Uターン就職の決め手

司波和人

Uターンの決め手

私は、就活最中に、故郷にある設計事務所にUターン就職をすることに決めた。


 今年の四月から新社会人となる。勤務先は、故郷にある組織設計事務所である。いわゆるUターンというやつである。

 私の父が、建材店で務めていることもあり、建築には、比較的なじみがあった。時々、仕事を家に持ち帰り、図面などを見ながら残業をする姿や工事現場で働く姿を見る機会が多く、いつしか、そんな父の姿に憧れを抱くようになり、自分も建築業界を志そうと決めた。大学3年生のインターンシップに、何社か参加させていただき、自分の進路について考えた。


「故郷に戻るか、今いる場所で就職するか、はたまた、都会で働くか。」


 アベノミクスとオリンピック景気の影響で建築業界が、常に人手不足となり、就活生にとっては、有利になっていた。しかし、私は、建築業界では、「意匠設計」、すなわち設計士さんになりたいと考えていた。

実は、設計事務所の採用人数は、ゼネコンに比べて極端に採用人数が少なく、Uターンで地元の設計事務所に就職しようとしても、採用をして下さる事務所が少ないという現状があった。ため、あまり有利とは、考えられなかった。インターンシップで、受け入れて下さった会社は、幸運にも、どの設計事務所も新卒を増やしていくという方針であったことから、就活も、それらの会社から選ぶことにした。ここで、懸念していたことがある。それは、「地元の設計事務所の給料の少なさ」である。

 全般的に、どの設計事務所も、給料は低い。特に地方に行けば、なおさらである。ここで、私は、給料をとるか、やりがいをとるか天秤にかけることにした。

 やりがいというのは、「建築を通して、地域貢献をしたい」という気持ちである。父の後ろ姿に憧れて建築の道に行くことを決めたのだが、この気持ちを、私に抱かせた建築がある。その建築は、「日土小学校」である。1956年及び1958年に後者が建築され、2009年に保存改修工事が行われ、未だに地域の人々から親しまれている校舎に見学に訪れた。その時に感じたことは、建築が地域に溶け込み、建築が、地域貢献を果たしているというのは、こう言うことなのかということであった。これを目の当たりにした私は、いつかこのような建築を設計し、自分の故郷に少しでも、恩返しをしたいと考えた。


 この気持ちと金銭的なことを天秤にかけたのである。


 色々考えたが、やはり、やりがいを優先したいという気持ちが勝った。また、インターンシップ先の設計事務所の社長に、「地元で建築設計をしたいと考えているなら大歓迎だよ」という言葉も、判断の後押しになった。さらに、この設計事務所が、人手不足であり、採用してくれるだろうという打算も多少あったが、建築で地域貢献をしたいという気持ちがあることは、嘘偽りのない本心である。勿論、これから、1級建築士の資格勉強をしなければならないし、下積みも経験しなければならない。しかし、何年かたった時に、このUターンしてよかったと言えるぐらいに頑張って仕事に取り組んでいきたいと感じている。

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