第22日目 リアル・悪役令嬢の脱出ゲーム開始①
その朝―
目が覚めると私の世界は変わっていた。
え?何これ・・・。いつもの狭いベッドじゃない。天井も凄く高くなっているし、柄も綺麗、そして広くなっている。
何だろう・・・?バーチャル世界の中で夢を見ているのだろうか?
のそりとベッドから起き上がり仰天してしまった。嘘、ここ・・何処・・・?
大きくて綺麗なベッド。床はつるつるした真っ白な大理石で出来ているし、部屋の調度品はどれも豪勢な物ばかり。しかし・・・極めつけは私が今迄眠っていたこのベッドだろう。スプリングが効いた大きいベッドは大人4人ぐらいは楽に寝れそうな程の広さ。
そしてその広いベッドの真ん中を占拠して私は堂々と眠っていたのだ。
それに・・・今私が着ているこのパジャマ・・・。滑らかな手触りで肌になじみ、つるりとした手触りはとても触り心地がよい。も、もしや・・・こ、これは・・シルク・・?
で、でも何故・・・何故今私はこんなに立派な部屋で眠っていたのだろう・・?
心を落ち着かせて・・・昨夜の記憶を探ってみよう。
昨夜、あの後何があったんだっけ・・・?
「エリス、今夜は『ロメリア』のモンスターを無事に駆除出来たお祝いに皆でこの町で祝賀会を開かない?」
アドニスが笑顔で声を掛けてきた。
「ああ、それは良い考えだ。」
エリオットも満面の笑みを浮かべている・・・。えええっ?!そ、そんな表情が出来たの・・?いっつも能面のように無表情な顔しかしないと思っていたのに・・・。思わず唖然としてエリオットを見つめる私。
「な・なんだ・・?エリス。」
エリオットがコホンと咳払いしながら言う。
「す、すみません。っ!思わず見てしまって・・」
咄嗟に謝ってサッと視線を逸らせると、何故かエリオットが私の顎を摘まんで自分の方へ向かせると言った。
「何故謝る?エリスにならいくら見つめられても構わないぞ?」
「へ?」
な・・何?空耳?今何か妙な事を言われたような・・・って言うか。いやいや、この格好は無いでしょう?!
「あまりむやみに女性に触れるのはどうかと思うがな。」
そこへエディが現れてエリオットの腕を払い落として、私に向き直った。
「エリス、ここ『ロメリア』の海産料理はとても有名なんだ。女性に人気のあるシーフードレストランがあるからそこへ行ってみないか?」
「おお~・・・それはいいですね。でも・・・皆さん先程すぐに帰るような事を言っていませんでしたっけ?」
「「「いや、言ってない。」」」
全員が揃って即答する。
「え?でもさっき・・ニコルさんが私に観光案内をしてくれようとした時・・・私を連れてすぐ帰るって・・・。」
「ああ、あの時と今とでは状況が変わったのだ。」
エリオットが即答する。
「え?状況が変わったって?どういうことですか?」
すると今度はエディが代わりに答えた。
「実は学園側から水クラゲ退治を無事済ませた事を学園に報告したところ、労いの言葉と、『ロメリア』は学園から離れた場所にあるので、こちらに戻るだけでも大変だろうからと明日は特別休暇を貰えたのだ。勿論エリス、君も明日のメイドの仕事は休みだよ。」
妙に優しい声で私の耳元で言うエディ。
「そうだよ、エリス。それじゃ行こうか?疲れただろう?」
言いながらアドニスが私の左手を繋いできた。
すると今度はエリックが私の右手からボストンバックを奪うと手を繋いでくる。
「え?え?」
慌てて2人の顔を見ると、何故かアドニスとエリックは私を挟んで激しく睨み合いをしている。
そしてエディは何故か2人を憎々し気に見ている。一体・・これはどういう状況なのだろう??
それにしても・・・。
「あ、あの・・・手を離して頂けますか?1人で歩けますし・・・それよりも背の高いお2人に両手を掴まれていると、まるで何処かに連行でもされているような気分になってきますので・・・。」
アドニスとエリックの顔を交互に身ながら懇願する。
「ああ、そうだ。お前達・・・エリスが嫌がっている。手を離せ。」
そこへすかさずエディが2人に声を掛けた。
「アドニス。エリスの手を離してやれ。」
私の手を握り締めるエリックの力が強くなる。
「嫌だね。大体先にエリスの手を繋いだのは僕だからね。」
アドニスも力を込めて手を握りしめてきた。
「あの・・・手が痛いんですけど・・・。」
遠慮がちに2人に言っても聞く耳を持たない2人は無言で私の頭上で火花を散らしている。・・というか・・え?本当に火花が散っている?!
仰天して2人を見上げると、何と彼等はお互いに身体から魔力をバチバチと放出させているではないかっ!
な・何と恐ろしい・・っ!!このままでは今に魔力のぶつかり合いが始まって・・・巻き添えを食ってしまうっ!!
「お、おい・・・お前ら・・落ち着け・・・・。」
流石にエディもこの状況はまずいと思ったのか・・・アドニスとエリックのそれぞれの肩に手を置いた時・・・。
バチバチバチッ!!!
ついに・・・3人の白銀のナイト達の魔力エネルギーが激しく衝突し・・・・。
「ああ・・・そうだった。私・・・あの時巻き添えを食ってしまったんだっけ・・・。」
そうだ、昨日エリックとアドニスの些細な?いざこざから発展した喧嘩は互いが相反する魔力を放出してしまい、その中心にいた私とエディが巻き添えを食ってしまったんだっけ・・・。
薄れゆく意識の中で、しきりにアドニスとエリックが謝っていた姿を思い出した。
「う~ん・・・それにしてもゲーム中では皆あんなに仲悪くは無かったのにな・・・。何故なんだろう?それに・・。」
「本当にここ・・・何処なんだろう・・・?」
肝心の白銀のナイト達の姿は何処にも見えない。おまけに時計も無いから時間すら分からない。第一・・・この部屋には窓が無いので外の様子もうかがえない。
「う~ん・・・ここでじっとしていも拉致が空かないし・・取りあえず、起きよう。」
ベッドから起き上がり、パジャマのまま部屋の外へ出ようとして・・・。何やら違和感を感じる。
「あれ・・・?何、この部屋・・・・。」
当たりをキョロキョロ見渡すも・・・無いっ!肝心のアレが・・何処にも無いっ!
慌てて壁をドンドン叩いたり、床に注ぎ目が無いか、散々調べては見たものの・・やはり、何処を探しても見当たらない。
う・・嘘でしょう・・・?
そして次の瞬間、私は大声で叫んでしまった。
「出口は何処なのよ~っ!!」
そこへタイミングよく液晶画面が現れた。おおっ!天の助け!
しかし、次の瞬間・・私は衝撃を受けてしまった。
『おはようございます。第22日目の朝がやって参りました。実は昨日不測の事態が起こってしまいました。ヒロインであるオリビアがとうとう白銀のナイト達の好感度を貴女に奪われてしまった腹いせに貴女をそちらのお部屋に監禁してしまいました。』
「え・・・何・・・監禁・・ええええええ?!う、嘘でしょうっ?!続き・・・この説明文の続きの文章は・・・!」
私の重要必須アイテムの腕時計が奪われていないのは幸いだった。腕時計をタップすると次の説明文が表示された。
『そこで、私どもは何とか貴女をお助けする為に外側から干渉を試みました。そして貴女がその部屋を脱出する為の必須アイテムを部屋のいたる所に配置しました。どうぞそれらのアイテムを探し出して有効に活用し、無事に『大理石の部屋』から脱出を試みてください。健闘を祈ります。』
「はああああ~っ?!」
どうやら私は乙女ゲームの世界から、脱出ゲームの世界へ連れて来られてしまったらしい―。
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