第25話

私は、そのレンアイ履歴というサイトを開いたまま、画面をひとつ戻して「安藤美咲」の名前をタップする。



すると、画面が真っ暗になりメールアプリが落ちてしまった。



もう一度サイトを開きなおしても、美咲の名前を押すとサーバーが落ちてしまう。




アクセス過多でサーバーがダウンしたのだろうか。



けれど、2階の廊下には誰もいないというのに、サーバーがダウンするほどの人数がこのサイトを見ているとも思えない。




不安だけが胸の中を占領した。



美咲は、死んだのかもしれない。



そんなことが頭をよぎる。




……嫌だ、嫌だ。



そんなわけない。



私の嫌な予感はやけに当たるんだ。



変なことを想像して、

それが現実になってしまうと困る。




大丈夫、美咲は待っててくれている。



不安になるのは美咲のためにもならない。



美咲は、私が生きることを望んでくれているのだから、今はそれだけ考えていよう。




そう信じて、私はスマホを閉じて

保健室へと向かった。






保健室にはもちろん誰もおらず、

白い机に陽射しが反射して、

部屋全体が淡く白く輝いていた。



私は目を細めながら部屋の奥に行き、

その辺にある引き出しを適当に漁って

下着を探し出した。



封が切られぬまま放置された新品の下着は案外あっさりと見つかり、私はそれを持ってベッドへと向かう。



万が一、人が来て着替えを見られると恥ずかしい。



こんな状況でも私の羞恥心は正常に働いているようだった。




引き出しの反対側にあるベッドに移動すると、三つあるうちの一つのカーテンが閉ざされていた。



その一つのベッドだけが、

何か異質な空気を放っている。




私以外、誰もいないはずなのに。



もしかして、このカーテンの向こうに誰かいるのだろうか……





期待に近い不安を抱えながら、私は恐る恐るカーテンを開けた。




すると、そこには一人の女子生徒が横たわっていた。




ベッド脇に置かれた上履きの色は、

1年生を指す青色だ。



栗色の艶やかな髪が印象的で、

目を瞑っていても分かるほどに

目と眉の間隔が狭い。



スッと通った鼻筋が綺麗で、

薄い唇も美しい完璧な美少女だった。




「あのぉ……」




恐る恐る声をかけるが、反応はない。



陶器のように真っ白な肌のせいで、

死んでいるのかと思うほどだ。



微かに揺れる胸元で息を確認して、

今度は肩をぽんぽんと叩く。




「ねえ、大丈夫?」




それと同時に声をかけると、

その1年生は大きな目をカッと見開いて、

勢いよく上半身を起き上がらせた。



そして私をじっと見つめ、私の手に握られた包丁を見つけて息を詰まらせる。



怯える顔も、美しかった。




「いやっ!!来ないで!!」




悲鳴に近しい声に驚いた私は、

思わず包丁を手から滑り落してしまう。



それを見て、その1年生はもう一度私を突き飛ばし、床に落ちた包丁を奪った。




「来ないで!人殺し!!」




その言葉を聞いて、やっと自分が恐れられている理由に気が付いた。



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