第11日目 今日は臨時のお休みです 後編

「さて、と・・・。何処へ遊びに行こうかな~。」

駅に着いた私は切符売り場に表示されている駅名を見ながらゲームの世界を思い出していた。

「この間は首都の『コルト』に行ったしな~。お天気がいいから郊外の町へ遊びに行くのもいいし・・・。あ、そう言えば・・・二つ先の『エルム』の町には大きな遊園地があったよね・・・。」

ゲーム中でヒロインのオリビアが休暇の日に攻略キャラ達とデートするシーンがあったのを思い出す。確かデート出来る相手は好感度が70以上のキャラじゃないとデートが出来なくて・・・好感度が足りなくて涙を飲んで諦めたデートイベントがあったっけ・・・。

「よし、決めた!実際の『エルム』の遊園地に行ってみようっ!」

1人で遊園地・・・・ちょっと寂しい人間に周りから見られるかもしれないけれど、ゲームの世界をバーチャル体験出来るなんて稀にないチャンスだしね。一応、今日の予定では攻略キャラと親交を深めるチャンスです・・・なんて記されていたけれども・・・冗談じゃないっ!ほんとーに『白銀のナイト』達には気を遣って疲れてしまう。学園内にいれば嫌でもあってしまう確率が高いけど・・・遊園地ならまず!攻略キャラに遭遇する事は無いでしょう!

今日ばかりはこの乙女ゲームの世界の事を忘れて・・・私個人としてこのゲームの世界を堪能したい!


「さて。では『エルム』行の切符を買って・・・。」

鼻歌を歌いながら切符を買って・・・いざ出発!


 こうして私の「お1人様遊園地」が幕を切って開けた・・・。?


『エルム』の駅は『エタニティス学園前』の駅から電車で約15分先にある。

そして駅を出ると、もう目の前が遊園地『エルム・ワンダーランド』なのである。

どれどれ・・・まずは園内をくまなく散歩してみようかな・・・。


「あ!あのオープンカフェはオリビアがフレッドと初めて一緒にランチを食べた店だ・・・。あ!あのメリーゴーランドは・・・プププッ!あ、あのエディと一緒に乗ったんだっけ・・・・。あの時のエディの表情・・・最高だったなあ~。」


園内を散歩しながら、ゲームシーンで実際に登場したお店や乗り物を目にすると、その時のスチルが目に浮かび、ついついニヤケる顔が止まらない。

そして・・・。

「うわあ・・・・観覧車だ・・・っ!」

私は思わず感嘆の声をあげた。

「そういえば・・・あのシーンは・・・流石にメインヒーローとヒロインの胸キュンシーンだったなあ・・・。」

そう、この観覧車はオリビアとアンディが夕日をバックに観覧車の一番てっぺんで・・初めてキスを交わした場所だったけ・・・・。あのシーンは特別綺麗な場面だったなあ・・・。

思わず感動しながら観覧車を見上げて・・・。何だか実際に乗ってみたくなてしまった。

「よし、ではお1人様観覧車に初挑戦だっ!」


早速チケットを買いに行こうっ!

チケット売り場に行くと、私は販売員さんに言った。


「すみません、観覧車のチケット1枚・・・。」


「いや、2枚だ。」


その時、私の背後からお金を持った手が伸びて来た。


え・・・?い、一体誰・・・よ・・・?

恐る恐る振り返ると・・・。


「え?え?ダ、ダン・・・・?な、何故ここにっ?!」


何と、そこに立っていたのは・・・従業員のダンであった・・・。



 今、私は観覧車の中にダンと2人で座っている。


「おお~すごいな、エリス。俺・・観覧車に乗るの初めてなんだよ。ほら、見て見ろよ。人が豆粒みたいだぞ~。」


ガラス窓に手をついて、ダンはまるで子供のようにはしゃいでいる。

それにしても・・・解せぬ。何故・・何故、私はダンと2人で観覧車に乗っているのだろう?何故ここにいるのかとダンに幾ら尋ねても、彼はまあいいからいいからと言って取り合ってくれなかったし・・・。よし、彼が落ち着いたら改めて尋ねてみよう。

じ~っ・・・。

私はダンを見つめていると・・・ようやく彼は私の視線に気が付いたのかこちらを見る。そして、それと同時に今迄消えていた好感度を表すハートのゲージも突然表示される。うん・・・?何だか嫌な予感がしてきた・・・。ま、まさか・・好感度を上げる選択肢が表示される兆しなのか・・・?


「うん?どうした、エリス。俺の顔に・・・何かついてるか?」


ピロリン。

ああああっ!やっぱりイイッ!ゲーム選択画面のウィンドウが開かれてしまった。


『攻略対象が質問してきました。何と答えますか?』


1 ええ、ついてますよ、目と鼻と口が

2 2人きりですね・・・・。

3 今日の私・・どうですか?

4 目を閉じる


な・な・な・・・・・何なの?!この・・・特に2と4の選択肢はっ!

こ、こんな物を選んだら・・・この狭い観覧車の中・・・しかも相手は大男。

最早・・・身の危険しか感じないっ!悪意だっ!このゲームは・・・悪意の固まりで出来ているっ!かと言って1を選択すれば・・・相手の気を損ねかねないし・・・。こ、ここは・・・不本意ながら・・・一番ましな3番を選ぶしかない。


「あ、あの。今日の私・・・どうですか?」

ああああーっ!言いたくも無いのに、こんなセリフを言わなければならないなんて・・・こんな少女漫画的な台詞・・・恥ずかし過ぎるっ!思わず赤面してしまうが・・・ダンは私のこの赤面を全く別の意味で解釈してしまったようだ。



「え?え?今日のお前か・・・?」


ダンも途端に顔を真っ赤にする。そしてチラチラと私を見ながら咳ばらいを1つすると言った。


「あ、ああ・・・。き、今日のお前は・・・そ、その・・・いつにもまして、か・可愛い・・と思う。」


そしてグググッとダンの好感度があがり・・ついに100の大台に乗ってしまった!


「あ、ありがとうございます・・・。」

くう~っ!こ・・・こんな恥ずかしい事をダンに尋ねさせるなんて・・おかしいでしょうっ!はっきり言って・・・ダンに言わせるような内容では無い。もっとこういうセリフが似合いそうなキャラが沢山いるのに・・。例えば、ジェフリーとか、ニコルとか・・・。

しかし、何だかダンの私を見る目がやばくなってきた。目は潤み、頬が薄っすらと赤く染まっている。マズイ、このままでは・・・勘違いさせてしまうっ!

観覧車の窓を見ると、ようやく下降し始めた所・・地上に着くまでにはまだ少し間がある・・。よし、ここは話題を変えるしかないっ!


「あ、あの。ダン。先程も尋ねましたが、何故ここに貴方が来ているのですか?」

真顔で尋ねる。


「あ・ああ・・・。実は、俺は今日仕事でここに来ていたんだよ。」


ダンが頭をかきながら答えた。


「え・・?仕事?まさか・・・遊園地でアルバイトもしているんですか?」

まさかのダブルワーカーなのか?!


「いや、そうじゃない。来週学園のイベントの野外パーティーが行われるのは知ってるだろう?」


「え?野外・・・パーティー?」

知らない、そんなものは初耳だ。


「エ・・・なんだよ、マジか?エリス・・お前、仮にもここの学園の生徒だったんだろう?こんな一大イベント・・知らなかったのか?」


ダンが驚いた様に言う。いやいや・・・驚いているのはむしろ私の方なんだけど・・・。このゲームの中では野外パーティーなんてイベントは存在していなかったんですけど・・・。

「は、はあ・・・まあ、見ての通り色々ありましたから・・・。」

無難な返事をしておく。


「あ。ああ・・そうだったよな、お前・・色々あって今はメイドしてるんだもんな。悪かった、変な言い方して。」


しゅんとなるダン。ウウ・・・反って気を遣わせてしまった。


「ほ、ほら。ダン。観覧車着きましたよ。さあ、降りましょうっ!」

そこへ丁度タイミングよく観覧車が到着したのでこれ幸いと私は明るく笑い、ダンの背中を押すようにしてようやく息詰まる観覧車から降りる事が出来たのだった。



「へえ~・・・。それじゃ、特設ステージのテントを借りに、ここへ来ていたんですね。」


ダンと園内を歩きながら私は彼の話に相槌を打った。


「ああ、そしたらお前が1人で観覧車に乗ろうとしていたから・・・何か・・悪かったな。勝手におしかけてっしまって。・・本当は1人で乗りたかったんだろう?」


「いえいえ、そんな事無いですよ。1人で乗るの味気ないと思っていたので。」

言いながらチラリとダンの好感度を見れば・・・数値は120に上がっていた。

よ、よし・・・これ以上今日は好感度の数値を上げないでおこう。

こんな序盤でマックスにすると・・・何か色々ヤバイ気がする。


「エリス、お前・・・まだ遊園地に残るのか?」


突然ダンが尋ねて来た。


「ええ。そうですね。めいっぱい遊園地ライフを楽しみます。」

だから早く学園へお帰り下さい。とは・・・口が裂けても言えない。


「そっか・・残念だな。俺は仕事が他にもあるから・・・学園に戻らなくちゃならないんだ。」

残念そうに言うダン。


「まあ、平日ですから・・・しかたないですよ。私は特別にトビーから休暇を頂いただけですから。」


「え?トビー?エリス・・お前・・・いつの間にリーダーの事・・・呼び捨てにするような仲になったんだ?」


何故か嫉妬?が籠ったような目で私を見下ろすダンがいる。

あ・・なんか・・これってヤバイ状況?気付けば・・・・ダンに壁際に追い詰められているでは無いかっ!


「え、ええ・・・。そ、そう呼ぶように・・・命令されましたので。」

本当は命令なんかされていないけど・・身の保全の為にトビーに犠牲になって貰おう。


「そうか・・・命令か・・・。あいつめ・・・。」


言いながら、ダンは身を引いた。ほっ・・・良かった、助かった・・・。


「あいつ・・・強引な所があるからな。何か嫌な事されたら・・・俺に相談しろよな?」


言いながら笑うダンは・・・げげっ!ますます好感度が上がって・・・今は130になっているっ!

この時になって私は初めて気が付いた。このゲームは・・・好感度が異常に上がりやすいのだ!

もしマックスになったら相手から・・・こ、告白されてしまう!

このゲームの最初の目標は・・・何だっけ?出来るだけ多くのキャラの好感度をあげ・・・だったよね?

仮に1人でも好感度マックスになり、告白されたら・・もし断れば、相手の好感度は急激にさがり、二度と上がる事はない。仮に告白に答えれば・・・他のキャラ達の好感度を上げるのは絶望的・・・。


だ、だめだ・・・・。

これ以上・・・ダンに深入りしては・・・。だってだって・・・まだ一度も出会っていない『白銀のナイト』達がいるのにーっ!


早くも私は・・・詰んでしまったかも・・・しれない??

と、とに角今はダンから逃げないとっ!


「そ、それではダン。私はこの辺で失礼しますねっ!」


そしてダンが何か言いかけているのを振り切り、私は脱兎の如く、その場を逃げ出した。

駄目だ駄目だ駄目だ!ダンが学院に戻る頃を見計らって・・・私も学院へ戻って・・今日はもう自室に引きこもっていようっ!


 そして、それから約1時間後・・・私は誰にも見つからないようにこっそり自室へ戻り・・・引きこもる羽目になってしまった。



『お疲れさまでした。第11日目無事終了致しました。大分ゲームシステムに慣れて来た頃ではないでしょうか?それではまた明日からメイドの仕事と攻略キャラの好感度を上げるミッションを頑張って下さい。』














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