第33日目 究極の移動手段

「では、こちらでお待ちになっていて下さい。オリバー様。」


オリバーを学園併設のカフェで待たせておくと、私はベソとノッポの元へと急いだ。


「ベソッ!ノッポッ!準備は出来た?!」


ノックもせずにガチャリとドアを開けると、そこにはもう顔面が青くなって椅子に座っているベソとノッポの姿があった。


「ちょ、ちょと。どうしちゃったのよ、2人供。」


私が慌てて2人の元へ駆け寄ると、ベソが顔を上げてこちらを見た。


「エリスさん・・やってしまいました・・・。」


「え・・?や、やるって・・・一体何を・・・?」


ベソの言葉につい、返事をするこちらの声も震えてしまう。


「もう・・・我々は終わったかもしれません・・・。」


ノッポもまるでこの世の終わりとでも言わんばかりの絶望的な顔で私を見つめる。


「ちょ、ちょと!2人供っ!一体何があったのよ!言いなさいっ!」


「我々は・・迂闊でした。」


「ええ、目先の事ばかりに取らわれてしまっていたんです。」


ベソとノッポが交互に言う。


「2人供、何が言いたいのよ?はっきり教えてよ!」


「では言いますよ・・・。エリスさん。俺達は攻撃力ばかりに目を向けていたんです。」


「武器ばかり・・・強化してしまっていたっ!」


ノッポ、ベソは拳を握りしめて悔しそうにしている。


「つまり・・・どういう事?」


「我々は攻撃力があっても・・・防御力ゼロだって事ですよっ!武器ばかりプログラミングに組み込んで・・・防具どころか、傷を治すアイテムすら忘れていましたっ!」


のっぽが叫ぶ。


「おしまいだ〜っ!!もう俺達はこれでお終いだ〜っ!!洞窟に入り、僅か数十メートル後には前方から敵が現れ、逃げようとした所、モンスターに背後に回りこまれた挙句・・・モンスターの手によって、無残にも殺されてしまうんだ・・・。しかもレベルがたった1の下等モンスター達に・・・。」


ベソが泣きべそをかきながら具体的な話を例に挙げて嘆いている。


「あんた達・・・いい加減にしさないっ!防御力がゼロが何よっ!その分強い武器を作ったんでしょう?だったらやられる前に、こちらから遠距離攻撃を仕掛けて襲われないようにすればいいだけじゃないっ?そんな悲観的になる事無いわよ?」


グズグズ泣きべそをかいている2人を必死で宥める私。あ~全く男のくせになんて女々しい2人なんだろう?


「兎に角・・・・私達はこのままここで何もしていなければ、全員永久にこの世界から抜けられなくなるのよ?それともどうしても絶対に魔鉱石を手に入れる為にモンスターと戦うのが嫌だと言うのなら・・・。」


私は2人の顔を交互に見ながら言った。


「2人で・・・私の姿になって、『白銀のナイト』達に夜這いをかけて虜にして頂戴っ!」


ビシイッと2人を交互に指さす私。すると途端に震えあがるベソとノッポ。


「じょ、冗談じゃありませんよっ!恐ろしい事言わないで下さいっ!」


「そうですよ!それだけは・・・死んでもごめんですっ!」


ベソとノッポに力強い瞳が戻ってきた・・ような気がする。


「だったら決まりね?アルハールへ向けて出発よ。あ、そうそう。1人、心強い助っ人がいるの。彼もついて来てくれるから、彼に洞窟で一番先頭を歩いてもらいましょう?」


私はベソとノッポにウィンクすると言った―。




「お待たせいたしました、オリバー様。」


カフェで転寝をしていたオリバーをユサユサと揺さぶりながら彼を起こした。


「ンア?」


虚ろな目でこちらを見るオリバー。う・・・ちょっと・・・よだれ・・垂らしてますけど・・・?


「申し訳ございません。すっかりこちらへ来るのが遅くなってしまいまして・・・お待ちになりましたよね?中々彼等がやってこないものですから・・。」


そして私はオリバーにベソとノッポを紹介した。


「この2人は『管理事務局』に努める男性です。背の高い方がノッポ、低い方がベソと言う名前になります。彼等が今回のモンスター討伐に一緒に行くメンバーとなります。以後、どうぞよろしくお願い致します。」


「ベソにノッポ・・・うん、いい名だな。」


オリバーが腕組みをしながら2人を見ると満足げに言う。


「ええっ?!」


「そ、そんな本気で言ってるんですかっ?!」


ベソとノッポが慌てたようにオリバーに言うが、かく言う2人を名付けた私自身、びっくりだ。今迄誰1人だって彼等の事をいい名だって言った人はいないんですけど!

あ、でもこの2人は気に入ってるのかもね。だって互いの事を「ベソ」「ノッポ」って呼び合ってるくらいだから。

だから私は言った。


「はい、正にこの2人にぴったりの名前ですよね?私もいい名前だと思っていたんです。」


すると素早く2人が反論した。


「嘘ですっ!」


「そんな風に思った事すらないくせにっ!」


ベソとノッポが交互に喚いているが、まあ・・・彼等は放っておいて・・・。


「オリバー様。本当にこの度は私達についてきて下さり、ありがとうございます。無事にモンスター討伐をする事が出来た暁にはお礼をさせて下さいね。どんなお礼がいいか考えておいて下さい。」


「お礼か・・・・。よし、分かった。考えておくよ。」


オリバーは笑みを浮かべると言った。さて、この時の私はオリバーが考えていたお礼がどんなものなのか・・・思いもしていなかったのだが、その話はまた後日。



「エリスさん。今から『アルハール』へ向かうと、到着するのは明日の夕方になりそうですよ。」


ベソが言う。


「ああ・・・タイムリミットが少ないと言うのに・・往復で3日近くかかってしまうなんて・・・。モンスター討伐にどのくらい日数がかかるかも分からないのに・・・果たして俺達は無事にこの世界から・・・ムゴッ!!」


最期まで言わせない為に私はノッポの口を塞いだ。


「何だ?この世界からって一体何の事だ?」


案の定、オリバーが質問して来たっ!


「い、いえ・・無事にこの世界からモンスターを追い払えることが出来るのかな~って言おうとしていたんですよ。ホホホホ・・・。」


わざとらしい笑い方をして必死に胡麻化す。おのれ、余計な事を口走ったノッポには後で何かお仕置きを考えておかなければ。


「確かに『アルハール』は遠すぎるな・・・。もっと早い移動手段があればいいのだが・・・。」


オリバーが腕組みをして考え込むが・・・。

フッフッフッ・・・・私にはある究極移動アイテムがあるのだっ!


「皆さん。私は素晴らしい魔法のアイテムがあるんですよ。その名も『MJ』という究極の移動アイテムがっ!」


そして、3人に背を向けると腕時計の液晶画面に触れて、自分のアイテムボックスを表示させる。そして魔法の絨毯のアイコンをタップ!


すると目の前にフワフワと浮かぶ魔法の絨毯が登場した。


「「「おおっ!それはっ?!」」」


何故か綺麗に言葉を揃える3人。


「エリス、それは一体何だ?初めて見るアイテムだぞ?」


オリバーがたずねて来た。


「ええ、これはですね・・・魔法の絨毯、略して『MJ』ですっ!」


「MJ・・・・?」


首を傾げるベソ。


「この上に乗って、行きたい場所を言えば、何と一瞬でそこに飛ぶんです。」


「ええっ?!そんなアイテムありましたっけ?!俺達は覚えが・・・うっ!」


ノッポが呻いて膝をつく。

また余計な事を言いそうになったノッポの足を踏んづけてやったのだ。


「まあまあ、百聞は一見に如かずと言いますからね。まずは乗って下さい。

あ、ちなみに土足厳禁ですよ。乗る時は靴を脱いで下さいね。」


そして全員が靴を脱いでMJに乗ったのを見届けると、私は唱えた。


「MJよっ!私達を『アルハール』まで連れて行って頂戴っ!」



ヒュンッ!!


途端に私の耳元で風を切る音が聞こえた—。








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