第8話 ヴィルの御守り

エーレンフェスト公爵邸ではシーラが寮の荷物を纏めながら泣いていた。

ちなみに中高等部入学式の1週間前以内には新入生は入寮する為に準備しなくてはならないのだ。女子寮と男子寮は離れておりどちらも立ち入り禁止で破った者は処罰が待ち受けている。


「シーラ…いい加減そろそろ寮に行けよ!!もう明後日だぞ!入学式!このあほ!」

と俺に抱きついて泣きじゃくるシーラ。

ローマンおじさんにシーラが泣き止まないから説得できるのはヴィルだけだと呼ばれて来たらこれである。


「ゔああああああああああ!!ヴィルと離れちゃうううう!もうおはようもお休みもキス2年も出来ないいいい!!そっ、その間にヴィルが!初等部の可愛い女の子に取られちゃうよおおおおお!!」


「取られるかっ!!」

ゴンっと俺はシーラの頭を小突くが離れない!


「荷物は全部纏めたんなら馬車に詰めるぞ?ザシャ!手伝ってくれ!このあほ俺から離れない!」

とザシャに言うとシーラは


「ザシャくん!まだ!まだ用意してないから入らないで!!」

とシーラが泣きながら叫び、ザシャは


「はーい、シーラ様ごゆっくりー!」

と廊下から返事がありなんとコツコツと遠ざかる足音がした!あっ…あの裏切り者があああ!


「シーラ…何を準備していないんだ?手伝うから早くしろ!寮まで送っていくから」

と俺が言うとシーラは渋々と


「じゃあ、あの棚に入ってるのこっちの鞄に詰めてヴィル」

と指差している。しかしシーラの頭を読んだ俺は


「おい、シーラ!あの棚の中はお前の下着が入ってんだろが!!お前は俺を変態にしたいのかっ!!」

と言うとシーラは赤くなり


「違うよぉ~…ヴィルがどんな下着が好みかチェックしとかないとダメかなって…」


「せんでいいわ!このあほ!」

俺はビシッとチョップした。

あっぶねーわ!ったく!王子に何させる気か!


ちなみにこの世界の下着は従来は本当に布切れと同じでデザインもクソもなくパンツは腰紐で結んだだけのものだったが…。

転生者である父上は前世の知識でそれをなんとコンチャーン様にアイディアを売りつけ実用化され、今では普通に女性はブラジャーなるものとショーツとか言うヤツを手軽に身につけ、また男性用のショーツもブリーフとトランクスとかが実用化されているのだ。


お腹がスースーすると気になる女子にはブラトップという下着が作られている。しかし、見た目のデザインの可愛さから若い娘はブラジャーを付けるのが普通でおばさん達はブラトップを着用が普通になった。バカ売れしたのでコンチャーン様は若干金持ちになってウハウハと遊んでいるらしい。


俺はシーラの鞄に洋服を詰め始めた。部屋着か。シーラが机の中の奴もと言ったのでガラリと机を開けると…


「おいシーラ!なんだこれは!!」

現像した俺の写真がいっぱい出てきた!!しかもなんだこれは!?初等部にいる時の俺や休日の俺や寝てる俺に小さい頃の俺、俺、俺、とにかく身に覚えのない俺がたくさんあった。


「ヴィルの写真だよ?どうしたの?」


「どうしたもこうしたもねぇわっ!!いつ撮ったんだ!!くそっ!没収!!」


「嫌っ!没収したらシーラ寮行かない!留年してヴィルの側にいる!これだけは譲れない!」

とシーラは久々に本気で怒りピリピリと身体から電気みたいなのを出している。シーラの神獣の力だ。ヤバイな。こいつこう見えて神獣だ。


「わ、判った!!でもこんな大量荷物になるし嵩張るし、お前と同室になるルームメイトに変態と言われるぞ!?」


「言われないもん!シーラはヴィルの婚約者!持っていても変じゃない!!」

くっ!!こっ!このやろう!ど正論を言いやがった!!

確かに婚約者の俺の写真を見せてもただの惚気にしか周囲には見えん!!くうっ!シーラごときにこの俺が言い負けるなんて!!


「もういい、好きにしな…」

と言うとシーラは怒りを収めて今度はにこりとした。くっ!


そして下着を見せびらかし


「こっちとこっちどっち持ってこう?ヴィル見てー?」

と言い出す。


「知るかあほ!早くしろ!どっちでもいい!」

照れてシーラを無視するとまた泣くし。めんどくせええええ!!


ようやくシーラの荷物が纏まり俺はぐったりした。ローマンおじさんは俺の肩に手を置いて


「お疲れ様ヴィル…」

と同情の涙を流した。やめてくれ。


「シーラ!休みには戻って来るのじゃぞ?」

とハクチャーン様が言う。


「もちろん戻ります!!毎週!!キッチリ!!ヴィルに会いに!!」

おい寮に入る意味なくね?俺はげっそりしながら


「おい、もう行くぞ!寮が閉まったら入れないから馬車に乗れ!」

と言うとシーラはおじさんとハクチャーン様に抱きついて俺と手を繋ぎ馬車に乗り込む。ザシャは馬に乗り付いていく。


そんでまた俺はシーラの膝の上に乗せられ匂いを嗅がれている!!


「ううっ!ヴィルの匂いが!!もうすぐ!!ない所に行くなんて!!」

俺はため息をつき、シーラの首に首飾りというかロザリオのネックレスをかけた。


「何これ?ヴィル」


「ロザリオに決まってんだろ!?それに俺の力を込めておいた。お前に悪意を持った人間や不埒な考えを持った奴が近づくとなんていうの?バリアだっけ?結界だっけ?どっちでもいいな、とにかくそれが発動して俺にもお前の危険とか判るようになってる。まぁ御守りみたいなもん」

と言うとシーラは感動した。


(ヴィルが!私の為にこれを!!?嬉しい!ヴィル好き!)


「あっ!でもヴィルも同じの着けてよっ!ヴィルを狙ってる令嬢いる!」


「うるせーな!俺はいいんだよ!!」

心の中読めるし!!あほめっ!!

ていうかシーラも読めるがこいつだからな。だからロザリオ渡したのに。


「とにかくそれ、俺が中高等部に入学するまで肌身離さず持っておけ!絶対に外すな!風呂もだ!いいな!外したら婚約破棄!」

と念押ししておかないとこいつはあほだから外す。そしたらシーラを狙ってる男子にあっさりいやらしいことされそうだ。


「うん、判った!外さないよ!!ちゃんと磨くね!ちゃんと鎖が切れないよう休みの時にチェックしてね!ヴィル!」

とシーラも念押ししてきた。


「お、おう判った。…そろそろ着くぞ」

と言うとシーラは俺にキスしてくる!!


「んっ!!」

シーラ…だから…これは…


「大人のキス禁止って言っただろっ!!」

とまた俺は赤くなりチョップする!


「だって!2年も会えないのに!」


「休みに帰ってくるくせに?しかも毎週…」


「あっ…忘れてた」


「忘れんなっ!あほめっ!」

と馬車から降りてザシャがにこにこ荷物を待っていて女子寮の方まで運ぶと男子禁制の文字が見えて俺とザシャは止まった。


「じゃあなシーラ…元気でなー…週末まで…」

短けー!週末なんかすぐだ!すぐ会えると言うのにシーラは今生の別れのようにボロボロ泣く。本当にあほだこいつは!

仕方なくシーラをちょっとだけ抱きしめるとあほみたいにギュウと抱きつくというか締め上げて俺は


「グエッ」

と生け捕られて死にかけの鳥みたいな声出した。

ようやくシーラは離れて


「ヴィル御守りありがとね?シーラもヴィルに御守り上げるね?帰ったら開けてね?」

と紙袋を渡される。シーラは珍しく心を読まれないよう頑張って手を振って俺を見送った。なんだよ全く。


「貴方がシーラ・エーレンフェスト公爵令嬢ですね?この寮では爵位は関係なく庶民も貴族も関係ありませんよ?なので貴方の部屋は庶民と同室ですがいいですね?私は寮長の監督生6学年のテレーザ・ツァールマンです!」


「は、はいツァールマン先輩…」

とシーラは部屋に案内されておずおずと部屋に入ると庶民の女の子がそこにいた。


「…よろしくお願いします。私はサブリナ・テンニースです。神獣様」

と礼をする。サブリナちゃんはモスグリーンな髪にメガネのガリガリの女の子だ。


(凄いっ!こんな可愛い子と同室!しかも神獣様だ!!素敵!!仲良くなれるかな?でも私庶民だし…)


と声が聞こえてこの子は悪意がないことにシーラは少し驚き


「あ、よ、よろしくね?サブリナちゃん…」

と握手した。

その後サブリナちゃんにヴィルの写真を見られて照れた。サブリナちゃんは心からシーラとヴィルを祝福してくれてシーラには初めて同年代の女の子の友達が出来た。

しかし寝る前にヴィルの写真にキスしたり舐めたりしてると流石にドン引かれたけどサブリナちゃんは応援してくれた。


一方でヴィルは自分の部屋に戻り紙袋を開けてそれを広げて赤くなった。


「あ、あのあほめっ!!」

紙袋に入っていたのがシーラのブラジャーとショーツだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る