第48話

「苦しめて、ごめん……

ずっと辛い思いをさせて、ごめん。」




私は心から美咲に頭を下げた。



許してもらおうだなんて思ってもいない。



ただ、自分が親友を苦しめていたという消えない事実を償いたかったのだ。



自己満足にすぎないかもしれない。



それでも、謝りたかった。




「渡辺さんのせいじゃない、

元はと言えば私が……」



「お前は黙ってろよクソジジイ!!」




私を庇おうとしてくれた理事長までもが飛び火を喰らう。



こんな時まで生徒を守ろうとしてくれる人が、誰かを殺すなんてあり得ない。



幹夫くんがピンチだということを知っていれば、理事長だって支援を断らなかったのかもしれないのに。




誰だって、好き好んで人に悪意を向けているわけじゃない。



それ相応の理由さえあれば、

善意を向けることだってできたはずだ。



私も、幹夫くんのことを知っていれば。



もう少し美咲に優しくして、

自分本位に突っ走らずに

寄り添ってあげられたかもしれない。



私の美咲に対する無関心が、

美咲にとっては悪意になった。



私は悪意を向けたつもりなんてなかった。



それよりもむしろ、悪意を向けた方がマシだったかもしれない。



無関心よりは、よっぽど。



私だって、知りたかった。



親友には知る権利があるはずなのに。



どうして何も言ってくれなかったのだろうか。




もちろん、気付けなかった私が悪いけれど。



頼ってくれれば。



泣きついてくれれば……






「ねえ、美咲……」



「何。」



「どうして、あげはちゃんとゆりちゃんを殺したの……?」



「……は?」



「あの二人は死ぬ必要なんてなかったじゃない。殺すなら私を殺せばよかったのに!」




生きようと必死にもがいて、

やっと掴んだ身の安全を。



訳もなくぶち壊された。



その二人の気持ちを思うと、

やりきれなかった。



美咲を怪物にしたのは私だ。



けれど、これだけは許せなかった。




内に秘めた怒りを何とか抑えながら、

私は美咲の答えを待つ。



美咲は、そんな私の目を見てフッと笑った。




「そんなの面白そうだからに決まってんじゃん。二人の死に顔を見た瑞季の顔が。」






……私は、どうするのが正解だったのだろうか。




気が付けば美咲の胸ぐらをつかんで、

その体を壁に押し付けていた。




「許さない……絶対に許さない!」



「そもそもの原因が自分にあるっていうのに、何を許さないの?瑞季と関わらなければ死ななかったかもしれないのにね!かわいそ~!」




美咲は私を煽るように、

顎を上げて私を嘲笑した。



もう、限界だった。




「私を殺せばよかったでしょ!?あの二人は関係ない!!榊原だって!関係ないのに安藤太一に刺されて!なんでこんなことするの!?関係ない人まで巻き込まないでよ……!!」




美咲の首を揺らしてそう叫ぶ。



それでも美咲は、何も動じていないように澄ました顔をしていた。




「あぁ、榊原死んだんだ?残念だったね?」



「人が死んでるのに、何その態度!?」



「関係ないよ、私は生きてるんだから。瑞季と関わった人はみんな不幸にしたかったの。瑞季にこれ以上ない苦しみを植え付けるためならなんだってするよ、私。」



「そんな……!」




何も言えない。



私が美咲の本音に気付かなかったばかりに、こんな悪魔を生み出してしまった。



しかも、私がこれほどまでに美咲に恨まれているだなんて思ってもみなかった。



私が生んだ、怪物だ。



私さえ、いなければ……



私さえいなければ、レンアイ放送が起こることも、榊原が死ぬことも、あげはちゃんやゆりちゃんが死ぬこともなかったのに……




「もう、十分苦しんだよ……

お願いだから、殺してよ……

私を解放してよ……」




腰の力が抜けて、

私はその場に座り込んだ。



こんな気持ちを抱えて、

この先の人生を生きていけるはずがない。



早く死んでしまいたい。



私の心は、そればかりだった。




「……いいよ、殺してあげる。

その代わり、場所を変えよう。

エンディングにふさわしい場所にね。」




そう言って美咲は、

私にナイフを手渡した。


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