第1話:どういうことでしょうか? レディル様?

 


 サージェルタ王国、王城。

 ライツ・ルザハーツが救世主の少女を連れてルザハーツ領へ帰ったその日の夕刻。

 異世界召喚の知らせを受け、アレンジア領から馬車で駆けつけたルーシェ・アレンジアが登城した。


「ルーシェ!」

 玉座の間。

 国王ランドルフ・フォル・サージェルタに挨拶をすませたばかりのルーシェの元に、王太子レディル・フォル・サージェルタが姿を見せた。

 婚約者であるレディルを視界に入れたルーシェの顔が微かに顰められる。

 ルーシェはここに到着した時点で、王城にいるアレンジア家の手の者から報告を受けていた。

 異世界から召喚された救世主の少女にレディルが暴言を吐き、救世主の不興を買ったということを。

 そして、そのせいで救世主が姿を消し、未だに行方不明のままだということを。

 実際は行方不明だった救世主はライツが見つけ出していたので、未だ行方不明というのは嘘だ。

 しかし国王はライツに言われた(脅された)通り、救世主の居場所を公にしていない。

 現在、表向き救世主に関して箝口令が敷かれた状態だ。

「・・・・・・ルー」

 レディルは不機嫌なルーシェの表情に気づき足を止めた。

 そんな二人を見て国王が声をかける。

「レディル。国の非常事態というべきこの時だからこそ、王太子として婚約者と二人きりで話さなければならないこともあるだろう」

「・・・・・・はい。ありがとうございます、父上」

 今は王太子の仕事よりも婚約者へのいいわけを優先して来いということだ。

 一礼したレディルはルーシェへと近づき左腕を差し出した。

 ルーシェは無言でその腕を取り、レディルのエスコートで二人は退場していった。


 無言のまま防音の魔道具が置かれた部屋に入室した二人。

 扉が閉ざされるとすぐに手を離したルーシェがレディルへと腕を伸ばした。

 閉じた扇子の先端がレディルの顔の正面でピタリと止まる。

「・・・・・・どういうことでしょうか? レディル様?」

 ルーシェに見つめられたレディルは、気まずげな顔で一歩後退した。

「・・・・・・ルーシェ」

「二日前、初代国王であるロベリル様が禁止としていた異世界召還がこの王城の神殿で行われ、異世界から新たな救世主様が召喚されたと聞きました」

「・・・・・・そうだ」

「召喚された救世主様は、わたくしたちと同じくらいの若い女性だったとか?」

「そ、そうだ」

「そうですか。・・・・・・では、その救世主様にレディル様が暴言を吐き、怒った救世主様が姿を隠されたという話も・・・・・・本当ですの?」

 威圧的なルーシェの眼差しに、もう一歩後退したレディルがゴクリと喉を鳴らした。



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