第26日目 休暇日くらい、休ませて下さい ③

 電車に揺られて『エルム』の駅に到着した私。

大きなボンネットのつばを上げて見つめるその先には誰もが楽しそうに『エルム・ワンダーランド』の園内へと吸い込まれて行く楽し気な人々・・・。


「いいなあ・・・・みんな楽しそうで・・・。」


チケット売り場で入場券を買い、つい本音がポロリ。


「だけど・・・コンピューターウィルスが発生したって言ってたけど・・一体何所に現れたのかなあ・・?まあいいや。園内を歩いて入れば、そのうち遭遇するかもしれないしね。それにオリビアとアンディ・アドニス・エリオットも探さなければならないし・・・。まあ、目立つ人たちだからそのうち見つかるでしょ。」


どうせなら折角遊園地に来たんだし、楽しみながら敵?とターゲット?を探せばいいや!

とういわけで早速・・・・・。


「すみませんっ!苺チョコクレープ一つ下さいっ!」


早速、クレープ屋さんでスイーツをゲットする私。手近なベンチに座ってクレープを食べていると・・・。


「ねえねえ、君1人なの?」


ふいに声を掛けられて上を見ると、いかにも軽薄そうな2人のお兄さんが私の真正面に立っていた。1人はロンゲ、1人は短髪の男。声を掛けてきたのはロンゲの男だ。


「そうですけど?それが何か?」


そしてまたクレープをパクリ。


「ええ~・・ほんとに君1人で来てるの?こんなに可愛いのに・・・彼氏とかもいないの?」


今度は短髪の男が話しかけてくる。


「はい、いませんよ。」


また一口クレープをパクリ。


「それじゃあさあ、俺達と一緒に遊園地を回らない?」


私の右側に座りながらロンゲ男が言う。


「そうそう、男同士で来てもねえ~いまいち盛り上がらないんだよねえ・・。」


短髪男は左側に座る。


「そうですか、それなら何故初めから女性を誘って遊園地に来なかったんですか?」


最後の一口を口に入れてゴクンと飲み込む。あ~美味しかった。でも・・・喉が渇いたなあ・・・。よし、何か買ってこよっ!


ガバッと立ち上がると、短髪男が声を掛けてきた。


「おいおい、俺達が話しかけているのに、一体何所へ行くつもりなのさ。」


「ええ、喉が渇いたから飲み物を買うんですけど?」


それだけ答えると売店へ向かってスタスタと歩き始めると、なぜかついてくる男達。


ジュース売り場の売店へ着くとメニューをチェック。


「すみません。グレープフルーツジュース下さい。」


「はい、100コインになります。」


男性店員に言われ、お金を払おうとするとロンゲ男が私よりも先にサッとお金を払ってしまった。


「俺が奢ってあげるよ。」


「はあ・・・ありがとうございます。」


しかし・・・さっきからこのロンゲと短髪男は一体何だろう?ここまでしつこく私に絡んでくると言う事は・・・新しい攻略対象なのだろうか?


「あの・・・お聞きしたいのですが・・・・。」


ジュースを飲み終わるとロンゲ男と短髪男を交互に見ながら尋ねた。


「うん?何だい?」

「ようやく俺達と遊ぶ気になった?」


ロンゲ男と短髪男が交互に言う。


「お二人はエタニティス学園の学生さんですか?」


「いいや、」

「俺達は学生じゃないぞ?」


短髪男とロンゲ男は互いの顔見合わせながら答えた。


「そうですか。それではお二人には用はありませんので、これで失礼しますね。これから私には大事な任務がありますので。」


ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとすると・・・。


「おいおい・・・。幾ら何でもそれはないんじゃないか・・・?」


短髪男が突然声色を変えて、サッと私の前に立ちはだかる。そして背後にはいつの間にかロン毛男が回り込んでいる。

こ、これはまずいかも・・・・?


「だから、俺達とちょ~っと一緒に遊んでくれればいいんだからさあ・・?」



ロン毛男が背後から肩をガシイッと掴んできた。

ヒッ!

ひょっとして・・・今私は非常に危険な立場に置かれているのでは・・・?

正面に立つ短髪男はニヤニヤ笑いながらこっちを見下ろしているし・・・。

か、かくなる上は・・・・っ!



「あああッ!あれは何?!」


私は斜め後ろを指さしながら大声を上げた。


「ん?何だって?」


「何かあったのか?!


短髪男とロン毛男が後ろを振り向く。よ・・・よし、今のうちに・・・


ガブウッ!!


肩に回されたロン毛男の掌を掴んで、思い切り噛んでやったッ!



「い・・・・いってええええええっ!!」


ロン毛男が絶叫する。よし!今の内だ!


私は猛ダッシュで逃げ出した。


「くそっ!待ちやがれっ!!」


「このアマッ!!」


2人の男もすぐに私を追って来る。絶体絶命のピンチなのにも関わらず、私は必死で逃げながら頭の中では全く別の事を考えていた。


うへえっ!き、汚いっ!噛んじゃった!!後でうがいしなくちゃ!!


しかし、追いかけっこはそう長くは続かない。動きにくいロングワンピースにサンダル履き、おまけに体力のないエリスと来れば追いつかれるのも時間の問題。

だ、誰かに助けを・・・!

しかし、こんな時に限って付近には人の気配はなし。


そして野蛮な2人の男に追いつかれそうになった矢先・・・。


ドシンッ!!


突然前方から来た人物に激しくぶつかってしまった。大きな帽子を被っていたので、どんな人物なのかは知らないが、腰には剣をさしていた。そ、そうだ・・・!この人に助けて貰おう!


「お、お願いですっ!どうか助けて下さい!追われているんですっ!」


「何?!本当か?!」


うん?この男性の声・・・何処かで聞いたことがあるなあ・・・?


すると、背後から野蛮人?達の声が響いた。


「おい!そこの男ッ!その女をこっちに渡せっ!」


私は男性の胸に顔を押し付けているから、野蛮人達の顔は見えないが・・・あの声はきっと短髪男だな?


「その女はなあ・・・俺の手を噛みやがったんよっ!」


ああ・・・あれはロン毛男だ。だけど・・・!絶対に引き渡されてなるものかっ!!


「お願いします、お願いします・・・。助けて下さい・・!」


必死で男性の胸に顔をこすり付けながら懇願する。


「わ、分かった。助けてやる!」


「本当ですか?!」


怖くて半分涙目になりながら、顔を上に上げると何と驚いたことに私が助けを求めている相手はアンディだったのだ。


「べ、ベネットだったのか?!」


あ・・・呼び方ベネットになっている。でも・・・何故かアンディの頬は赤く染まっていた。


「何だ?お前ら・・・知り合いだったのか?」


ロン毛男が下卑た笑みを見せた。


「ああ・・・ちょっとした知り合いだ。だから・・・助けを求められているのを見過ごすわけにはいかないな・・・。」


私を背後に隠しながら、アンディは剣に手を添えると目にもとまらぬ速さで抜刀すると野蛮人2名に切りかかった!


ヒュッ!ヒュッ!


風を切る刃の音と同時に野蛮人2名が悲鳴を上げた。


「「ウワアアアアッ?!」」


なんと、彼等の上着の裾がバッサリ斬り落とされているではありませんか!しかも2人まとめてだから驚きだ。


「どうだ?まだやるか?」


アンディがジロリと睨むと彼等は青ざめた顔で後ずさり・・・背を向けると一目散に走り去って行った。



そして一方の私はと言うと、オリビアがこちらへやって来るのを目にしてしまった。

あれ?エリオットとアドニスは何処だろう?一緒じゃ無かったのかな?


等と考えている場合では無いっ!

ま、マズイ・・・オリビアに見つかる前に逃げなくては・・・っ!


「アンディ様、助けて頂いて有難うございますっ!」


早口で礼を述べると、その場を必死で逃げした。すると背後からアンディの声が追いかけて来る。


「エリス!待てッ!」


あ、呼び方が変わってる・・。だけど・・!

助けて頂いたのは感謝しますが、

待てと言われて待つ馬鹿はいません。


オリビアに見つかる前に・・・ここは一旦退散させて頂きますッ!


そして私はアンディの制止を振り切って逃げだすのだった―。


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