ネットオークション探偵なんて怪しげな存在に、いつの間にかなっていた俺

比木古 盛夫

第1話 懐かしい声

ブー、ブーと短く2回、机の上の携帯が鳴る。

携帯に線を送ると2回で鳴り終わった。

電話ではなく通知のようだが、なにかのメールだろうか?

ただ今は土曜日の午後9時をまわったあたり、あまりメールが来るような時間帯ではない。

恥ずかしながら俺にくるメールはほとんどがメルマガの類、夜も更けた時間には送ったりはしない。

とりあえず携帯を手に取る、画面にはメッセージアプリの通知が表示されていた。

メッセージアプリ?そもそも俺はメッセージアプリをあまり使わない残念な男子なのに。

このアプリもバイト先で連絡を取るからと無理やり入れさせられたものだ。

バイト先でトラブったか?バイト先にはリモートでログインできるから行く必要はないが、これから作業だと思うと気が重い。

携帯を確認すると、そこには”深見 沙織”という文字があった。

「沙織?、なんで?」意外な名前、中学・高校・大学と同じ学校という珍しい間柄だ。

彼女とはもう一年以上も話していないはずだが。

画面のロックを解除して通知をタップする。するとメッセージアプリが起動されて本文が表示される

<Saori:今いい?

俺はというとちょうどネットラジオを聞いていたところ、特に片付けなきゃいけない用事もない。

携帯に短く返信を打ち込む

<Hiroki:いいけど、何?

時間を改めて確認する、楽しみにしていたネットラジオまで15分というところか。俺はその場組のいわゆる”待機”の最中だったのだ、

「あの番組までになんとかなるがろうか?」

その番組は双子の女性声優が特撮番組について熱く語り合うもの。俺は特に特撮が好きという訳ではないが、彼女たちの熱い語りが面白くて楽しみにしている。

また双子の二人が普通にしゃべるため、一体どっちがしゃべっているのかわからなくなるという不親切でシュールなラジオ番組となっている。

たまに「これは姉の方で」とわかることがあるが、とにかく関西弁で早口なのでどちらがしゃべっているかまったくわからない。ただ特撮が好きな情熱が伝わってきてほほえましくなる番組なのだ。

そんなことを考えていると携帯がまたブーとなる。

<Saori:ちょっと相談にのってほしいの

ますます思い当たらない。

「相談?何の?恋愛相談なんて俺にされても・・・」

21年生きてきたが、彼女がいたことなど1日もないない。

ゲームと声優オタクに堕ちてもうそうとう経つ男だぞ。

それに比べて沙織の方は・・・。

萎えそうな気持を抑えつつ文字を打つ。

<Hiroki:ぼくにできることなら

いかん、気持ちが暗くなってきた。ネットラジオの配信開始が気になる。

だいたいメッセージアプリのやり取りは時間がかかってしょうがない。

相談事にもよるが、たいてい終わる時間が全く読めない

まったく、リアルな女にはかかわるとろくなことはない。

また携帯が鳴る、今度は着信だった。

ヤバイ、緊張してきた、すこし震える手で通話ボタンを押して携帯を顔に構える。

耳に懐かしい声が響いた

「久しぶりだね、今日はごめんね」

声を聞くと彼女の顔がよみがえってくる。そこには控えめに笑う彼女の姿があった。

さて今日の番組はタイムシフトになるか、俺の中で行動の優先度が変わった。

「ああ、久しぶり」

一応の挨拶を返したあと、続けた。

「どうした?」

「ありがと、えーと相談なんだけど」

沙織も緊張してる?まさかね、彼女に限って。

「母がね、ネットオークションでお買い物したんだけど」

なんだそっちの方面か、これなら力になれるかもしれない。

「なんか、変なことになって」

不安そうに沙織が続ける。

「それで?」

トラブルの内容を聞きたくなる

「えーとね」

「品物が届かなかったとか?」

説明が始まらないので、こちらからふってみる。

「ううん、品物は一応、届いたんだけど」

いわゆるオークション詐欺ということではなさそうだ

「知らないとところから送られてきてね」

「”みっつリーン”から届いたとか?」

「えっ、そうなの」

沙織はちょっと驚いていたようだった

これは、ネットオークションあるあるで、いわゆるドロップシッピングをされたのだろう。

「品物が届いたのなら、納得するしかないな」

ドロップシッピング自体に違法性はない、値段に納得できるかできないの問題が残るだけだ。

「それが、頼んだものと違うものがきたの」

それはめんどくさいかもしれない。騙すつもりはなくて間違って出品した可能性もある。

「出品者の人には連絡したんだよね?」

とあえずの解決方法はこれしかない

「したんだけど、何も連絡がないって」

だいたい問題は把握できた。あとは調べるだけ

「オークションID教えてくれる?、”×オク”でしょ」

「そうだけど、どうして?」

”×オク”とはExtreamJapanが運営するネットオークションでオークションといえば”×オク”といわれる。問題も多いだ出品数、取扱額もトップなはず。

いま、ドロップシッピングが盛んなのもここだ。

「だいたいわかるよ、まずオークションのページが見たい。それとやり取りの内容も」

「さすがに電話ではちょっと」

早すぎて沙織も困ってしまったようだ。一呼吸おいて

「ねえ、明日とか時間ある?」

「大丈夫だけど」

明日は珍しく推し声優さんのイベントはない、一日フリーなはず

「いろいろと見ながらの方がいいと思うの」

きっとそっちの方が早いだろう。

「じゃ、明日。時間は?」

こっちはいつでもいいので時間はそっちで決めてもらう。

「午後がいいな」

遠慮がちに沙織がいう。

「それじゃ1時で」

「うん、わかった」

あとは場所か、どうする。

「中学校の近くの”カメダ”でいい?」

二人の家の中間くらいにある喫茶店を告げた。

をあそこなら電源が取れる席もあったし、なによりWiFiが使えっる

「えっ、うーんと」

なにやら間があく、”カメダ”でダメな理由は思いつかない。

さすがに沙織の家にお邪魔する訳にはいかんだろ、。

「うん、いいよ」

あれ、なんか残寝そうな返事

「じゃ、明日一時に”カメダ”で」

「はい、よろしくお願いします」

電話を切る、沙織と久しぶりに会う緊張感が半端ない

それでもトラブルの内容について興味がわいてきた。

電話はネットラジオが始まる前に終わっていたが、その日の番組はあまり記憶に残らなかった。

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