第26日目 休暇日くらい、休ませて下さい ②

 ううう・・・嫌だ・・・お願い、嘘だと言って・・・・。

両手を前に組んで、目をギュッと閉じる。

まるで祈るように私は突如として目の前に現れているであろう液晶画面を見る事が出来なかった。

どうかウィルス駆除のミッションではありませんように・・・どうか好感度が下げられたメッセージではありませんように・・・

そして、恐る恐る目を開けて・・がっくりと膝をつく。ああ・・・やっぱりそうなるのね?


『エルム・ワンダーランドにコンピューターウィルスが発生しました。白銀のナイト3名の好感度を下げられました。ウィルス駆除に向かって下さい。』


「な・・・何てこと・・・。ウィルス駆除の他に3名も好感度を下げられるなんて・・・ま・まずは・・・先にベソとノッポの元へ急ごうっ!」


私は踵を返すと、急いで『管理事務局』へと向かった。



「ベソッ!ノッポ!いるんでしょう?開けてよっ!」


入口のドアをドンドン叩くと、やっとドアがガチャリと開けられ、ベソが現れた。


「ああ・・お早うございます。エリスさん。あれ・・・?その服着て貰えたんですね?よくお似合いですよ?」


「そう?ありがとう?貴方達のおかげよ・・ってちがーうっ!今はそんな事を言う為にここへ来たんじゃないのよっ!ねえねえ、またコンピューターウィルスが出ちゃったのよ!そ、それに・・・好感度を3名も下げられちゃって・・・。」


「ええ?!ま・またですか・・っ?!と、とに角・・・エリスさん。この場所は誰かに見つかるとヤバイ場所なので、取り合えず中へ入って下さいっ!」


ベソに腕を引っ張られ、室内へと足を踏み入れた。

・・・相変わらず、この場所だけはファンタジー世界とは無縁な場所だ。

机の上には何台もPCが乗っているし・・・あれは・・・大型レーザープリンターまであるじゃないの。壁際にはプロジェクターまでご丁寧に存在している。


「あれ・・・?ノッポは?」


「ああ・・・彼ならその辺の床で転がって眠ってるんじゃないですか?」


PCを叩きながらベソが答える。


「ええ?その辺で寝てるって・・・キャアアッ!」


見ると私の足元で床の上にノッポが転がっているではないか!


「う・・・ん・・・さわがしいなあ・・・。」


伸びをしながらノッポが言い、私を見ると言った。


「おはようございます、エリスさん。昨夜はお疲れでしたね。ところで・・・一体どうしたんですか?」


「ど、どうしたもこうしたも無いわよっ!コンピューターウィルスが発生して、3人の攻略キャラの好感度が下げられてしまったのよっ!」


「ほんとですか?!た、大変だっ!早くシステム側からも駆除しないとっ!」


慌てて床から起き上がるとPCへ向かうノッポの服の裾を掴んだ。


「な、何ですか?エリスさんっ!」


ノッポがこちらを振り向く。


「あ・・・あのねえ・・・!確かにシステム側からの駆除も大事でしょうけど、私は?!私の問題はどうなるのよ!ウィルス駆除は・・・まあ・・何とかやるしかないけれども、今回一気に3人もの『白銀のナイト』の好感度を下げられてしまったのよ?!ねえ、この好感度って・・・今日中にオリビアから奪い返さないといけないの?もし今日中に無理だったらどうなってしまうのよぉぉぉっ!」


「ぐえ・・く、苦しい・・・。」


気付けばノッポの襟首を締め上げていたらしい。慌ててパッと手を離す。

すると私の話を聞いていたのか、ベソが替わりに答えてくれた。


「う~ん・・・。多分オリビアは毎回毎回好感度を下げて来ると思うんですよね・・・。だから好感度を下げられた攻略キャラを放置しておくと、どんどん好感度を上げなければいけない攻略キャラが増えていくのでは無いかと・・・。」


「そ、そんなっ!だったらどうすればいいのよっ!」


思わず悲鳴のような声を上げてしまった。


「う~ん・・・かくなる上は・・・取りあえず、片っ端から全員の好感度をマックスにしてしまいましょうっ!好感度が最大値に達すれば・・・いくらオリビアでも手が出せませんよ。」


「えええっ?!だ、だって・・・好感度を最大にしちゃったら、告白イベントがやってきて・・誰か1人に告白されでもしたら、どうなるか分かってるでしょう?!告白されて、OKしたら他のキャラの好感度はぐっと下がって二度と上がらないし、断れたその攻略キャラの好感度はゼロになって二度と好感度が上がらないじゃないの!」


「チッチッチッ・・・お忘れですか?エリスさん。今我々がいるこの世界の事を・・。」


人差し指を立てて、キザに左右に振るベソ。


「この世界・・・?」


首を傾げるとノッポが言った。


「ええ、そうですよ、エリスさん。このゲームの元の世界はヒロインのオリビアが『白銀のナイト』全員を攻略した世界なのですよ。まあ・・・今回はゲームの嗜好を変えて、悪役令嬢だったエリスの物語に変更していますけどね。」


「エリスが主人公のゲームだってこと位、当然知ってるけど?」


「ええ、ですからつまり俺が言いたいのはですね・・・ここは、オリビアが攻略対象全員から告白を受けた後の世界だという事です。」


何故か同じような台詞をいうノッポ。


「・・確かに、うん。確かにここはオリビアが全員を攻略した世界だけど・・・・?」


「ええ。なので・・・・エリスさん。つまり攻略対象全員から当日・・・同じ場所で告白されてしまえばいい訳ですっ!」


「はあああああっ?!」


ノッポのあまりにも滅茶苦茶な意見に、ついに切れてしまった。


「ふ、ふざけないでよ~っ!それじゃ、永久に攻略する事なんて無理に決まってるじゃないのっ!だってこの間、好感度が一気に100も下げられていたのよっ?何とかしてよっ!」


半分涙目になって気付けば私はノッポの襟首を再び掴んで、ガクガクと揺すぶっていた。


「エリスさんっ!大丈夫、必ず俺達がシステムを書き換えて、このゲームを攻略しやすいようにプログラムを組みなおすので、それまでは頑張って耐えてくださいっ!」


「ベ、ベソ・・・・・。」


おお~っ!何とも心強い言葉!とてもあのベソから発せられた言葉とは思えないっ!

だから私は言った。


「頼りにしてるわよ・・・ベソ。」





『管理事務局』を出ると私は液晶パネルを操作した。未だに攻略対象のステータスを表示する事は出来ないが、彼等のいる現在地を表示できるようにベソとノッポがプログラムを変更してくれたのだ。


「え~と・・・皆は何処にいるのかな・・・?お願いだから学園内にいてよね・・・・。」


「え~と・・・何々・・。フレッドは・・・鍛錬室にいるのね?剣の練習でもしてるのかな?エディは図書館・・・ジェフリーとアベルは自室にいると・・・・。うん?残りの3人は・・・?アンディ、アドニス、エリオットは何処へ行ったんだ?学園にいないのかな?3人とも外出中になってるよ・・・。よし、それなら地図を広げてみようかな・・。」


ブツブツ言いながら、タッチパネルを操作していく内に・・・ピタリと指の動きが止まった。


「う・・・・嘘でしょう・・?」


信じられない思いで、画面を食い入るように見つめる。

何と、アンディ・アドニス・エリオットは全員同じ場所にいたのである。


そう、彼等のいる場所は・・・・・。


「エルム・ワンダーランド」だった!


「ま・・・まって・・・。『エルム・ワンダーランド』って言ったら・・今まさにコンピューターウィルスが出没している場所じゃないの!そして3人のナイト達がここにいる・・・って事は・・。」


好感度を下げられてしまった攻略対象も3人。つまり・・・今回オリビアに好感度を奪われたキャラは・・


アンディ・アドニス・エリオットだ—。














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