第十四話「......あ、そういうことね。了解」
山の広場から見える僧侶の背中。それは一島町名物"一島"以外ないであろう。そして、空を通らない道の入り口......空以外の道は、陸と海。つまり、海に囲まれた一島に向かう道は海しかない。その入り口......海岸に今、私は一人で来ている。時計は持ってきていないけどまもなく6時だろう。
「......場所ハワカッタヨウダナ」
いきなり後ろから声がかかる。
「君って姿が消えるの? そうじゃないとすれば瞬間移動?」
振り替えると、後ろにはすでに亀の化け物と女の子が立っている。
「前者ダ。ソンナコトヨリモ、例ノ物ハ持ッテキタカ?」
「もちろん。ちゃんと例の物と着ている衣服以外は持ってきていないよ」
そう言いながら、私はポケットの中に手を入れる。
シロナちゃんの忘れ物......それは、"ビニール"だ。
「......」
女の子がスマホを取り出して、カメラをビニールに写し始めた......
「......なにやってるの?」
「シロナお姉ちゃんに見せるの。お姉ちゃんがいいって言ったらおじさんは合格」
「へえー、活用しているねえ」
私は時代遅れのガラケーだからスマホのことは詳しくないけど、合格なら電話してくれるのかな?
「......上宮、オ前ハドウシテコレダト思ッタ?」
「うーん、あの脅迫状にもヒントを書いてくれたおかげかな?」
あのビニール袋に書かれていたのは"卵カツドック"、つまり、私が初めてシロナちゃんと会った時に食べていた卵カツドックの袋だ。今日見つけるまで気づかなかったが、あの時食べ終わった後に袋を閉まった記憶がない。うっかりその場に捨ててしまったのであろう。
シロナちゃんはかつては人間だった実感を感じるために、落とし物を拾っている。久しぶりに人間である私と会話した時に拾った物......それが彼女の大切な忘れ物だ。
......でも実を言うと、消去法でこの答えを導き出したような気がするけどねえ。まず、マンホールオープナーは私に譲らないほどこだわりがあるみたいだけど、ビニールと違ってその理由が解らない。次に写真。初めて見た時は、もしかして人間だったころのシロナちゃん? と思ったけど、そう感じるなら隠さずにとっくに私に見せるもんだと思う。恐らく気になったものの記憶に結び付く手がかりにならずに廃墟に放置したんだろう。そして廃墟に放置されたタオル......ある意味大事な物だけど、私の化け物に対する考え方を試すテストの答えではない気がする。オープナーと同じく理由も見つからないし。他の要素も考えてみたけど、それらは可能性が低すぎるから省略だ。早い話、ビニールを選んだ理由は、シロナちゃんが大事な物に選ぶ根拠があるだけだ。
消去法以外の根拠を亀の化け物に話していると、女の子のスマホの着信音が聞こえてきた。女の子が電話に出ている間。私の口の中には言葉がない。まるで選考結果を待ちわびる学生の気分だね。
「......おじさん、ゴーカクだって」
やりましたっ!! これはガッツポーズものだあっ!!
「ソレデハ、案内スルトシヨウ」
そう言いながら亀の化け物は海の方向を向いた。
「......サア、乗レ」
「どこに?」
「ここに」
女の子は亀の化け物の甲羅に手を入れた。なんと、亀の化け物の甲羅はゴムのように伸び縮みしており、甲羅の内側に空間がある。
その甲羅の中に入った感想......うん、大人の私でも十分に入れる大きさだ。ゴムのように伸び縮みする甲羅の中からは外の様子がよく見える。
「先ニ上宮ヲ連レテイク。加奈、スマナイガ少シ待ッテクレ」
へえー、その子は加奈って言うのか......どっかで聞いたことのある名前だな。
そう考えていると、急に亀の化け物の姿が消えた。甲羅の中の私は中を浮いている錯覚に陥る。どうやら、この亀の化け物が突然消えたり現れたりするのはこの能力のおかげみたいだ。
「上宮、甲羅ノ中ハ空気ガアル。パニックニナルナヨ」
空気......パニック......
「......あ、そういうことね。了解」
私を乗せた亀の化け物は、海へ向かって歩き始め......
海の中を亀の化け物はかぎ分けて行く。甲羅の中の私は見ているだけ。呼吸を止める必要もなし。このまま浦島太郎気分を堪能しながら、一島という名の竜宮城で起きる出来事を心待ちしよう。
「......あっという間だねえ」
一島の陸に足を着けながら呟いてみる。暗闇の中の向こう側の光が、建物があることを伝えてくれる。
「アノ建物ノ中デ、"博士"ガ待ッテイル」
「もしかして、その博士ってのが脅迫状を?」
「ソウダ。博士ハ実験デ忙シイカラスグニハ姿ヲ現サナイ。中デ待ッテイルトイイ」
そう言って亀の化け物は海の中へと消えて行った。
建物の入り口まで来た時、その横に奇妙な壁があることに気づいた。四角い模様が並んでいる。その様子はまるで......
「......歯みたいだね」
一島に纏わる都市伝説を思い出す。もしも本当に僧侶がこの島に変わったとしたら......ここから島の内部に行けたらいいなあ......
「上宮サン......?」
建物の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。その方向を見て私は思わず息を止めた。
大きく雰囲気を変えたシロナちゃんが建物の前に立っている。タオル一枚だったころと違い、水色のワンピースを来ており、おでこには包帯、そして肩まで伸びていた髪はミディアムウルフで整えられている。
その衣装と彼女の白い爬虫類の皮膚、そして眼球代わりの触覚が、異形ながらも不思議な美しさを出している......
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