第31日目 雨の都『インベル』 ④
質素な食事?を終えた私は一度宿の部屋へ戻る事にした。
古びた木の椅子に座り、頬杖を突きながら窓の外を見ると辛気臭い雨が降りやむことなく続いている。
それにしても『白銀のナイト』達は一体この国の何処にいるのだろう?恐らく彼らも私と同様に『インベル』にモンスター討伐にやって来たに違いない。
そして・・・。
「ま、まさか・・・・光苔とキノコが自生する土地へ紛れ込んで・・捕らえられたんじゃ・・・。」
思わず自分の両肩を抱きしめてプルプル震える私。だけど、あと2日以内に彼らを見つけ出し、好感度を上げて、さらにコンピューターウィルスを探し出さなければ・・・
「きっと私はゲームオーバーになってしまう・・・。」
その時、背後で声から声が掛けられた。
「ゲームオーバーって何の事だ?」
「え?」
振り向くとそこには先程の若者が立っていた。
「それで、何がゲームオーバーなんだ?」
男はアルコールランプを手に持ち、再び同じ質問をしてきた。いや。質問に答えるよりもまずは・・・。
「あの・・・何故お客の部屋に勝手に入って来るのですか?」
ジロリと上目遣いすると男は言った。
「え?本気で言ってるのか?俺は何度も何度もノックもしたし、呼びかけたんだぞ?それなのに返事が無いからやむを得ず入って来たんだ。」
私は男を見た。この男は客に対する態度が全くなっていないじゃないの!仮にもお客にはきちんとした言葉遣いをするべきでしょう?
だが私は口に出すのはやめた。何故ならこれ以上この男とは・・・と言うか、どうもこの国は信用出来ない。だから一切重要な事は口にするのはやめようと考えたからだ。
「ところで、何の用ですか?この部屋にやって来たって言う事は何か用事があるわけですよね?」
「ああ、そうだ。この宿にはガスランプが無いんだ。だからアルコールランプを持ってきてやったのさ。もうすぐ薄暗くなってくるしな。」
男の言葉に私は驚いた。
「え?嘘ですよね?だってまだ午後2時ですよ?」
「ああ・・以前のこの国なら夕方になるまでは薄暗くなることは無かったけどな、今から10日ほど前だったか・・・突如空が紫色に変わり、辺りが薄暗くなって・・酷い大雨が降るようになってしまったんだ。」
「そんな事が・・・。」
まさかコンピューターウィルスと関係があるのだろうか?
「この町の住民たちは皆口をそろえて言っている。これも沼地に奴が住み着いたせいだろうって・・・。それで町長が『エタニティス学園』の『白銀のナイト』と呼ばれる連中にモンスター討伐の依頼をしたそうなんだが・・・・。今から3日程前に彼らはこの町を訪れて・・・姿を消した・・・って、おい!大丈夫か?お客さん!あんた・・・顔が真っ青だぞ?!」
「え?あ!そ、そう・・?ハハハ・・・。」
笑ってごまかすも、その話を聞いた私は全身に鳥肌が立つのを感じた。
ま、まさか・・彼らは沼地に住むモンスター(コンピューターウィルス)に捕らえられてしまったのではないだろうか・・?
「あ、あの・・・わ、私をその沼地へ連れて行ってもらえませんか?!」
私は男の襟首を掴むと言った。
「え?何だって・・・?お客さん・・・あんた本気でそんな事言ってるのか?」
男は驚いたように私を見下ろす。
「ええ、勿論本気ですっ!何故なら私はこの国を救うためにやって来た救世主なのですからっ!」
大げさに言わなければ、きっとこの男は私を沼地に連れて行ってはくれないだろう。私は何としてもこのゲームをクリアして・・・現実世界へ帰らなくてはならないのだからっ!
しかし男は・・・。
自分の右手を私のおでこに当てて、左手を自分のおでこに当てながら言う。
「う~ん・・・熱は・・・無いようだな?」
「は?」
「いやあ・・・てっきり熱で頭がいかれてしまったかと思ったから・・・・。でもそうではなさそうだな?どこから来たかは知らないが、旅の疲れが出たんだろう?もう今日は部屋でゆっくりしていろ。後2時間もたてば、この辺は闇に包まれる。」
「え?な・・・何ですって?あと2時間で闇に包まれるって・・夜になるって事ですか?」
「う~ん・・・それともちょっと違うかな?なんせ星が見えないんだから・・・。とにかくまるで黒い霧に覆われたかのように数m先は闇に包まれて何も見えなくなってしまうんだ。これも・・・全て奴の仕業だ・・・と思う。」
最後の「思う」と言う言葉に多少の不安は感じるが・・・要は沼地に住み着いた奴を倒せば・・・きっとこの国は元通りに戻るはず!
「え・・と、ところで・・貴方の名前は何と言うんですか?」
「俺か?俺の名前はイザークって言うんだ。そう言えば・・・あんたの名前も知らなかったな?何て言うんだ?」
「エリスと言います。それではイザーク!改めてお願いしますっ!私を沼地まで連れて行って下さいっ!」
「エリス・・・お前・・死にたいのか?」
「いいえ、死ぬつもりはありません。」
「そうか、俺も死ぬつもりはないんだ。気が合うな?」
腕組みをしながら言うイザーク。
「ええ、ですから・・・。」
「嫌だね。お断りだ。」
しかし、イザークはあっさり断る。
「何故ですかっ?!この国はこのままでいいんですか?!」
「そうしたらいざとなったらこんな国捨ててやるさ。」
イザークのこの言葉に流石の私もブチギレた。
「ふふふ・・・そうですか・・ならいいでしょう。では私が今すぐこの国を滅ぼして差し上げましょうか?!」
「な・・何を言ってるんだ?エリス・・・いったいお前は・・・。」
その時―
外で騒ぎ声が起こった。
「大変だーっ!奴が・・奴が沼地から降りてきたっ!」
「あ・・・あの声は・・・ヨシュアだっ!」
イザークは突然私の部屋を飛び出していく。そしてその後ろを追う私。
そして目の前に現れたのは・・・・。頭部に2
本の角のようなものを生やし、体中に黒い斑点のある巨大な軟体生物・・・。
「え・・・?あ、あれは・・・図鑑で見たことがある・・ア・・アメフラシッ?!」
「え?!何だってエリスッ!アメフラシ・・?アメフラシッって何だ?!」
「アメフラシって言うのは海に生息する生き物なんですっ!多分・・・・この国をこんな世界になってしまったのは恐らくあのアメフラシのせいっ!あいつを倒しますっ!」
「え?エリス・・・ッ!お前本気で言ってるのかっ?!」
背後でイザークの声がする。
「ええ!勿論ですっ!」
そして振り返ると、イザークが・・・あれ?あの男の人誰・・・?見た事の無い若者とイザークが抱き合っているではないか!
まさかのBL?!
聞きたいことは山ほどあるが・・・・まずは奴を倒さなくてはっ!
「害虫駆除ッ!」
途端に私の身体は眩しい光に包まれ・・・魔女っ子メイド『エリス』に変身っ!
「くらえっ!神の裁きっ!!」
右手に握られた杖をしっかり握りしめ、アメフラシに向けて叫ぶ。
途端に杖から激しい雷鳴と共に眩しい雷が放出され、アメフラシにぶち当たるっ!
バリバリバリバリッ!!ドーンッ!!
耳をつんざくような音と共に、アメフラシが声にならない声を上げて・・・・やがてさーっと砂のように消え去るとともに、空が明るく澄み渡り・・・そこには気を失った『白銀のナイト』達が倒れていた。
「ええっ?!あ、あれは・・っ!」
急いで駆け寄り、まずは一番近くに倒れていたアンディを揺り起こす。
「アンディ様!しっかりして下さいっ!」
「あ・・・エ、エリスか・・?」
アンディが目を開けて虚ろな瞳で私を見る。
「一体何があったのかは・・・後で聞きます。まずは皆さんを起こさないと!」
そして私は1人1人声を掛け・・・全員を起こし終わった頃には何故か彼らの好感度は400に上がっているのであった。
「エリス・・・。お前は俺達の命の恩人だよ。エリス、俺達は・・・。」
最後に起こしたエリオットが皆を代表?して潤んだ瞳で私を見つめて礼を言いかけた時・・・。
「ちょっと待って下さいっ!」
私はエリオットを制すると、イザークと多分ヨシュア?の元へと駆け寄っていく。
そして並んで立っている二人の前に立ち、イザークを見つめると私は言った。
「ねえ!イザークッ!!その男性は・・・貴方の恋人ですかっ?!」
晴れ渡る空に私の声が響き渡るのだった―。
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