第30日目 消えたアイテムを求めて ② 迷宮編

「タリク王子・・・。一体この王宮はどういった作りになっているのですか?本当に・・・ここは王宮の中なんですよね・・?先程私がいた部屋とは何だか雲泥の差があるんですけど・・・?ああっ!また行き止まりですよっ!」


細く入り組んだ通路を進んでいたタリク王子と私はまたしても道が塞がれてしまった。眼前に現れたのは土壁で、私達の行く手をあざ笑うかの如く、立ちはだかっている。

それを見たタリク王子は私の質問に答えず、額に汗をにじませて下唇をギュッと噛み締めると言った。


「おかしい・・・。どう考えてもここは絶対王宮のはずが無い・・・っ!一体此処は何処なんだ・・・・?!」


そしてダンッ!!と拳で激しく土壁を叩く。途端に天井からパラパラと小さな土の粒が降ってくる。


「タリク王子っ!落ち着いて下さいよっ!この迷宮?は床から壁、天井に至るまで全て土で出来てるじゃないですかっ!今御覧になりましたか?タリク王子が土壁を叩いただけで天井から土が崩れてきましたよ?ここで暴れたりしたら・・・ひょっとして天井が崩れ落ちて下手したら・・・私達生き埋めになってしまうかもしれませんよ?!」


私はタリク王子の袖にしがみ付くと、必死で止めた。何せ、このタリク王子は血の気が多すぎるし、怒りの沸点も低いと見えて、先程から私の先頭を歩きながら始終イライラしているのが手に取るように分かる。


 それにしても・・・ウウ・・何故私がこんな目に遭わなければならないのだろう?目が覚めればいきなりタリク王子に拉致されているし、しかも命の次に大切な腕時計はどうやらタリク王子に私を連れ去るように命じられた女性の家臣が関わっているようだし・・・。

挙句の果てはこの迷宮だ。

タリク王子と一緒にこの部屋を出た途端、何故か私達はこの周り中が土壁で出来ている迷宮の中にいたのだから・・・。

恐らく私が今腕時計をはめていたとすると、重要ミッションの1つとして、『迷宮からの脱出』という文字が表示されていただろう・・・。

 しかし・・・・一体誰がこんな真似を?

さっきまでは私とタリク王子は間違いなく王宮にいたはずなのに、ドアを開ければそこは迷宮で、もともといた場所・・あのゴージャスな部屋も跡形もなきく消えてしまっていたのだから・・・。

え・・?でも待って・・確か以前に似たような状況においやられた事がある。

あれは・・そうだ、海辺の町『ロメリア』で水クラゲのウィルス駆除を行った翌日。

目が覚めれば、大理石の部屋に閉じ込められていたんだっけ・・・・。

こんな真似をするのは・・・。


「きっと・・・オリビアの仕業だわ・・・。」


小声で独り言のつもりで言ったのに、タリク王子にはばっちり私の囁き声が聞こえてしまっていた。


「おい。エリス。今・・・オリビアと言ったか?」


私の前を歩いていたタリク王子が突然立ち止まると、くるりと私の方を振り向き、声を掛けてきた。


「え?ええ・・・言いましたけど・・・。そ、それが何か・・・?」


「まさか・・そのオリビアと言う奴がこんな大掛かりな仕掛けをして俺達を迷宮に誘い込み、翻弄させているのかっ?!」


タリク王子は私の両肩をガシッと掴むとガクガク揺さぶりながら言う。


「お・お・落ち着いて下さいよっ!タ・タリク王子っ!こ、これではゆっくりと・・は・話をする事も出来ませんからっ!」


「あ、ああ・・・。すまなかった。つい興奮して・・・・。」


何とかタリク王子を落ち着かせると私は言った。


「実は・・・以前にも似たような事があったんですよ。それは『ロメリア』という海辺の町からモンスター討伐を依頼され、私を含めた3人の『白銀のナイト』様達とその町を訪れ時の事です。」


するとタリク王子か口を挟んできた。


「何?エリス・・・。お前・・その時もモンスター討伐に連れて行かれたのか?そんなに華奢な身体をしているのに・・・。」


タリク王子が私の身体を上から下までジロジロと見ながら言った。

・・・しかし、その視線が舐め回すように見えたのは・・うん、気のせいだと言う事にしておこう・・・・。

気を取り直して私は続きを話す事にした。


「それで、無事にモンスター討伐(水クラゲ)を果たしたその帰り道で・・仲間内のちょっとしたトラブルがあったんですよ。そして運悪くそのトラブルに巻き込まれた私は事故にあって・・次に目覚めた時には訳が分からない部屋に閉じ込められていたんですよ。その状況と似てるかなって・・・。ちなみにですけど・・恐らく私をそんな奇妙な部屋に閉じ込めたのは・・・おそらくオリビアという名前の女性なんです・・・。まあ、でも何とかあの時は無事に脱出する事に成功出来たんですけどね。」


タリク王子は腕組みをしながら神妙な面持ちで話を聞いていてたが、やがて言った。


「実は・・・な、エリス。今回の砂漠に出没したモンスターに我等は本当に困っていたんだ。そんな時一通の手紙がこの国に届いたのだ。モンスター討伐に適した人物達がいると。その人材はエタニティス学園にいるので、彼等に依頼すると良いだろうと言う内容だったのだ。そして・・・その手紙の差出人は『オリビア』とだけ記されていたんだ。」


「オリビア・・・ですか。」


うん、これでもう間違いない。前回の事といい、こんな真似をする事が出来るのは・・やはり『オリビア』で間違い無いだろう。それにしてもオリビアとは一体何者なのだろうか?ベソとノッポに尋ねれば分かるのだろうか?最も・・・ここから無事に生きて出られればの話だけども・・・。

一瞬、私の脳裏にはこの迷宮から抜け出せる事無く白骨化した自分の姿を想像し・・。恐ろしい考えを打ち消す為、首をブンブンと左右に振った。


「どうした?エリス。そんなに激しく首を振って・・何かあったのか?」


タリク王子が声を掛けてきた。若干・・・その声には私を気遣うようにも聞こえた。

だから私は今自分が感じた事を正直に伝える事にした。


「い、いえ・・。永遠にこの迷宮から出られなかったらどうしよう・・と不吉な考えが頭をよぎって・・・。」


すると、タリク王子が突然ガバッと私を抱きしめてきた。

ギャ~ッ!!

い・一体何を・・・・っ?!


「タ・タリク王子っ!は、離してくださいってばっ!」


しかしタリク王子は益々私を羽交い絞め?してくると言った。


「大丈夫だっ!安心しろっ!必ず俺がお前を連れてここから脱出してやる。出口が無ければ・・・作ればいいだけの事っ!」


そして何を思ったか、腰から下げていた剣を引き抜き・・・ってええっ?!


「な・何をするんですかっ?!タリク王子っ!」


慌てて、背後からタリク王子の腕を押さえつける私。


「何をするって・・・見れば分かるだろう?この辺り一面の壁をぶち壊して出口を目指すのだ。」


「な、何言ってるんですかっ!そんな事をして抜け出せると思ってるんですか?!第一私先程言いましたよね?ここで暴れ出したら、天上が崩れてしまうかもしれないって!やめてくださいよっ!」


馬鹿だっ!!このタリク王子は・・・どうしようもない大馬鹿男だっ!!

こんな男と一緒にいたら助かる命も助からないっ!

何とかして・・・この迷路を脱出する方法を・・・私の知恵で・・・・・。


その時、私はある一つの方法を思い出した。

この方法なら・・・運が良ければ出口に辿り着く事が出来るかもしれないっ!!


私はタリク王子に言った。


「タリク王子・・・。ひょっとするとこの迷宮を抜け出せるかもしれません。私の事を・・・信用して貰えますか・・・・?」


じっとタリク王子の目を見つめて私は尋ねた—。

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