第6日目 2日目の休日の過ごし方①
『おはようございます。ゲーム開始6日目が始まりました。休暇日は攻略対象の好感度を上げるチャンスです。大勢のキャラと出会って大幅好感度アップを頑張って目指しましょう』
「・・・・。」
私は呪わしい気持ちで眼前に浮かんだ液晶画面を見つめていた。
好感度アップ?何それ。そんなの私は必要としていない。ああ・・・。どうせゲームの世界に入らなければならないのなら、恋愛ゲームでは無く、マネーゲーム。どの位お金を稼げるか・・・とか、謎解き脱出ゲームとかの方が10倍・・・いや、20倍マシだった気がする。
大体何が悲しくて苦手なキャラの好感度を上げなくてはならない?
どうして一緒に出掛けなくてはならないのだっ?!
「あ~面倒臭いなあ。もう・・・出かけたくない・・・。買い物も済んだ事だし、明日からまたハードなメイド生活が待っているんだから、部屋でゴロゴロしていたいよ・・。」
だが・・昨日半ば強引にジェフリーに出掛ける約束を結ばされてしまったのだ。状況はどうであれ、私は嫌われ者エリス。ここで断れば、一気に好感度がマイナスに逆戻りしかねない。
「仕方が無い・・・。準備するか・・・。」
起き上がると深い溜息をつく私だった・・・。
「うん。やっぱりこの服・・・思い切って買って良かった。」
昨日ブティックで買った洋服を着て見て満足する私。今日の服はまるで不思議の国のアリスのようなイメージの服だ。水色のパフスリーブのエプロンドレスのワンピース。・・・若干スカート丈を除けば普段のメイド服に似ている気もするが・・・・実は以前から私はアリスのコスプレをしてみたかったのだっ!しかもエリスはアリスのように金髪だし、名前も似てるっ!これはもうアリスのコスプレをするしかないでしょう?!
今日はブロンドヘアは降ろして頭には黒いカチューシャ。
そしてパンプスを履き、ショルダーバックを肩から下げ、帽子を目深にかぶり・・・いざ、出発!!
私はジェフリーと待ち合わせ場所駅前の噴水広場へと向かった・・・。
普通、男女で出かける場合・・・男性の方が早く来て女性を待つのが定番だが・・・ここはエリスが思い切り嫌われている世界。相手を待たすなど、恐らく言語道断だろう。なので私は余裕をもって15分前に噴水広場へ到着し、ジェフリーを待っていたのだが・・・。
「ねえ、君。可愛いね。さっきからずっと立っているけど、もしかして約束すっぽかされたの?なら俺と一緒に出掛けないかい?」
「いいえ。今日は白銀のナイト様と約束しているのです。」
「ゲッ!そ、そ、そ・・・それは失礼しましたっ!」
男は逃げるように去っていく
フウ~・・・・。これで5人目のナンパだ。全く面倒臭い・・・。
しかし、やはりエリスはちゃんとしたメイク、洋服を着れば・・やはり可愛い、美少女なのだ。その証拠にたった10分で5人の男性にナンパをされてしまった。
追い払うのが面倒くさいと思っていたが、待ち合わせの相手が白銀のナイトと分かれば、皆恐れをなして退散していく。う~ん・・。ここまで恐れられ?知名度が高いとは思わなかった・・・。
そんな時・・・・。
「よお!待たせたなっ!」
ジェフリーがデニムの上下を合わせたボトムスとジャケットの組み合わせで現れた。
帽子を目深に被っていたので、上にあげると笑顔で挨拶。
「おはようございます、ジェフリー様。」
すると一瞬顔を赤くするジェフリー。
「お、おい・・・。待たせたか・・・?」
何だか言葉と行動がちぐはぐな態度のジェフリーに・・再び選択肢が表示される。
『1 はい、待ちくたびれました
2 いつまで待たせる気ですか?
3 もう帰ろうかと思っていました
4 まあ多少は・・・
うわああ・・・。何だかどの選択肢を選んでもバツなきがするけど・・・。でも先程のジェフリーの態度を思い出す。・・・何か妙にソワソワしているようにも見えたし・・・。よし、ここは賭けだ。
「もう帰ろうかと思っていましたよ。」
そう言って上目遣いに見上げてみる。
すると・・・・・。
「あ・・・わ、わ、悪かった!すまん・・・。もしかして・・拗ねてるのか・・・?」
ジェフリーは何故か慌てた様子で私に話しかけて来た。
おやあ・・・?ひょっとすると、これって正しい選択だったって事かな・・・?
しかし、ここから先の選択肢は表示されない。それどころかジェフリーの好感度を表すハートのゲージも表示されない。という事は・・・今からフリートークモードに入るって事ね・・・。よし、大分ゲームのルールにも慣れてきたみたいだ。
「おい、どうしたんだよ、エリス。急に黙り込んだりして・・・。やっぱり怒っているのか・・?」
こころなしか、ジェフリーが少し落ち込んでいるようにも見える。と言う事は・・・今は私の方が彼よりも優位な立場に立っていると言う事だ!
「いえ、本の冗談です。申し訳ございませんでした。」
此処は素直に謝って置こう。
「何だよ~冗談かよ。あ~焦った。」
ジェフリーは大袈裟な位胸を撫でおろしている。
「それでジェフリー様。本日はどちらへお出かけする予定なのですか?」
「うん。実はな・・・。観たい映画があるんだよ。本当は昨日オリビアを誘いたかったんだけど・・・そんな映画は観たくないって断られて・・。挙句にアンディに誘われたから彼と出掛けます、何て言うんだぜ・・・。それで町をブラブラしていたら、暇そうにしているお前を見かけたって言う訳だ。」
「はあ・・・・そうですか。」
やはり・・この世界のヒロイン、オリビアは中々の曲者だ。18にもなって自分の言いたい事ずけずけ言えるかな?仮に映画を観たくなければ、アンディと出掛ける事になっておりますので・・・と前置きしてから言うべきなんじゃないの?・・・だからこの世界のヒロイン・・・人気投票で圏外になったんだよ。
よし、こうなったら私がこの可哀そうなヒーローをたててあげよう。
「ちなみに・・・どんな内容の映画でしょうか?」
「ああ、宝の地図を手にジャングルの奥地や、果ては大海原の航海にも旅立つ冒険活劇映画だっ!」
目をキラキラさせて言ってるよ・・・・。でもね、ここは乙女ゲームの世界なんだよ?そんな映画・・・あのオリビアが喜んで見るはずがない。これじゃあ断られるのも無理は無いか・・・。
だが、私は違うっ!ここは大人の対応で・・・っ!
「そうでしたか、それなら私はラッキーでしたね。」
「え・・・?どういう意味だ・・・?」
「何故ならオリビア様がジェフリー様の誘いを断った為に、私はその映画を観る事が出来るのですから。いいですね。冒険活劇映画・・・私は大好きですよ。」
そしてニッコリ笑うおまけつき。
「エ・・・エリス・・・。」
ジェフリーが感激?の目で私を見ている。よしよし、いい調子だ。
「よ、よし!それでは早速映画館へ行こうっ!」
ジェフリーは右手を上に上げると、元気よく前を歩き始め・・・私は大人しくその後ろを付いて行く事にした。
しかし、この時の私は自分たちの事をじっと見つめている人物がいた事に全く気が付いていなかったのだ・・・。
ジェフリーがチケットを買って戻って来た。
「ほらよ、エリス。」
「ありがとうございます、それではお金です。」
私は自分の映画チケットを受け取ると、言った。
「おいくらでしたか?」
「1200コインだったぞ。」
「分かりました、今お支払いしますね。」
そう言って財布を出そうとするとジェフリーが慌てて止めた。
「お、おい!エリス。お前・・何お金出そうとしているんだよ。」
「え?ですから自分のチケット代のお支払いを・・・。」
「何言ってるんだよ!俺から誘ったんだから、金なんか取る訳無いだろう?」
「いえ。ですが・・・申し訳ないので・・・。」
するとジェフリーが大袈裟な位溜息をついた。
「はあ~・・・。お前・・・本当にあのエリスなのか?大体エリスときたらゆすり・集りは当たり前、お金なんか払いませんわって人間だったじゃないか・・・。」
その話を聞いて私は驚いた。えええっ?!エリスはゲーム中では一度もゆすり・集りなんてした事ありませんけど?ここは1つ確認してみよう・・・。
「あの・・・ちなみに、そのゆすり・集りの話は・・・どなたから聞いたのですか?」
「ん?オリビアに決まってるだろ?」
ジェフリーは普通に答える。
「ああ・・・そうですか・・確かにそうですよね・・・。」
言いながら私は頭の中でめまぐるしく考えていた。ここは・・・オリビアの逆ハーレムの世界で、さらにエリスがバッドエンドを迎えてしまった世界。
ヒロインが全キャラを攻略するのに一番重要なキャラクターが必要になる。
それがエリスなのだ。このエリスにヒロイン、オリビアは徹底的にいじめることにより、白銀のナイト達の庇護欲を煽り・・・・恋愛関係へと変わっていった。だから・・ひょとっとするとオリビアはある事無い事でっち上げのエリスに関する悪い話を作り上げ・・・全ての白銀のナイトをゲットしたのかもしれない・・。もし本当の話なら・・・エリスは気の毒な扱いを受けたんだなあ・・・。うん、同情するよ。思わず腕組みをして頷く。
「おい?どうしたんだ?エリス。」
ジェフリーは不思議そうな顔でこちらを見つめている。
「いえ、何でもありません。それでは中へ入りましょうか?」
そして私たちは映画館の中へ入って行った。
・・・まさにこの瞬間が私がエリスに感情移入するきっかけとなった瞬間だった。
映画館の中へ入ると私は言った。
「ジェフリー様。少しここでお待ちください。」
「え?エリス。お前・・・何処へ行くんだ?」
ジェフリーは声を掛けて来るも私は頭だけ下げて足早に売店へと向かった。
うん、やっぱり映画といったらポップコーンに飲み物だよね。
映画のチケット代を払わせてしまったのだから・・・せめてこれ位は・・・。
売店に行くと私は売り子さんから飲み物2つ、ポップコーンを2つ買い・・・。
「ど、どうしよう・・・。も、持ちきれない・・・・。」
しまった、失敗だった。まさか・・・こんなにサイズが大きいなんて思いもしなかった・・・。
フラフラになりながら歩いていると・・・。
「どれ、俺がもってやろう。」
突然背後から誰かの手が伸びてきて荷物をとられてしまった。
「あ!」
私が声を上げた時・・・そこにアベルが立っていた。
「ア・・アベル様。偶然ですね。映画を観にいらしてたんですね。」
「あ・・・ああ、まあそんな所だ。」
何か歯切れの悪い返事をする。
「・・・で。食べ物も飲み物も2人分あるが・・・誰かと来ているのか?」
「はい。ジェフリー様とです。でも・・・誰にも言わないで下さいね。」
私は小声で言う。
「・・・何故だ?」
妙にムスッとした顔で言うアベル。う~ん・・・何だか機嫌が悪そうだ・・・。どうしてだろう?
いつもならこの辺でピロンと音楽がなって液晶画面が表示されるのに・・・今日に限って何も起こらない。何故だろう?
あ・・もしかして、今ジェフリーとのフリートークモードだからかな・・?
そうだっ!こうしてはいられない!待たせたら・・怒られるっ!
「あ、あの。アベル様。もうしわけありませんが、今人を待たせておりますので・・・すぐに戻らせて下さい。」
そしてアベルが持っている品物を取ろうとするも、ヒョイと上に上げられてしまう。
「ヘエ。」
そこで何故か嬉しそうな笑みを浮かべるアベル。
「ア、アベル様!ふざけないで下さいッ!お願いですからそちらを渡して下さいッ!」
必死で手を上に上げるもアベルがヒョイと腕を高く上げて取る事が出来ない。
う~っ!ゲームキャラ中、最も背が低く、ヒロインとも同じ身長のこのアベル・・・。自分より背が低いエリスをおちょくって遊んでるんだなッ!
その時・・・・。
「おい!何してるんだっ!」
おお~っ!正に天の助けっ!
そこには怒り心頭のジェフリーがアベルから品物を奪って、そこに立っていたのだ。
「・・・チッ!」
アベルが悔しそうに舌打ちする。
「ジェフリー様!」
「おい・・・アベル。お前・・・自分より背の低いエリスをからかって遊んでいたのか?」
「う・・・煩いっ!そういうお前こそ・・・エリスみたいな女と映画を観に来てるなんて・・・気が知れないなッ!」
し~ん・・・。
一瞬その場を気まずい空気が流れる。言った本人、アベルは青い顔をしているし、一方のジェフリーは怒りの表情を浮かべている。・・・その怒りの表情は・・・一体何を表しているのだろうか?
こ、ここは私が何とかしなければっ!
「あ、あの・・・ですね、これは・・・私が休日を1人で暇そうにしていたのを見兼ねたジェフリー様がわざわざ私を映画に誘って下さったんですよ。ジェフリー様は親切心で私を誘って下さったんです。」
「エリス・・・。俺・・・。」
しかしアベルは傷付いた顔をしている。何故、そんな顔するかな?!むしろその表情をするのは・・・言われた私の方なんですけど・・・?
すると、それまで黙っていたジェフリーが言った。
「煩いっ!アベルッ!俺は・・エリスといると楽しいから、誘ったんだっ!俺達の邪魔をするなっ!行くぞ、エリス!」
言うとジェフリーは品物と私の手首を掴んで、部屋の中へと入って行った。
「・・・申し訳ございませんでした。ジェフリー様。」
座席に座ると私は謝った。
「え?!何故・・・お前が謝るんだっ?!」
ジェフリーが驚いた様にこちらを見た。
「はい、私のせいで不快な思いをさせてしまったからです。」
「ええ?!何故、お前のせいで・・・になるんだっ?!」
う~ん・・・いちいちリアクションが大きいなあ・・・。これでは周りに迷惑がかかる。
「あの・・・その話はまた今度にしませんか?もうすぐ映画がはじまりますし・・。」
「あ、ああ・・・。そうだな・・。」
そして私たちは映画が始まるのを待った。
やがて始まった映画は、それはとても面白いもので、私とジェフリーは夢中になって映画に没頭した―。
映画館を出るとジェフリーが尋ねて来た。
「どうだった?エリス。映画・・・面白かったか?」
「はい、とても面白かったですっ!こういう映画って・・・本当に面白いですね!また同じような映画があったら、観に行こうかと思いますっ!」
興奮して目をキラキラさせながら私は言った。
「・・・1人でか?」
「はい?」
「だから1人で観に行くつもりか?」
「そうですね・・・。特に一緒に行く相手がいなければ1人で観に行くつもりですけど?」
「なら・・・。」
コホンとジェフリーが咳払いする。
「お・・俺が一緒に行ってやってもいいぞ?」
何故か上から目線的な言い方をする。ははあ~ん・・・さては・・また私を誘いたいって言う訳だな?
だったら、私はこう答えるしかないでしょう。
「はい、分かりました。ではまた御一緒させて下さい。」
「エリス、丁度昼の時間だ。何処かで食事するか。」
「え?!」
私はジェフリーの提案に驚いた。
「何が『え?』なんだ?・・・嫌なのか?」
ジェフリーが眉をしかめながら私を見る。
「駄目ですよっ!私と一緒に居る所を見られたら、ジェフリー様の評価が下がります。」
「!おまえ・・・あんな・・・アベルの言う事なんか、真に受けるなっ!」
何故か突然怒り出す。
え・・?アベル・・?どうして此処でアベルの名前が・・・?あ!もしかしてさっきの映画館でのアベルとの会話・・・あの事を言ってるのかな?
「いいえ、ベつにアベル様の事は関係ありませんよ。ただ・・・私は学園中の嫌われ者ですから・・・。私といると言われなき誹謗中傷を受けるかもしれませんよ?」
だから放っておいて下さいと遠回しに言ってるのですけど・・・。
「大丈夫だ。」
「え?」
何が大丈夫なのだろうか?
「今のお前は・・・何処からどう見てもエリスには見えないから、安心しろ。と言う訳で・・・よし!次は食事だっ!行くぞっ!エリスッ!」
そして私は半ば強引に食事に行かされる事になるのだった―。
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