、黒い目に、赤いバケツに、オレンジ色のニンジンで、枝による両手があり、右のほうにだけピンク色の手袋が付けられているらしい。

 そういうものであるらしい。

 出現する雪だるま、皆がそうなのである。

 だから、それが拡散する種である、と言われているものであることは直ぐに分かる。

 そして。

 人間は、皆、それから距離を取るようになった。

 ある雪だるまは通学路に出現し、子供たちは怖がり、学校の先生たちも一体どのようなものなのか分からず、登下校は遠回りする様にとの話をした。

 とある大学のホールにその雪だるまが現れた時は、ふざけた何人かの学生がその雪だるまを壊し、そしてどこかに捨ててしまった。数日後、そのホールにはまた雪だるまが現れたのだが、その数は百を超えていた。

 大きさも揃っているし、デザインも揃っているし、何より溶けない。

 とにかく、不気味なのである。

 研究をした結果、雪だるまたちは体から小さな種のようなものを放出して、それが夜の間に雪だるまを作り出す、とのことが分かった。

 しかし。

 なんということはない。

 そのことしか結局のところ分からなかったのである。

 ある日、その雪だるまを家の中に連れて帰ったという者が現れた。その者は老婆であり、夫が亡くなってとても寂しかったから、ブルーシートか何を敷いて、その上に置いたそうである。

 雪だるまは何故か非常に軽いそうで、老婆でも運ぶことができたらしい。この点も中々に不思議なのだが、話の都合上無視することにする。

 すると、あくる日、その雪だるまの姿は消えており、以降、その老婆の周辺で雪だるまが急に現れるといった問題は発生しなくなった。

 拡散するとばかり思っていた、多くの人たちはその解決策に非常に驚いた。

 早速、自分たちの周りに出現し、非常に扱いに困っている雪だるまたちを家の中に入れることにした。皆が家の中に雪だるまを入れるものだから、どんどんと部屋の中の気温が下がってしまう。

 何人かは凍死してしまったそうだ。

 そして、その雪だるまが何となく呪い殺したように見えるので、誰もその死体を片付けに行くこともできない。

 最初に雪だるまを消すことに成功した、と言っていた老婆も今はどこにいるのかもわからない。それこそ、部屋の中に、自分の身の周りでは見つけられないから、わざわざ遠くからか持ってきた雪だるまを入れてしまって、今度は凍死してしまったのかもしれない。

 少しずつ。

 本当に少しずつだが。

 雪だるまたちは、増えていった。

 そして。

 少しずつ少しずつ人間のいた場所に収まるようになった。

 もう、冬は来ないそうだ。

 ずっと、冬なのだそうだ。

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