第44話
「私はこの学校にも裏口で入ったし、前に言った彼氏も、あの人が連れてきた婚約者のこと。私はあの人の思い通りに生きてきた。」
まあ、筋金入りの金持ちって訳ね、
なんて言って美咲は自虐的に笑った。
けれど、私は全然笑えなかった。
理事長の娘だということも、
大きい会社の社長令嬢だということも、
彼氏が婚約者だということも。
何も知らなかったから。
高校受験の日も、電車の中でお互いに問題を出し合ったりして、真剣に挑んだはずだったのに。
まさか最初から合格が決まっていた裏口入学だなんて。
一緒に志望校に悩んだ日々も、
一緒に勉強をした日々も、
あれは全部嘘だったのだ。
親友のはずなのに、どうしてこんなにも知らないことばかりなのだろう。
私はずっと、ずっとずっと、
騙されていたんだ。
美咲への怒りが込み上げてきた。
それでも私はまだ何も言えなかった。
黙って、美咲の話を聞き続けた。
「だから、その権力を駆使して、
このレンアイ放送を実行したの。
サイトの作成と管理は太一。
あと生徒のスマホをハッキングしてそれぞれの好きな人を調べ上げたのも太一。
殺し役は下請け会社の社員。
都市伝説のチャット掲示板を作ったのもその社員たち。
サイトの更新や殺し役への伝達は全てこの学校の教師たちに。
そして私が教室にいる間の放送はあの人に任せた。
その役割分担をしたのも全部私。
あっ、ちなみに上履きにGPSや盗聴器を仕込んだのも教師たちだよ。愛する生徒よりも自己保身の方が大事みたいだね?」
そう言われて上履きの裏を見ると、
確かに小さなチップが仕込んであった。
一番生地の厚いところを破れば、
薄型の機械が飛び出してくる。
いつも確実にターゲットの近くに現れるとは思っていたけど、こういうカラクリだったのか。
私たちの会話を聞いているような間の放送も、全て狙い通りだったのだ。
「そんな……」
「みんなそうだよ。下請け会社の社員も教師たちも、逆らえばクビにするって言えばみんな従ってくれたの。仕事を失うってことは家族を殺すことと同じだしね。
家族が死ぬよりは、見知らぬ誰かを数百人殺す方が良いって思ったんじゃない?」
人間って愚かだよね~と言って笑う美咲に、とてつもない怒りが込み上げてきた。
そんな大勢の人生を潰して笑っていられるなんて、正気じゃない。
こんなことに、罪のない人たちを脅して巻き込むだなんて……
「あんた……あんたどうかしてるよ!!」
勢いよく胸ぐらをつかんで迫っても、
美咲は一切笑顔を崩さなかった。
「なんで、なんで笑ってられるの……」
私の呟きに、美咲はフッと笑う。
「みんな不幸になればいいのよ、恋に溺れる人間は、みんな愚かに死ねばいい!」
そう言って、
美咲は私を勢いよく突き飛ばした。
あまりの勢いに、
思わず放送室の壁に頭をぶつける。
机に置かれたローズヒップティーがひっくり返り、机の上に血の海を描いた。
「責めるなら私じゃなくてあいつを責めなよ!あいつが協力しなきゃ成り立たなかったんだから!娘の間違いを正せないあいつが一番悪いに決まってるじゃない!」
美咲が指を指してあいつと呼んだのは、
椅子に縛られた理事長だった。
「理事長……?」
「っ……!」
私の視線に、悔しそうに目を逸らす。
本当に苦しそうな眼をしていた。
「なんで、なんでこんなこと……」
「それは……っ、」
「はっきり言いなよ!自分の口でさ!」
口ごもる理事長を美咲が怒鳴りつける。
娘が相手だというのに、
理事長はすっかり委縮してしまっていた。
「私が……」
理事長の言葉にごくりと唾を飲む。
「私が、幹夫くんを殺したんだ……」
「……え?」
理事長の口から出た
「殺した」という言葉。
にわかには信じられない、
衝撃の言葉だった。
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