第31日目 雨の都『インベル』 ⑤ 残り時間41日

 戦闘用メイド服を着たままの私は何故か、裁判所?のような場所に半ば強引に町長と思われるお爺さんに連行されて来た。


そして私の前にはこの国のお偉いさん?のような人々が退屈そうに私を見ている。

こんな状況に置かれると、まるで今の私はこれから裁判で裁かれる被告人のような錯覚を起こしてしまいそうになる。


「おい!これは一体どういう事だよっ!」


私よりも早く抗議の声を荒げたのは後ろの席に座らされているジェフリーだった。


「ああ、そうだ。お前達・・・一体俺のエリスに何の用事があると言うんだ?!」


エリオットが憤慨したように言う。

所で・・・何よ、俺のエリスって・・・。あまり周囲から誤解を招くような発言はしないで貰いたいのだけど・・・。


「おい!何だよ、俺のエリスって・・・勝手に決めるなっ!」


喚いているのはアベル。


「何故・・エリスが裁かれるのだ?モンスターを退治したのは彼女だろう?」


アンディは腕組みをして事の成り行きを見守っている・・・のかな?


「これから何が起こるんだろう・・・。」


アンディはブツブツ呟いているなあ・・・。

と言うか・・・いやいや、今の私・・・誰がどう見てもピンチ状態じゃないの?

だって・・・。


「あのっ!一体私が何をしたと言うんですかっ?!どうして縛られてるんですか?これじゃまるで罪人扱いじゃないですかっ!」


両手を前で縛られた腕を高く持ちあげて、前方に座っているこの町のお偉方?に抗議をする。


するとサンタのような口髭を生やした人相の悪い男が私をじろりと睨み付けると叫んだ。


「煩いっ!黙れっ!お前はまだ自分がどれ程の罪を犯したのか知らんのかっ?!」


「え?私が罪を犯した・・?一体どういう事ですかっ?!この国の危機を救ったのはこの私じゃないですかっ!」


そうだ、感謝をされるならまだしも・・覚えのない罪を犯したと言われて裁判にかけられるなんて冗談じゃない。


「そうか・・・お前は自分の罪を知らないのだな?なら教えてやる。いいか?お前のせいで・・見ろっ!あの空をっ!」


オールバックのヘアスタイルの中年男が窓を指さす。そしてその先は・・・。


「・・・青空が見えるな。」


アンディが言う。


「うん。清々しい位の良い天気だね。」


アドニスは窓の外を見ながら眩しそうに言う。


「晴れて何が悪いんだよ。」


面白く無さげに言うのはジェフリー。」


「もうこれ以上こんな茶番には付き合いきれない!我々はエリスを連れて帰らせてもらうぞっ!さあ、エリス、一緒に帰ろうっ!」


エリオットが私の方へと歩み寄り、私の手を握りしめたその時・・・。


「ちょっと待ちなよ。」


私達の前に大きな身体で立ち塞がったのは・・・おおっ!彼はヨシュアだっ!

この身長・・そしてあのがっしりした体型・・・きっとヨシュアは・・・・『攻め』タイプで・・イザークは『受け』タイプなのかもしれないっ!

私はヨシュアとイザークが抱き合っているシーンを勝手に妄想し・・・アベルに指摘された。


「おい。エリス・・・お前ヨダレ垂らしてるけど・・・どうしたんだ?」


「ハッ!い、いえ・・・何でもありません。」


「「「・・・。」」」


3人の男性は不思議そうに私を見下ろしたが、すぐにヨシュアはエリオットに言った。


「悪いが・・この女はお前達には渡せないな。」


「え?!そんなっ!貴方の恋人はイザークですよねっ?!」


「「「は?」」」


またしても3人に奇妙な目で見られる私。


「おい、お前・・さっきから何を言ってるんだ?俺とイザークが・・恋人だって?!ば・・・馬鹿っ!お、俺にはそんな趣味は無いっ!」


ヨシュアは何故か真っ赤になって怒っている。


「そんな〜隠す必要無いじゃないですかぁ〜。イケメン同士、絵になりますよ?」


私の言葉にますます怒り出すヨシュア。


「こ・・このくそあまっ!ふざけるなっ!」


「おい!エリスに乱暴な事をするなっ!」


「そうだっ!」


エリオットとアベルが私の前に立ち塞がり・・他の『白銀のナイト』達も集まって来た。

そしてイザークも自分の名前が出てきた為か私達の側にやって来た。


「おい、お前・・・何故俺がイザークと恋人同士になるんだ?」


「え?!な・・何だよっ!その話はっ?!」


イザークも驚いて私を見るし、『白銀のナイト達』は奇妙な顔で私を見ている。


「だ・・・だって、さっき・・・抱きあっていましたよ?」


「「「「「はあっ?!」」」」」


『白銀のナイト』達が一斉に白い目でヨシュアとイザークを見る。


「ば、馬鹿な事言うなっ!あれは俺が転びそうになったから、ヨシュアが受け止めてくれただけだっ!」


イザークが顔を真っ赤にして私に言う。


「え・・・?そうだったんですか・・・。」


「エリス・・・何だかがっかりしていない?」


アドニスが尋ねて来る。


その時・・・・・


「おいっ!お前達っ!いい加減にしないかっ!」


サンタもどきのおじさんが声を張り上げて私達を怒鳴りつけた。


「イザークとヨシュアが恋人同士だろうと今の我等には関係ないっ!もっと重要な話があるだろうっ?!」


「そ、そんな町長っ?!」


「皆の誤解を招くような発言はしないでくれよっ!」


イザークとヨシュアが悲鳴交じりの声を同時に上げる。うん、どうやら町長の中では既に彼等はカップルとして成立されてしまったようだ。


「いいか!そこのメイドッ!お前があの妙なモンスターを倒してしまったせいで、雨がやんでしまっただろう?!我らの資金源は全て雨の恵みによって自生する光苔と貴重なキノコで収入を得ているのだっ!それが・・・こんなに快晴になるなんて・・今までに例を見なかった事だ!それもこれもお前達があのモンスターを倒しに来たせいだぞっ!どうしてくれるのだっ!」


黒ひげサンタ?はとうとう激怒して私達を順番に指さしながら激しく怒鳴り散らして来た。余程興奮しているのだろう・・・。

『白銀のナイト』達はあのアメフラシに捕らえられ、実際に倒したのはこの私。しかもモンスター討伐を依頼して来たのは彼等のはずなのに・・・。

完全に責任転嫁しているっ!

信じられない!人間失格の最低クズ男だっ!


するとその時・・・1人の若者が扉を開けて裁判所?の中へ飛び込んできた。


「ちょ・・町長っ!大変ですっ!」


「何だっ!今は裁判の真っ最中なのだ!外へ出ていろっ!」


あ・・・やっぱりこれって、裁判だったのね?だけど・・町長の後ろに10人近くお偉方さんが座っているけど・・・皆好き勝手してるじゃない。居眠りしてる人もいれば本を読んでる人もいる・・あの女性なんか編み物してるじゃないっ!


な・・何ていい加減な裁判なんだろう・・・。


等と私がぼ~っとしていると・・・。


「な・・何っ?!そ、それは本当かっ?!」


町長の焦る声が聞こえた。


「はいっ!雨が・・・雨が降って来たんですっ!どうもあのモンスターのせいで天気を狂わせられていたようだと長老が言っていました。」


何と!ここには長老までいるのかっ?!


「う、うむ・・・そうか・・・。」


すると町長が私達の方を振り向くと言った。


「そ、その・・・すまなかった・・・折角モンスター討伐をしてくれたお前達をせめてしまって・・・。」


いつの間にか・・・私たち全員でアメフラシを倒したことになっているっ!


「ああ、もういい。これで我々の誤解が解けたのだからな。」


エリオットッ!貴方・・・何もしていませんよね?


「そうそう、勘違いは誰にでもあるよ?」


アドニス・・・貴方迄・・・。


「それで、報酬の件はどうなのだ?当然・・・渡すんだろ?」


まるで悪党のような笑みを浮かべるジェフリー。


「は、はい。勿論ですよ。」


急に態度を変えた町長は大きな布袋2つを先程の若者に持って来させた。


「おい?何だ・・・これは?」


アンディが言う。


「はい、報酬の光苔と高級キノコです。」


町長の言葉にアベルがブチ切れた。


「おいっ!ふざけるなっ!こんなのいるかよっ!金だ、俺達が欲しいのは金なんだよっ!」


ちょっと!その台詞・・・もうカタギの人間の言うセリフじゃないでしょう・・・。


一体彼等はどうしてしまったのだろう?でも・・・これが彼等の本来の姿なのだろうか・・?


すっかり怯えている私の側にいつの間にか見知らぬ若い女性が立っていた。


「ねえ・・・あなたがた、早くこの地を去った方がいいわよ?」


「え・・?な、何故ですか・・・?」


「ここら辺一帯に自生している光苔とキノコはね・・どうもある特定の毒の様な物質を吐き出しているみたいなの。」


「え・・?ど、毒ですか?」


「そう、女性はかかりにくいんだけどね・・男性はその毒に侵されやすいのよ。」


「その毒とは・・一体どういうものですか?」


私は白銀のナイトと町長たちの様子をチラリと見た。彼等は激しく口論をしている真っ最中だ。


「ああやって、人の醜い部分を表にさらけ出させてしまうらしいの・・。」


「成程・・。」


確かの女性の言葉に納得だ。今迄あんな彼等を私は見た事が無い。

となると・・・。


「皆さん!報酬はもう結構です!早く帰りましょうっ!」


私の言葉に白銀のナイト達は不満そうだったが・・・。


結局私に対する好感度が高かった為・・・全員言う事を聞いて、私達はこの地を去る事になった。


そして駅まで見送りに来てくれたのが・・・イザークとヨシュアだったのだが・・・。


「エリス、お前のお陰だよ。ありがとう。」


突然イザークが列車に乗り込む私に妙な事を言って来た。


「はい?何の事でしょう?」


「うん・・・お前の言葉で俺達は・・・互いの気持ちに、その・・・気付いたんだ。」


ヨシュアが頬を染めて言う。


「え・・?ま、まさか・・・。」


「ああ、俺達・・・正式に付き合う事にしたんだ。町長の許可も得たしな?」


イザークが嬉しそうに言う。


ヒエエエエ・・・やはり・・あの女性の言った通り・・・ここ『インベル』は人が正直になってしまう・・ある意味、とても恐ろしい場所だったようだ。


「そ、そうですか・・・。お幸せに・・。」


 引きつった笑みを浮かべて、彼等に別れを告げた私は『白銀のナイト』達と一緒に

『エタニティス学園』への帰路についたのだった—。




『お疲れさまでした。31日目終了致しました。ウィルス駆除と『オリビア』から好感度を奪い返す事に成功した報酬としてメイドスキルレベルを40までアップさせました。50000ポイント獲得致しました。明日と明後日はごゆっくりお休み下さい。残り時間は後41日となります。』



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