第四章 第二十七話「受け継がれる想い」
私と陽彩さんが話していると、ほたか先輩がゆっくりと歩み寄ってきた。
ほたか先輩は心なしか緊張しているようにも見える。
「陽彩先輩……。わたし、うまくやれてるでしょうか? ちゃんと受け継げているでしょうか?」
ほたか先輩が自分のことを「わたし」と呼ぶのを初めて耳にした。
陽彩さんの前では「お姉さん」ではなく「一人の後輩」に戻るのかもしれない。
そんなほたか先輩の緊張をほぐすように、陽彩さんは笑いながら先輩の肩に手を置いた。
「あったり前だよ! テントを守る判断も冷静でよかった。私が心配してるわけないじゃん!」
その言葉が胸にしみたのか、ほたか先輩の緊張は消え、表情がほころぶ。
「わたし、先輩から受け継いだ部を、しっかり守りますね!」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよー。自然体、自然体!」
「いえ! がんばりますっ!」
そしてほたか先輩は私たちを振り返り、こぶしを思いっきり空に突き上げた。
「みんな! これからもよろしくね!」
「もちろんです!」
私たちも三人で答える。
先輩の笑顔は晴れやかで清々しい。
陽彩さんも優しそうに微笑んでいた。
△ ▲ △ ▲ △
「四人に渡したいものがあるんだ」
荷物を部室まで運んだあと、陽彩さんがおもむろに自分の腰につけていたウェストポーチを開ける。
その中からは透明なビニール袋で包まれた色とりどりの布のような物が出てきた。
私たちはとっさに泥だらけの軍手を取り、濡れたタオルで手をきれいにふき取る。
そしてそれぞれに手渡された袋を開け、中の布を広げた。
「これは……私たちのユニフォームと同じ色の……スカーフ?」
「ガールスカウトみたいで可愛いと思ってね。
突然のプレゼントに驚きながら、私たちは雨カッパの首元を開け、いそいそとスカーフを首に巻く。
袋に入っていたスカーフ留めに布の末端を通し、それぞれに見せあった。
「可愛い!」
思わず言葉が漏れてしまった。
チェック模様の入ったシンプルなデザインのスカーフは、首元に花が咲いたように見える。
三人はそれぞれに照れ笑いを浮かべている。
私の顔もきっと、同じように照れているはずだ。
「陽彩さん。どう? 似合ってる?」
私は胸を突き出し、陽彩さんにスカーフを見てもらった。
「うん、よく似合ってる! それぞれの個性が出てて、すごくいいよ。ましろっちは相変わらず赤が好きなんだなって思うし、剱さんは青が似合っててカッコいい!」
「美嶺、かっこいいってー」
「いや……。そんなこと言われると、照れるっす」
美嶺は頬を染め、頭をかいて「へへへ」と笑った。
「千景ちゃんは……紫にしたんだね。去年は悩んでたのか、よく変えてたけど。……うん。その色は千景ちゃんの強さを感じられて、似合ってると思う。千景ちゃんのひたむきな努力には、いつも助けられてたんだよ」
陽彩さんに言われると、千景さんは微笑みながらうなづいた。
「ありがとうございます……。それに、黒っぽい色は……ましろさんが、似合うと言ってくれたので」
「ましろっちの影響か~! なに? 千景ちゃんまで口説いちゃったの?」
「あぅぅ! 節操なしみたいに言わないでよぉ」
私がほっぺを膨らまして抗議すると、陽彩さんはニシシと笑った。
そして最後に、ほたか先輩に向き直る。
「……ほたかちゃんはやっぱり黄色だね。うん。太陽みたいなほたかちゃんっぽさが出てて、私は昔から好きだったよ」
「え……。太陽みたい、ですか?」
「そうだよ。私なんて一コ下の学年の勧誘に失敗しちゃったから、すごく悩んでたんだ。でも、ほたかちゃんの優しさと笑顔に救われてた。ほたかちゃんは本当に太陽みたいで、ずっと元気づけられてたんだよ。ほたかちゃんと千景ちゃん……私はいい仲間を持って幸せだった」
その言葉を受けたほたか先輩は静かに震え、涙を我慢しているように見える。
その気持ちはとてもよく分かった。
憧れていた人から「実は救われてたんだ」って言われることのうれしさは、何物にも代えがたい。
自分は太陽なんかじゃないって思い込んでいた先輩。
その呪縛から解き放たれたのなら、これほどうれしいことはなかった。
「じゃ、私は行くよ」
満足そうな笑顔を見せた後、陽彩さんは私たちに背中を見せる。
ただのオタクのお姉さんとしか思っていなかった女性の背中は、いつの間にか大きなものに感じられていた。
「引退した者は消え去るのみ。……みんな、元気でね!」
そう言って、陽彩さんは颯爽と去っていく。
その大きな背中は、すでに大切な物を私たちに残してくれていたのだと分かった。
それはもう美嶺と私の中でも芽生えており、これからもきっと、その先の世代に渡っていくのだ。
ほたか先輩を見ると、清々しく笑っている。
不器用で怖がりだけど、誰よりも優しくてあったかい。
そして私のことを「大好き」でいてくれる。
私は先輩の想いに答えを出すことが出来るだろうか。
でも、少なくとも、自分を『
――そんな凄い人に大切に思ってもらえるのだから。
自分に自信を持とう。
そして、頑張ろう。
大好きなみんなのために――。
第四章「陽を見あげる向日葵のように」 完
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【後書き】
ほたか先輩とのふれあいを描く第四章が完結しました!
もし「面白い!」、「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品のフォローと評価をぜひよろしくお願いいたします!
本作を書き進めるモチベーションとなります!
引き続き第五章へと続きます。
次話からの新展開にご期待ください!
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