第8日目スタート 新たなるステージへ
今朝の私はご機嫌だ。
何せ昨夜、メイドレベルが12に上がり、『食器洗い』と言う新しいスキルを手に入れたのだから。
きっとこれは・・・あれだな。自動食洗器機能みたいなアイテムを手に入れる事が出来て・・・勝手に洗ってくれたりして・・・。
そしてほくそ笑みながらベッドから起き上がった―。
「ほら、エリス。今日からこの洗剤を使いなさいよ。」
そう言って今朝、カミラが私に新しい食器用洗剤を渡してきた。
「あの・・・これは・・・・?」
「フ、フン。昨日・・・貴女、あまりにも食器洗いが大変そうだったから・。私が以前使っていた食器用洗剤が余っていたから、あげようと思っただけよ。べ、別に親切心とか・・そ、そんなんじゃ無いからね!」
カミラは少しだけ頬を染めるとフンとそっぽを向く。
「あの・・・これって・・・特別な洗剤・・なんですか?」
受け取っとばかりの固形洗剤を見て尋ねた。
「流しに水を張って、そこに汚れた食器をいれるのよ。そして、その中にこの固形洗剤をほんのひとかけらちぎって入れるだけで、付け置き荒いしてくれるのよ。そうね・・大体10分も放置しておけば汚れは完全にとれるから、後は水洗いですすげばそれでOKよ。」
カミラは丁寧に使い方を教えてくれた。
「あ・・・ありがとうざいますっ!カミラさん!。」
すると初めてカミラが少しだけ笑みを浮かべると言った。
「・・・せいぜい頑張りなさいよ。メイドの仕事・・・頑張れば頑張るだけ・・便利なアイテムを使用できる許可を貰えるんだから・・・。それじゃあね。エリス。」
そしてカミラはメイド室から出て行った。信じられない・・・。あのカミラが私に頑張りなさいと言うなんて・・・。何だか少しだけ距離が近づいたようで嬉しい気持ちになって来た。この調子で他のメイドや、ダンのように男性従業員達とも仲良くなれたらいいんだけどな・・・。
さて、今日も1日頑張ろう。
「おはよう、エリス。」
「おはよう、アン。」
私達は厨房で顔を合わせ、朝の挨拶をした。私の涙ぐましい努力の甲斐?あってか、アンはようやく1人で朝起きれるようになり、今は厨房で朝の挨拶をするようになっていた。
「しまった。困ったな・・・・。」
突然厨房にいた料理長のガルシアが言った。
「何?どうしたの、ガルシア。」
アンが尋ねる。
「いや・・・実は今日・・デザートで使用する予定だった苺を摘み取りに行く予定だったんだが・・。別の卸売業者が訪ねてくることになって・・・。苺を摘みに行けなくなってしまったんだ。困ったな・・・。」
そう言いながら私達の方をチラリと見る。
「あ~・・・ほ、ほら!私は今日は無理だわっ!もうすぐダンスパーティーがあるからダンスホールの掃除に行かなくちゃいけなかったんだ・・・。ごめんねっ!」
言うと、アンは脱兎のごとく走り去ってしまった。
「う~ん・・・誰かが摘み取りに行ってくれると助かるんだが・・・。」
そう言いつつチラリと私を盗み見る。え・・・・私だって忙しいんだけどな・・・。
するとピロリンと音が鳴って液晶画面が表示される。
『料理長が困っています。何と返事をしますか?』
1 私は無理ですよ
2 大変ですね。頑張って下さい
3 無言で立ち去る
4 私が行きますよ
え・・・。私には困っている人を見捨てるなんて・・・見捨てるなんて・・・・。
仕方が無い・・・。
「私が行きますよ。」
「ほ、本当かっ?!エリスッ!ありがたいっ!それじゃ早速言って来てくれっ!」
ガルシアは大きな背負いカゴを何処からか持って来ると有無を言わさず、私の背中に背負わせてしまった。
え?え?こんなに大きなカゴに入れないといけないの?どう見てもこのカゴ・・・私の背丈の半分はあるんですけどっ!
「あ、あの・・・ガルシアさん・・・。」
「ああ、そのカゴ一杯になるまで苺を摘んで来てくれ。場所はここから真っすぐ行った先に学園内の温室がある。一番右側がイチゴ栽培の温室だから、そこで摘んでもっっ来てくれ。何、たかだか片道500m程の距離だから、楽勝だろ?」
「は、はい・・・。」
あまりにも笑顔でガルシアが頼んで来るので、私はやっぱりやめますとは言い出せず・・・カゴをしょって学園の温室へと向かう事になった。
厨房を出て温室に向かって歩いていると、背後から声をかけられた。
「お早う、エリス。」
振り向くとそこにはダンが立っていた。
「おはようございます、ダン。」
そして彼の頭上を見る。うん・・やはり間違いない。彼の頭上には好感度を示すハーとのゲージが浮かんでいる。今現在は0の数値を示している。
信じられない・・・。本当にこのバーチャルゲームの世界・・・勝手に攻略対象が増えていくんだ。私的にはゲームを複雑にしたくないので、攻略対象が増えるのははっきり言って困る。しかし、昨日1日の終わりに表示される液晶画面には
『この調子で攻略対象を増やして下さい。攻略対象が増えればゲームを有利に進める事が可能となります。』
そう書かれていたっけ・・・。もしかするとこのゲームは・・・攻略対象の好感度をマックスにしたからと言って恋愛に発展する訳では無いのかもしれない。大体攻略対象が増えれば増えるだけ、人間関係が複雑になってトラブルが増え・・・修羅場になってしまうでは無いか。このゲームには・・・もっと別の・・・深い意味があるのかも・・・?
「どうしたんだ?エリス。俺の顔を見たまま・・ボーッとして、ひょっとしてまだ寝ぼけてるのか?」
言いながらダンは私の頭を撫でて来た。う~ん・・・こりゃ完全に小さな子供扱いされているな・・。
「大丈夫、ちゃんと起きてますよ。それじゃダン。私急ぎの用事があるので失礼しますね。」
そしてそのまま立ち去ろうとして・・・何故か前に進めない。
え?何で・・・?振り向くと何とダンが私の背負っているカゴを掴んだまま離さないのだ。
「おい、エリス。こんなに大きなカゴを背負って何処へ行くつもりだったんだ?」
「ガルシアさんに温室から苺を摘んで来るように頼まれたんですよ。」
だから急いでいるから放して欲しいのだけど・・・。
「何だって?ひょっとして・・・このカゴ一杯にか?」
何故か苛立ちを含めてダンが尋ねて来る。
「は、はい・・・そうですけど・・・?」
「くそっ!ガルシアめ・・・。エリスにこんな重労働・・・出来るはず無いじゃ無いか。」
え?そうなの?
「よし、エリス。俺が一緒に行ってやる。2人で摘み取れば早く終わるさ。カゴも俺が背負ってやるから安心しろ。」
ダンが笑顔で言う。
「ええ?本当に・・いいんですかっ?」
思わず笑顔になるとダンはフイと視線を逸らせた。あ・・・ひょっとして照れてるのかな?
「礼なんか・・・いいから、早く行くぞっ!」
「はいっ!」
そして私とダンは駆け足で温室へと向かった。
「うわあ~ひ・・広いっ!」
温室へやって来た私はその余りの広さに度肝を抜いた。こ、これは・・・体育館並の広さがあるのでは無いだろうか?」
「よし、それじゃ手分けしてさっさと終わらせて行くぞ!」
「はい!」
そして私たちは一心不乱に苺をもぎ続け・・・ついにダンの背負っているカゴ一杯になるまで苺を摘むことが出来た。
「ダン・・・重くないですか?」
私は心配になり尋ねてみた。
「ああ。こんなのはどうって事は無い。それに言っただろう?俺の主な仕事は力仕事だって。普段の重労働に比べればどうって事は無いさ。」
「すごい・・・ダンは頼りがいのある人ですね。本当に助かりました。それにしても・・・この苺・・美味しそうですよね。」
「ああ、とってもうまいぞ。1つ食べて見たらどうだ?」
言われて私は苺を1つ食べてみた。うわあ・・・すごく甘くて美味しい。
「どうだ?美味いか?」
「はい、とっても美味しいですっ!」
すると何故か液晶画面が表示される。
『攻略対象に苺を』
1 あげる
2 あげない
3 食べさせてあげる
う~ん・・・。わざわざエリスを助けてくれてるんだから・・・嫌っている訳じゃないよね?となると・・。
私は苺をもう一個取ると、言った。
「ダン。口を開けてください。」
「?こうか?」
ダンが口を開けた所へ、苺をいれてあげた。
「な・な・な・・・何をするんだ、エリス!」
「どうですか?美味しいですか?」
「うん、美味い・・・。」
ダンは笑顔で言う。すると・・彼の好感度の数値が30に増えていた。
おおっ!一気に・・30も増えたっ!
「よし、それじゃ行くか。」
ダンに促されて私達は温室を後にした。2人で厨房へ向かって歩いていると、突然ダンが足を止めた。
「ん?エリス。お前・・・髪に葉っぱが付いてるぞ?」
そう言いながらダンが私の髪から葉っぱを抜き取ったその瞬間・・・。
「何してるんだ?」
前方から見知った声が聞こえてきた。するとそこには腕組みをしてこちらを睨んでいるジェフリーの姿が。
「あ、おはようございます、ジェフリー様。」
ペコリと頭を下げて挨拶する。
「おはようございます。」
ダンも恐縮したかのようにジェフリーに挨拶する。うん、それは無理ないかもしれない。だって白銀のナイトと言えば、この国の英雄なのだから。
「おい、エリス。お前に話がある。ここに残れ。」
何故かイラついた様にジェフリーが言う。私はチラリとジェフリーの頭上を見たが・・何故か好感度を示すゲージが消えている。
え・・?もしかして・・ジェフリーは私の攻略対象から外れたのだろうか?
「あ、あの・・実は今、この苺を厨房に届けなければならなくて・・・。」
「ああ、それならいい。俺が替わりに運んでやるよ。」
ダンが言う。
「本当ですか?ありがとうございます、ダン。」
「ああ、それじゃまたな、エリス。」
そしてダンは大きなカゴを背負って厨房へと向かって行った。ダンの背中見送っているとジェフリーが不機嫌そうに声を掛けて来た。
「・・・随分仲がいいんだな。呼び捨てで呼び合う仲なのか?」
「はい。お陰様で。昨日仲良くなれました。」
「フン・・・。所で・・・さっきあの男に髪の毛を触れさせていたな。」
触れさせていた・・・?そんな風に見えたのかな?
「触れさせたというか・・髪の毛についていた葉っぱを取って貰っていたんですよ。」
「ああ、そうか。だけど・・あの男。ひょとしてお前に気があるんじゃないのか?」
何故か話せば話すほどジェフリーの機嫌が悪くなっていく気がする。
これって・・やっぱ攻略対象から・・外れたって事でいいのかな?液晶画面も表示されないしね・・。
「それは・・私に聞かれても・・・そういう質問は・・彼自身にして頂ければ・・・。」
「う・・・煩いっ!聞けるはず無いだろう?!それより・・・昨日は・・お前の姿を1日見ないから気に掛けていたんだぞ?何をしていたんだ?」
「ああ、昨日は先ほどの男性と一緒に校舎内のワックスがけをしていたんです。かなりの重労働でちょっと疲れてしまいましたけど。」
「何?大丈夫だったか?そんなに・・・重労働だったか?」
突然ジェフリーの態度が変わり、彼が語り始めた。
「実は・・・俺は今すごく後悔しているんだ。幾らお前が親に勘当されたからって・・・伯爵令嬢のお前をメイドにしてしまった事を。お前の事を色々知るようになって・・・酷い事をしてまったって反省している。どうだ、今からでも遅くない。エリス・・。お前、もうメイドの仕事辞めるか?」
ええええっ?!そ、そんな。もしここで私が『はい』なんて答えたらゲームオーバーになってしまうのでは・・・?
「・・なんて俺の一存じゃこんな事決められないんだけどな。何せ俺達白銀のナイト達で決めた事だから・・・。俺達の中では未だにお前の事を良く思っていない奴等もいるし・・・。」
ジェフリーは溜息をつきながら言う。じょ・・・冗談では無い。もしメイドの仕事が無くなれば・・・絶対に私はゲームオーバーになるに決まっている!
「い、いえ。どうかこのままメイドの仕事をさせて下さい。私・・・この仕事が大好きなんです。お願いします。」
両手を組んでジェフリーにお願いすると、彼は顔を赤らめた。
「エ・・・エリス・・。そ、そんな顔・・・他の誰にも見せるなよ?お、俺だけにしておけ。でも・・お前の気持ちは良く分かった。それじゃ、これからもメイドの仕事・・頑張れよ?少しでも仕事が楽になれるように・・・考慮するから。」
するとここでピロリンと音楽が鳴り、液晶画面が表示される。
「おめでとうございます。フリートークモードが成功しました。これよりヒロインがライバルになります。ヒロインから攻略対象の好感度を奪い合い、勝利を目指しましょう!」
ええええーっ!な・・・何それーっ!!
恐る恐るジェフリーを見上げると、彼の好感度は80になっており、ハートのゲージが半分近くまで赤く染まっていた・・・・。
「はああ・・・・。全く・・・今日は何て1日だったんだろう・・。」
1日の仕事を終え、自室に戻った私は溜息をついた。今日はあの後、私に話しかけ続けるジェフリーを何とか振り切り、メイドの仕事をこなしたのだが、液晶画面の内容が気になって、あまり集中出来なかった。
「嫌だなあ・・・。あのオリビアと攻略対象を奪い合わなくちゃならないなんて・・・。もしかしてこのゲームって最初からこれが目的だったのかな・・。」
ああ。嫌だ嫌だ。取りあえず明日からは白銀のナイト達と接触しないように気を付けなくては・・・。
そして私はシャワーを浴びて寝間着に着替えるとベッドへと入った。
『第8日目終了。明日から新たなステージへと進みます—。』
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