第27日目 世界がひっくり返った休暇日 ②

 パニック状態のベソとノッポを何とか宥め、ようやく2人は落ち着きを取り戻したのか、今は大人しく私が用意した椅子に腰かけている。


「お待たせ、ベソ。ノッポ。」


ベソとノッポのお陰で部屋が広くなり、いつの間にか私の部屋には小さな衣裳部屋まで用意されていた。そこでパジャマ姿から着替えて来ると2人の前に姿を見せた。


「ああ、エリスさん。今日の服も良くお似合いですよ。それでえ~と・・。」


ノッポが顔を上げて私を見た。


「一応聞きますが・・・今日の服のコンセプトは何ですか?」


ベソが尋ねて来た。


「よくぞ聞いてくれたわね?ベソッ!いい?今日の私の服装のコンセプトは・・ずばりモガよ!」


右手を胸の前に翳し、左手を腰に当てて胸を逸らせると言った。


「「モガ・・・?」」


ベソとノッポが同時に声を出し、首を傾げる。


「そう、モガよ。」


するとノッポが尋ねて来た。


「あの・・・モガって何の事ですか?」


「ええ?!ノッポ!貴方・・・モガを知らないの?」


嘘ッ!信じられないっ!


「あの~俺も知りませんけど・・?」


「えっ?!ベソまで知らないの?!」


な・・・何てこと・・・。


「いいわ、なら教えてあげる。いい?モガっていうのはね、モダンガールの略語よ。」


「「はあ・・・。」」


「服装の特徴は、ウェストを搾ったワンピースにスカートはパニエで大きく膨らませてボリュームを持たせたワンピースのことよ。この水玉模様なんかはどことなくレトロチックで、情緒を感じさせるでしょう?それに・・・エリスはスタイルがいいからすごくよく似合っていると思わない?出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいて・・・。」


ここまで言いかけてハッとする。し、しまった。つい、調子に乗り過ぎて熱くファッションについて語ってしまったか?


見ると、ベソとノッポは2人供居眠りをしている。くっ・・・そ、そんなに今の話がつまらなかったのだろうか?


「ベソッ!ノッポ!起きてよ!」


居眠りをしている2人の正面に立つと、大声で呼びかけた。


「ハッ!」


「つ、つい寝不足で・・・。」


ベソとノッポが目をこすりながら交互に言う。


「それなら『管理事務局』へ戻って寝たらどうなの?ってそう言えば何しに私の部屋までやって来たのよ?」


肝心な事をすっかり忘れていたので、2人の顔を交互に見ながら質問した。


「あ・・・、そ・そうだっ!思い出しましたっ!た、大変な事になってしまったんですよっ!じ、実は・・・我々の残り日数が10日も減らされてしまったんですよっ!」


ノッポが大慌てで言う。


「え・・?残り日数・・・・?」


「そうですっ!『白銀のナイト』の好感度を60日以内の間にマックスにしろっていうあれですよっ!」


ノッポは興奮のあまりか、ガシッと私の肩を掴むとまくしたてる。


「ふ~ん・・・別にいいんじゃないの?10日減るくらい・・・。だってベソとノッポが『白銀のナイト』の好感度を100上げてくれるんでしょう?何も困る事無いじゃない?だって期限内に条件を満たせば、晴れてゲームクリア!私はこの世界から抜け出せるっ!めでたしめでたしでしょう?」


「だ、だから・・・それが出来なくなってしまったんですよっ!」


「え・・・ええええっ?!ど・・・どうしてなのっ?!」


ノッポの言葉に全身の血の気が引く。


「コンピューターウィルス『オリビア』によって・・完全にシステムをブロックされてしまったんですよっ!もうこちら側からプログラムを書き替える事も出来ないんですうっ!」


ベソが今にも泣きそうな顔になっている。く・・・っ!泣きたくなるのはこっちだと言うのに・・・!


「じゃあ・・・貴方達はコンピューターウィルスにやられっぱなしで・・泣き言をいう為に私の処へやって来たと言う訳ね・・・?」


怒りを抑えながら言うが・・・・。


「「ヒッ!」」


ベソとノッポは私の迫力にすっかりビビったのか、震えながらもノッポが言った。


「い・・いえ。た、ただやられっぱなしという訳では・・あ、ありませんよっ!」


「おおっ!それでは何か策を講じてくれたのね?!」


「はい!攻略対象の好感度を表示させる事に成功しましたっ!怪しげなファイルはすべて削除してクリーニングしました。それに厳重にパスワードを掛けたので、もう恐らく好感度の表示が消える事はありませんっ!多分・・・。」


最後の方はしりすぼみになるベソ。う~何だか不安だなあ・・・。


「それじゃ、好感度を下げられてしまうのは?これはどうなのよっ?!」


「す、すみません・・・・。こればかりは・・・。好感度を上げる作業をしていた時にオリビアに乗っ取られてしまって・・・・。」


ノッポがうつむきながら言う。


「はああ?!な・・・何ですって!そ、それじゃ・・・『白銀のナイト』の好感度は上がっていないのね?!」


つい興奮のあまり、声が大きくなってしまう。


「す、すみませんっ!好感度を100上げますなんて大口をたたいておきながら・・・。で、でも安心して下さいっ!すぐにブロックしたので今回は1人だけでした!」


ベソの言葉にピクリと反応する。


「はあ・・・?1人・・・?」


「ええ、喜んでくださいよ。1人だけなんですからっ。相手は誰だと思います?」


ベソはニコニコしながら言ってくるが・・・・。


「ふ、ふざけないでよ~っ!今日は私、休みたいってい貴方達に言ったよねえ?そ、そうだっ!いいことがある!ベソッ!ノッポ!私の代わりに好感度が下げられた『白銀のナイト』の処へ行って好感度を上げて頂戴よっ!」



「ひえええっ!な、なんて無茶苦茶な・・・・っ!しかも今回好感度を下げられたのは誰だと思います?フレッドさんですよっ!」


ノッポが震えながら言う。


「そうですよっ!か、彼は・・・ある意味一番危険人物じゃないですかっ!し、しかも俺達は彼に目を付けられてるんですよっ!き、切られでもしたらどうするんです?」


「うん、きっと痛いだけじゃすまないかもね・・・。」


どうもあのフレッドは怒りの沸点が低い気がする。物騒な事に常に腰に剣を差し、片時も離したことが無いものね。あ・・・でもこの間スーパー銭湯に行った時は剣を持っていなかったけっけな・・・。


「エリスさんっ!と、とに角俺達は好感度の再表示と、『オリビア』によって好感度を下げられてしまうキャラを1日に付き1人に抑え込むまでは成し遂げたんですから、フレッドさんの好感度上げは自分でやって下さいよっ!」


ベソが情けない声で言う。


「誰が情けないですって?」


「あ・・・ごめんね。また心の声が漏れちゃったみたいで。」


「仕方ないか・・・フレッドの好感度を上げるミッションをクリアしないとならない訳よね・・・。そう言えば昨日から液晶画面が表示されないんだけど?」


「ああ。それはメンテナンス中で停止していたんですよ。」


ノッポは当然のように言うが・・・。


「ちょっと!そう言うのは普通事前告知するものでしょう?例えば〇日、〇時〇〇分よりメンテナンスを行いますのでシステムが停止します・・・とかさあ。


口をまげて言うと、ベソとノッポは互いに顔を見合わせ・・・・。



「「成程。」」


声を揃えて同時に言うのだった。






3人で宿舎を出るとベソとノッポが言った。


「エリスさん、頑張って下さいね。うまくいきますってば。」


「ええ。きっとエリスさんの魅力であっという間に好感度なんかあげられますって。」



ベソとノッポは他人事だと思って軽いノリで応援してくる。そんな2人を恨めしそうな目で見ながら私は尋ねた。


「ねえ。この後、貴方達はどうするの?」


「うう・・・と、取り合えず管理事務局へ戻ってシステム修正の仕事を続けますよ・・・。」


ノッポが溜息をつきながら言った。


「だ、大体上の人達だって酷いですよ・・・。俺達がバーチャル世界とリアル世界を自由に行き来出来なくなったのは知ってるはずなのに・・・何の連絡も来ないんですから・・・。俺達・・・見捨てられちゃったのかなあ・・・?」


目に涙を浮かべながらベソが情けない顔をする。


「まあ・・・その内連絡が来るんじゃないの?それじゃ・・・また何かあったら必ず私に連絡してよね?!」


2人に念押しした後、私は彼等を見送った。



さて、次は私の番だ・・・・。


今のフレッドの好感度は驚くべきことに100しかない。何とか今日中にオリビアと同等か・・・それ以上の好感度を奪い返さなくては・・・・。


私は拳を握りしめ、闘志を燃やすのだった—。

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