第三章 第九話「ましろ、大ピンチ」
学校の裏山に広がる森は、思った以上に広かった。
背の高い樹が多いことと、かなり日が傾いてきていることと
木が密集していて視界も悪く、剱さんの姿はすっかり見えなくなっていた。
それでもかろうじて、地面には道と
ずっと街の中で暮らしてきたので、道や標識がない世界がこんなにも怖いとは思わなかった。
落ち葉と泥でズルズル滑る……。
登山靴を履いてればよかったな。
春だというのに、地面は落ち葉が多い。
山の地面は場所によっては柔らかかったり、木の根が張り出しているので歩きづらい。
学校の裏山は低いからと、甘く見ていた。
傾斜はずっと緩やかだけど、平坦がこうまで長く続くと、進んでいる方向が正しいのか分からなくなってくる。
怖くなって誰かに電話をかけようとした時、スマホの画面を見て、私は凍り付いてしまった。
電波が……届いてない!
画面の右上に表示されているはずの電波の強度を示すアンテナの表示が……消えている。
弱いどころか、完全になくなっていた。
間違って飛行機の機内モードになっているのかと確認したが、電波を受け取れる状態にはなっている。
つまり、助けを呼ぶ手段を失ってしまったということだった。
「
自分が森の中で独りぼっちだということを痛感して、突然怖くなった。
力の限りに声をはりあげて、剱さんを呼ぶ。
しかし、その頑張りもむなしく、剱さんは現れなかった。
『人の声は自然の音に紛れて、聞こえない』
千景さんの言葉がよみがえってくる。
その時、私はハッとした。
笛……!
こういう状況だと、笛が有効だと教えてくれてたはず。
確か、剱さんのスマホが入ってるポーチにはクマよけのホイッスルがついていた。
要するに笛の音なら遠くまで届くということだから、クマよけでも同じだろう。
私は鞄から剱さんのポーチを取り出し、ホイッスルを力いっぱいに吹こうとした。
その時。
突然、脇の草むらがガサガサッと音を立てて揺れた。
「な、なにっ?」
びっくりして横に飛び跳ねると、足元の落ち葉が揺れ動き、なにか細長いものが顔を出す。
……それは、ヘビだった。
「ひぎゃああぁぁあぁっ……!」
そのにゅるにゅるとした生き物を見た瞬間、全身に悪寒が走って、頭が真っ白になった。
ヘビ!
ヘビ嫌い!
怖い!
このどこが胴体でどこがしっぽなのかもわかんない変な体!
ヌメヌメしたウロコ!
怖い牙と舌!
何を考えてるのか分からない顔!
「ピーーーーーッ! ピーーーーーッ!」
笛を
あうあぁぁぁぁ……!
気付いて、剱さん!
「ピーーーーーッ! ピーーーーーッ!」
ヘビこわい! ヘビこわい!
助けて、剱さん!
ふえぇぇぇ……。
もう、何が何だか分からなくなっていた。
口に
そこにぶら下がっているスマホ入りポーチが、走るたびにベチンベチンと頬っぺたにあたる。
今どこを走ってるのかもわからない。
それでも
「う、
なんか、
でも、後ろから怖いにょろにょろしたモノが追いかけてくる!
私はかまわず、地面を蹴り進んだ。
「おい! 空木、待て!」
「ピーーーーーッ! ピーーーーーッ!」
「……おい! その先は穴が……」
あぅぅ……。幻聴が聞こえ始めたぁ……。
いくら剱さんに助けてほしいからって、後ろから声が追いかけてくるわけないよぉ……。
きっとヘビのオバケがすぐ後ろに迫ってるんだ。
振り返ったら食べられちゃう!
剱さんに会うまで、止まっちゃダメ!
必死に走り続ける私。
その時、急に重力が消えてしまった。
足が地面に付いていない。
下には穴が開いている。
走った勢いで空中を一回転していく体。
視界がグルンと回ると、視線の先には金髪の女の子の姿があった。
「ましろぉっ!」
剱さんが真剣な顔で叫んでる。
そして私の体は……、
落ちた。
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