4 私を好きにならないで
7/9 書けない 1
昨晩、夜更かしでもしたのかな。
ただでさえ居眠りの多いオオタキが、今日は一時間目から突っ伏していた。
昼休みになっても起きなくて、良い機会だなという気がしたのでオオタキの前に立って寝てる顔を拝んでみた。右腕を曲げて枕にして、左手は前へ伸びている。昼休みの教室は騒がしくて聞こえづらかったけど、僅かにすぅすぅと健やかな寝息が聞こえてきた。可愛い顔の横には、栞の挟まれていない文庫本が置かれていた。
余りにも幸せそうに寝てたもんだから起こすのも可哀そうになり、背中を眺めながら一人でご飯を食べることにした。そうしていると、フジワラとアサハラが寝てるオオタキに近づいてきて、頬を叩いたり耳に息を吹いたりしていた。
おい、なに楽しそうなことしてんだ。私も混ぜろよ。
んがぁ、やめろぉー、と身体を起こして手をぶんぶん振ってるオオタキが可愛かった。ハハハと高笑いしながら、フジワラとアサハラが手を繋いで教室を出ていく。
後姿を見て、ウザいなぁ、アイツらと思う。
小学生の頃からそうだ。二人とも意地悪と言うか、仲のいい子に対してちょっかいを出したがるタイプで、似たようなことを私も結構な頻度でされていた覚えがある。
「おはよう、オオタキ」
「もう。なんなんだよ、あの二人は」
ぶつぶつ言いながらも、顔は少し笑っていた。
その愛らしい彼女の笑みを視界に収めれば、ずき、と胸の奥に痛みが起きる。
「オガワ? どこ見てんの?」
「……んーん、べつに」
はぐらかす。
私と違って、きっと彼女には友達がたくさんいる。あの鬱陶しい幼馴染との確執だってもう、済んだ話になった。本人はそのことをまだ、知らないかもしれないが。モミジさんが既にオオタキに何か話している可能性だってある。
だけど、もしそうなればオオタキから私へ何かしらのアクションを仕掛けてくるはずだ、と思って。
知らないふりをして、脚を止める。
それを知ってほしくない、というのも、自分の性格の悪さが露呈するみたいで。
本当、嫌になる。
思っていることと実際にやっていることに、あまりにも差異があった。こんなこと考えたくないし、したくないのに。オオタキと一緒に居ると、こうして顔を合わせていると。私が、私ではないものになっていくような気がする。
奥底で圧し殺さなきゃいけない気持ちや言葉が、それらを堰き止める壁にヒビでも入ってしまったみたいに、少しずつ、だけど確かに漏れ出ているように感じる。
オオタキのことを想って指が綴るのは、今じゃこんな言葉ばかりで。
この日記を書き始めた当時の私は、何を考えていたんだろう。
読み返してみても、ただただ気持ち悪いだけだ。
乱雑な文字を描く思考は掴めない。
私は、変わってしまったんだなと思う。
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