第14話 シーラの弟達帰省

天文部は使ってない空き教室をもらい、俺たちはまず掃除に取りかかった。

使われてないだけあり埃だらけだ。


「お掃除…風魔法で吹き飛ばせばいいの?」

とミリヤムがモグモグ何か食べながら言う。


「何でだよっ!!お前がそんなの使うとこの教室吹き飛ぶわ!!ほら、箒を持て!」

と渡す。

しかしそれに跨り空をスイッと泳ぐミリヤムにユストゥスは驚いて見ていた。魔法を見るのが初めてだったのだろう。


「す、凄い…」

普段からヘコヘコしているユストゥス・ケストス男爵子息は紺色の髪に銀色の瞳をしている。

同室のザシャは


「ミリヤム様ーっ、遊んでないで降りてきてくださいーっ」

と言われて無言で降りてきた。ザシャはポケットから飴玉を渡した。


「いい子ですね、どうぞミリヤム様」

と渡すとミリヤムは飴玉を奪い取り頬張った。

ザシャはにこにこそれを見て掃除を始めた。


サブリナはシーラと机を運んでいる。

俺はバケツに水を汲み窓を拭き始めた。そして真面目に掃除して数十分。ようやく教室は綺麗になり使える状態になる。

今日はこれで十分だろう。


「じゃあ、部長はシーラかサブリナがやるか?」

と俺が聞くと


「えっ!?ヴィルでしょ?」

とシーラが言う。いや俺まだ一年だし3学年のシーラかサブリナにしてくれと言うと


「じゃあサブリナちゃんやって?シーラよく解んなくて…」

サブリナは流石にシーラには無理だと感じて了承した。


「庶民だけど頑張ります!!」

と頭を下げて皆から少し拍手される。


「でも内容全く解りません。殿下何をされるのです?」

と聞かれて俺は説明する。


「天文部は星読み部とは違う感じでいく。ていうか星読み部は本来の活動してないしな。夜空を観察するだけで無く研究する。夜空の星は何であると思う?」


「え、知らない…夜になったら現れる白い点々」

とシーラが言い、皆うなづく。やはりこんな認識しか持っていない。


「例えば月は大きく見えるだろ?」


「月ですね、はい」

とサブリナは応える。


「星ってのは月より遥かに遠い場所にある。だからあんなに小さいんだ。肉眼では月は確認できるけど星は遠過ぎて見えない」


「!?それ…月が近くにあるから大きく見えて星は遠過ぎて見えないって…じゃあ星も拡大すれば月なんですか?」

とサブリナが聞く。うむ、理解が早いなこいつ。


「何それ?シーラさっぱり解んない」


「ミリヤムも」


「ええと??殿下とサブリナ先輩凄いですね…」


「王子…夜空の星は無数にあり、あれ一つ一つが月みたいなものだと仰るとは!どういう理屈でそう考えているんですか?」

とザシャが言う。


「うむ、全てが月みたいな形ではないかもしれないけどじゃあ、何で星は夜空に浮かんでいる?月は何故浮かんでいる?そして太陽もだ。誰もがこの世界では当たり前にあるものと思い追求しない。そういうことだ。浮かんでいるならこの…俺たちの立っている世界は何だと思う?どういう形をしていると思う?」

そこまで言ってザシャとサブリナは皆より理解力が早くハッとする。


「王子!まさか!この世界も月みたいに丸いとお考えなのですか!?そして月みたいに浮かんでいると!?」


「その通りだ、ザシャ。そう考えるのが普通だ」


「流石です!殿下!私興味が出てきました!!凄い発見です!!」

まぁ父上の前世知識と女神様のおかげだけどな。


「まぁ、そういう発見をどんどんしていって解明するのさ。そしていずれは天体望遠鏡で月くらいなら見てやろうぜ!」


「「テンタイボウエンキョウ??」」


「ヴィルそれ作るんだってずっと言ってるけど何それ?」

シーラが言う。


「月なら見えるではないですか?あ、私ごときがすみません!!」

とユストゥスが謝る。


「月はこの世界に近いから俺たちは肉眼で目視できる。しかしあの月も近いとは言えただ浮かんで光っているだけ。何故光る?もっと拡大できたらどんな風に見えるんだろうな?模様はあるのか?表面はどうなっている?」


「それを拡大して見るのがテンタイボウエンキョウですか」

ザシャは言い、興奮したサブリナは拍手した!


「凄い!!月を拡大して見る道具を私達作るんですね!?」


「そうだ!頑張ろうな!」

俺とザシャとサブリナとユストゥスは何とか理解してくれたが、シーラとミリヤムは難しくてついて来れない。あほどもだから仕方ない。


「今日は皆お疲れ様。本格的なのは明日以降部活の日に決めて寮に戻ろう。もう暗くなるしな」


「結局ヴィルが部長みたい」

とシーラが言うと皆うなづいた。


「仕方ないだろ!一年は部長にはなれない!」


「シーラちゃん、私はミリヤムちゃんと先に帰りますね!」

とサブリナはミリヤムを連れてさっさと去る。

ザシャもユストゥスと先に寮に帰り変な気を使われた。


「ヴィル!帰ろ!」


「寮なんか近いだろ!」

と言いつつ赤くなる。最近シーラとベタベタしてない。べ、別にしたいわけじゃないけど…。


「そう言えばね、今度弟達が旅から戻ってくるよ?手紙が届いたの。残念ながらまた番は見つからなかったって」


「おお!フォルカーとライマーか。戻って来るのか」

神獣ドラグーの雄は幼い頃…6歳か7歳くらいになると番という将来を一緒にいると言う運命の相手探しを始めるらしい。ちなみに雌は希少なので産まれてからほとんどその地を動かないというが、シーラの親のハクチャーン様は隣国アルデンにいて偶然通りすがりで見つけたローマンおじさんに自分の番だと認識してしまいローマンおじさんは流された。


そしてシーラは…言わずとも俺に番を感じている。幼い頃から俺の子を産むってことを目的というか使命みたいに感じているのだ。人間には番センサーみたいなのはないらしいがドラグー同士はあるみたいで、一目見た瞬間に判るらしく、雄のドラグーは普通はその希少な雌ドラグーを見つける為に旅に出るという。


まぁ見つからなくても年に数回は家族の元に戻って来るらしい。


「今週末のお休みに戻って来るからヴィルも久しぶりに顔を見ない?」


「フォルカーは9歳でライマーは8歳か…まだ小さいのに旅に出るとかほんとお前ら神獣社会が判らんな」

と言うとシーラは


「うーん、私はヴィルに運命を感じた時は電流が身体に流れるみたいだったよ?すぐにヴィルの子供が欲しくなったの…人間には判らないだろうけど、そう言うものなんだ…」

とシーラはもじもじした。


「神獣は長命なんだろ?俺が死んだらお前どうすんの?」

と言うと泣きそうな顔になった。


(ヴィルが死んじゃうの嫌…その前に子供欲しい!)


「番が死んだら…片割れのドラグーはその番のお墓の側で暮らすんだよ…自分が死ぬまで」

と言うから俺は驚いた!


「なっ!何十年もか?」


「そうだよ?普通はそうだけど…お母様が言っていたんだけど、奇跡の王子がいれば神獣である私やお母様の寿命を人間と同じくらい縮めることが可能とか聞いたことある」


「えっ…?そんなこと………今度ザスキア様に聞いてみよ」


「うん!よろしくね!!お母様もジークヴァルト陛下に縮めて貰ったみたい」


「何いっ!?なんだ父上既にやってたのか!なら俺もできるのか…」


「うん!だからヴィルも長生きしてね!」

とシーラは笑って抱きつこうとして思い止まった。もどかしい。俺は


「おい、寮に着くまでだったら手ぐらい握ってやらんこともない…手だけだ!!」

と差し出すとシーラは嬉しそうに


「ヴィル!!嬉しい!!」

とギュッと握ってきた!シーラの細い指の感触久しぶりで俺は内心ドキドキした。


週末になりシーラの実家の公爵邸で待っていると空から青いドラグーと白いドラグーが舞い降りて人型に変化した。もちろん全裸であるから待機していた侍従たちがすぐ様ガウンをかけた。一応公爵令息だもんなこいつら。


「ただいま父様、母様、お姉様…お義兄様」

と青い髪の金目の少年フォルカーが美少年顔で挨拶した。それから白い髪の金目の美少年ライマーも


「ただいま…番見つからなかった…今回もダメだね…」

と残念そうに二人とも肩を落とした。

ハクチャーン様は


「焦らずとも…お前達の時間は長いから大丈夫だ」


「焦るよっ!父様と母様が生きてるうちに番の嫁を見せなきゃなんだからっ!」

とフォルカーは言う。ふんふんとライマーもうなづいた。


「でもやっぱり運命の番なんて中々いないし雌ドラグーは希少でほんとさらに難易度高いし」

とぼやくフォルカー。


「雄のドラグーは雌ドラグーじゃないとダメなのか?」


「ううん…できればね…。人間の女だと…子供産む時は普通の赤ちゃんが多いか、ハーフの神獣でドラグー化はせずに角や羽が生えるだけのになるんだって。ハーフは神獣とは呼ばれなくて一族と同じ扱いはされないんだって。ハーフを捨てる神獣も昔はいた」


「ええっ!?我が子なのにか?」


「うん…昔はね。今はそんなことしないんじゃない?」

神獣社会も中々シビアだった。もし俺が女でシーラが男だったら自分の子捨てるとか絶対やだわ!!


「雌のドラグーは人間との子産んだらお父様の前例でも判る通り俺たちやシーラ姉様は卵の状態で産まれるから神獣ってすぐ判る。でも人間の女が番だった場合はハーフか人間しか産まれないってのは過去あったみたい」


「もしお前達が人間の女と番になっても子供捨てんなよっ!?昔の風習に惑わされんな!」


「うむ!ヴィルの言う通りだ!お前達は公爵家の令息だ!番の子供捨てるとかあり得んからな!もし人間の女であってもその子供は捨てない!」

とハクチャーン様は言う。ローマンおじさんが慌てて


「そうだよ!!孫捨てるとかあり得ないからね!!ドラグー社会なんか無視していいから!家長の俺が言ってんだからね!!はあああ…通りで雌雌言うわけだわ…」

とローマンおじさんがぐったりした。


ちなみにコンチャーン様のような他の神獣はハーフでも可愛がるらしい。ドラグーは物凄くプライドが高い生き物らしい。希少な雌ドラグーを見つける旅に小さい頃から出るというのもうなづけるから仕方ない。後、コンチャーン様みたいにずっと一人で過ごす神獣も多い。


その後フォルカーとライマーの帰省の為のご馳走やらが振る舞われたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る