第十三話「あなたがいなかったら気づきませんでした!!」
「ソンナニ臭イ?」
下水道の中で手島さんに今朝のことを話すと、手島さんは無数の手を順番に嗅いでから聞いた。
「うーん、握った手に臭いが残るぐらいですけど......玄関までには臭いは届かないはずですよ」
「ソレナラ、ソノ人ガ臭イニ敏感ナダケダネ。ヨク嗅ギワケラレタト思ウヨ」
手島さん自信はそこまで臭いは気にしていないらしい。
「それはそうと、手島さん、そっちはどうしたんですか?」
「ア、エット......シロナチャンッテ、自分カラ外ニ出テイタデショ? ダカラ僕モ昨日出テミタケド......」
簡単にするとこうだ。外で出た手島さんは小さな女の子を見かけた。その女の子は何もない場所を見ながら口を動かしていた。気になった手島さんが覗こうと体を乗り出すと、女の子に気づかれてしまった。思わず固まってしまった手島さんに対して、女の子は何気ない様子で手島さんに近づき、じっと見つめた。
それと共にいきなり現れたのは、亀の化け物だった。
「それって、私が話した化け物?」
「ウン、前ニ聞イタ特長トマッタク同ジダッタヨ。側ニイタ女ノ子モ、サッキ上宮サンガ話シテイタ女ノ子ノ特長ト一緒ダッタ」
私が話した女の子とは、今朝公園で脅迫状を渡した小学生ぐらいの女の子のことだ。
「いきなり現れたって、どんな感じにですか?」
「エットネエ......ソノ場ニイナカッタノニ、イキナリ現レタカンジデ......」
話の続き。女の子の方は何も言わず、亀の化け物はこう質問した。
「オ前ハ上宮ヲ知ッテイルカ?」
手島さんは黙って頷いた。
「ソウカ......ソレナラ、アイツノ居場所ハ解ルカ? 大丈夫。我々ハ彼ノ知リ合イダ」
その言葉に警戒を解いた手島さんは、私の住む大谷荘の場所を教えた。
「アリガトウ。彼ノテストニ協力シテヤッテクレ」
そう言って、亀の化け物は姿を消した。女の子は一礼してから走り去ってしまった。
「......どうやら、テストの準備は既にできたみたいですね」
手島さんの話を人通り聞き終えてから、なんとなく彼らの行動が掴めてきた。
「ドユコト?」
「あの時の彼らは、廃墟にヒントを置いてきたんですよ。今私に課せられているテストは二つ。シロナちゃんの忘れ物の回収と、彼らの待つ場所を突き止めること」
「アア、ソノヒントカア!」
「それじゃあ、今から行ってきますが......手島さんも一緒に行きます?」
「モチロン! 上宮サンニハコレカラ僕ノ頼ミヲ聞イテクレルコトニナルカラネ! 今ノウチニ貸シヲ作ッテオキタインダ!」
確か私は手島さんのラジオ局を作るのに協力しないといけないんだっけ。
「わかりました。それじゃあ、まずは例の場所に向かいましょう」
私たちはシロナちゃんの住んでいた廃墟の中......毛布と黒い液体が落ちていた例の場所に向かった。
「......コレハ血ダネエ」
床に固まった黒い液体を見て手島さんが呟いている。
「もしかして、手島さんも......?」
「ウン、前ニチョット指ヲ切ッチャッタコトガアルンダケド......血ガ真ッ黒ニナッテテ驚イタヨ」
やっぱりこれは血液だったのか......再びトラウマの光景と重なりあう。
「......それじゃあ、手島さんは廃墟の中から彼女の大切な忘れ物を探してください」
私が考えている彼女の大切な物のことは、すでに手島さんに話している。
「ウン、ヒントハ上宮サンニ任セルヨ」
そう言いながら、手島さんは無数の手を動かし始める。さて、私も自分の役割を果たしにヒントを探しに行こう。
そのヒントは、前にシロナちゃんに取材していた診察室で見つけた。ボロボロになった椅子の上に紙が置かれている。ご丁寧に#錘__おもり__#代わりの石も乗っている。
"山の広場から見える僧侶の背中。空を通らない道の入り口で我々は待つ"
......なるほど。幸いなことに、文章の中に#既視感__デジャブ__#を感じる。今すぐに断定は出来ないけど、最近の記憶を辿ればわかる。一応念のために他の部屋も探して見るけど、彼らのことだからニセモノを書くことはないだろう。
「手島さーん? 見つかりましたかー?」
ヒントの紙を持って手島さんのところに戻ってきた。もちろん、ヒントはこの紙以外なかったよ。
「上宮サンガ言ッテイタ物ハ無カッタヨ。代ワリニ気ニナッタ物ヲ持ッテキタケド」
手島さんの足元には、三つの物が落ちていた。
ひとつ目は古びたマンホールオープナー。手島さんに会いに行った時に使っていたものだ。ちなみに、今日手島さんの会いに行った時は、自分で買った新品のオープナーを使ったよ。
二つ目は何かのビニール。"卵カツドック"と書かれた、どこかで見たことがあるパッケージだ。
そして三つ目は......家族の写真だ。高校生ぐらいの女の子と年取ったお爺さんが写っている。
「彼らは私をテストしているんだ。さすがにないってことはないはずだけどなあ......」
「......モウ一度手紙ヲ読ミ返シタラ? 何カ気ヅクンジャナイ?」
手島さんの言うことに一理あり。早速脅迫状を取り出して見返す。その文章の中に、シロナちゃんの宝物の最大のヒントが書かれていた。
"最後に忠告する。これは頭脳力や判断力などを試すテストではない。健闘を祈る"
頭の中に、何かが崩れる音がした!
「そうだ! 彼らは私の#化け物に対する考え方__・__#を試しているんだ!」
「ドユコト?」
「手島さん、あなたがいなかったら気づきませんでした!!」
「ダカラ、ドユコト?」
実は今までは、シロナちゃんの持っていた星の破片の石が忘れ物だと思っていた。人間だったころに手に入れたという石だ。だけど、このテストの意味が別れば、答えは別にある。それは#彼女の行動目的にも関わっている__・__#!
今、この部屋にあるものは......
・タオル
・固まった黒い液体
・マンホールオープナー
・ピニール
・写真
・私
・手島さん
答えはこの中にある。私がシロナちゃんと初めて会った時を思い出せば解けるはずだ。これと彼らの場所を特定してから、その場所へと向かうとしよう。
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